Bernhardt/Hamlet ベルナール / ハムレット(上演終了)

Bernhardt/Hamlet
ベルナール / ハムレット(上演終了)

演劇 ブロードウェイ
Bernhardt/Hamlet
ベルナール / ハムレット(上演終了)
Bernhardt/Hamlet ベルナール / ハムレット(上演終了)

フランスの大女優サラ・ベルナール/Sarah Bernhardtが、シェークスピアの『ハムレット』のタイトルロールに挑戦する背景にあったその苦悩と強い意志を描いた作品。サラ・ベルナールはフランスで生まれ、1800年代の後半に世界5大陸を股にかけて活躍したユダヤ系の実存した大女優だ。舞台は1899年。フランスのサラ・ベルナール自ら運営している劇団で『ハムレット』のリハーサルが行われている。当時55歳のサラは、21歳の男子ハムレットを演じることを決心したのだ。

あらすじ&コメント

それは同戯曲でオフィーリアやガートルード役を演じすでに名声を博した大女優が、世界中が男性社会だった時代に敢えて取る必要などないリスクだった。しかも彼女は金遣いが派手でお金も必要だった為、このハムレットへの挑戦で失敗は許されなかった。しかし彼女は女としてではなく、一人の人間として舞台に立ちたかった。自分は男性に劣らない能力があるにもかかわらず、何故男性の創り出す理想像の女性だけを演じ続けなければならないのかと、問いかける。男性の創り出す理想像の女性は美しいが、あくまでも受け身で、彼女から見れば頭はそれほどいいとは思えない女ばかりだ。同時にハムレットは若いのに、その役を演じることが出来るベテラン男優は若くない。自分なら若い男性に見えるし、彼らが演じえない真実に近いハムレットを)描けるはずだと訴える。強気で我の強い女性は批判され、ともすれば気が変になったかのような扱いをされた。時代に生きたサラにとって、ハムレットを演じて成功を収めることは、女性という枠を超え「一人の人間として認められたい」という自己実現への渇望だった。彼女は、フランスの戯曲作家であり彼女の愛人でもあるエドモン・ロスタンに、『ハムレット』を書きなおしてくれと頼む。世界が平伏すシェークスピアの名作を書き換えるという不可能な依頼に悩み続けるエドモン。時期を同じくして書いていた『シラノ・ド・ベルジュラック』のロクサーヌをサラに演じてほしいと望んでいるが、サラは、ロクサーヌはあなたの中にあるあくまでもあなたの女の理想像で、男の引き立て役であり「それは私じゃない」と愛する彼と別れてしまう。別々の道を歩み始めたエドモンとセラは、それぞれ『シラノ・ド・ベルジュラック』と『ハムレット』で大成功を収めるのだった。

当時アール・ヌーヴォー派のアーティストとして一世を風靡し、日本では今もファンの多いアルフォンス・ミュシャ/ Alphonse Muchaも登場してくる。サラの舞台のポスターを描いてきたミュシャは、女性を美しく見せることに全てをかけてきた。今、ハムレットとして男装した人は描けない!と悩む脇筋も面白い。

本編では触れられないが、実際に彼女の『ハムレット』はフランスで12回上演され、イギリスにも渡り、アメリカのストラトフォード(コネチカット州)でも上演さるなど大成功を収めた。24歳年下で既婚していたエドモン・ロスタンと実際に愛人関係にあったかどうかはわからない。しかしサラは人気絶頂の時(ハムレットを演じる以前)にロスタンの作品『遙かなる姫君/La Princess Lointaine』に出演している。その作品が失敗に終わったことでロスタンは鬱になったそうだが、サラは彼の才能を信頼し続けていたらしい。サラが多様な男性と愛人関係があったことを考えると、二人も愛人であった可能性は高い。

作者は2011年にニューズウィーク誌で「恐れを知らない女性150人」に選ばれたテレサ・レベック/Theresa Rebeck。第1幕はサラ・ベルナールの人柄や彼女の人間関係を紹介するのに時間を取っているが、第2幕からは作品の本質にグイグイと入っていき、観客は一気にその勢いに引き込まれてしまう。第2幕の後半で、エドモンの率いる『シラノ・ド・ベルジュラック』の舞台の場面が出てくるのだが、その意味はあまりはっきりしない。
照明は、ブロードウェイで上演されたミュージカル『Natasha, Pierre & The Great comet of 1812/ナターシャ、ピエール&1812年の大彗星』 でトニー賞を受賞したブラッドレイ・キング/ Bradley King。サラ・ベルナール役は20年前から映画や舞台やテレビで活躍してきたイギリスのベテラン女優で、身長が184cmもあるジャネット・マクティア/Janet McTeer。
彼女は『人形の家(リバイバル)』 でトニー賞で主演女優賞をを獲得しており、今回も伝説的な女優サラ・ベルナールを見事に演じている。アルフォンス・ミュシャ/ Alphonse Mucha役は(+ミュージカル)『(ハネムーン・イン・ベガス/Honeymoon in Vegas)にも出演していたマシュー・サルディバル/ Matthew Saldivar。

サラ・ベルナールの愛人エドモン・ロスタン/Edmond Rostandを演じるジェイソン・バトラー・ハーナー/Jason Butler Harnerは2010年から大きな舞台でも活躍するようになったアメリカ人男優で、ブロードウェイでは『コースト・オブ・ユートピア 〜ユートピアの岸へ〜/The Coast of Utopia』などに出演している。その仕草はケビン・クラインを思い出させるが、強い女性の愛人としてともすればダメ男っぽくなってしまうところを、繊細ながら個性のある男らしさを秘めた雰囲気を醸し出している。

最後に日本人にはあまり知られていないサラ・ベルナールだが、欧米諸国では知識人なら知らぬ人はいない大女優なので、彼女の経歴を参考にまで書いておく。

1844 フランスで高級売春婦をしていた母親から生まれる。貧しい家庭で育ち、寄宿学校、修道院に送られる。

16歳の時、母親の恋人(叔母の愛人という説もある)の公爵に演劇をするべきだと勧められ、パリのコンセルヴァトワール(芸術・音楽学校)へ入学。

18歳でフランスを代表する王立の(後に国立)劇団コメディ・フランセーズ/Comédie-Françaiseに入団する。ところが妹に過度に尊大な態度をとった劇団員を平手打ちした為、1年で契約を打ち切られる。その後ジムナーズ座で雇われるが短期で辞めて放浪する。その間に未婚で子供をもうける。後にギリシャ人の退役軍人経験の俳優と結婚するも、その結婚生活は長くは続かず、その後も多く愛人を持つ。

1866年 22歳でオデオン座と契約をし、高い評価を受ける。
1870年 普仏戦争(仏独戦争)が起こり、彼女はオデオン座内に軍人病院を設置する。

戦後 オデオン座は再開。彼女は多くの戯曲を演じ、高い評価を受ける。
1872年 劇団コメディ・フランセーズに呼び戻される。
1880年 自ら劇団を創立し独立。国際的なツアー公演を開始。
1899年 ハムレットを演じさらに人気を高める。
1905年 アフリカにツアー中、舞台で右膝を怪我。
1915年 怪我が悪化して骨結核を起こし、壊疽したため切断手術。
その後も片足で舞台に出続け精力的に活動した。
1923年 79歳で死去。

メディア評

NY Times: 9
Wall Street Journal: 5
Variety : 8

American Airlines Theater
227 W. 42nd St.

上演時間:2時間20分(15分の休憩含む)

閉演予定:11月11日2018年

舞台セット ★★★★★
衣装 ★★★☆☆
照明 ★★★★☆
総合 ★★★★★

Photo by Joan Marcus, 2018

Photo by Joan Marcus, 2018

Photo by Joan Marcus, 2018

Photo by Joan Marcus, 2018

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