Hadestown ハデスタウン

Hadestown
ハデスタウン

ミュージカル ブロードウェイ
Hadestown
ハデスタウン
Hadestown ハデスタウン

『ハデスタウン』(発音:ヘイディーズタウン)は冥界の神ハデスに纏わる2つのギリシャ神話を紡ぎ合わせ、それを大恐慌後を思わせる時代設定に投影して脚色されたミュージカル作品。当初、2006年にバーモント州のある劇場のプロジェクトとして制作された。それがミュージカル化され、2016年にオフで上演され、2018年のロンドンのナショナル・シアターでの公演中にブロードウェイ公演が決まったという事だ。シンガーソングライターのアナイス・ミッチェルによって書かれ、曲風はフォーク・ポップにソウルミュージックが混ざっており、演出家のレイチェル・チャフキンの力量にも助けられ、今までに無い新しいスタイルのミュージカルに仕上がっている。

あらすじ&コメント

舞台セットは、昔のアメリカ南部の富豪の屋敷を改造したニューオリンズを思い出させる様なバー。そのバーを仕切るのは、神々の伝令使でゼウスの使いと言われるヘルメス(アンドレ・デ・シールズ)という名で、ストーリーの進行役も務める。50年の俳優/演出/作家/振り付けという経歴を持つ73歳の大ベテランのシールズの存在感は際立っている。言葉を発せずともその目の瞬き一つ、指の仕草一つで客を唸らせる様な雰囲気を持っている。 体から放たれるエネルギーとその声の張りは、老人とはとても思えない。ステージの右と左はそれぞれ段になっていて3人づつミュージシャンが座っている。ステージ・センターにはテーブルが置かれ、後ろにはドラマーが控えているがテクニックが素晴らしい。そのバーには生バンドだけでなく3人の女性コーラスもいるが、運命の三女神であり、そのアカペラの迫力も必聴に値する。そこでギターの弾き語りをしながらウェイターとして働くのは、神話では吟遊詩人で美しい曲を奏でたとして知られるオルフェウスで、ミュージカル『スパイダーマン』でピーター役を務めた裏声の美しいリーヴ・カーニーが演じる。そのバーには秋になると、工業街ハデスタウンから電車に乗ってペルセポネ(アンバー・ グレイ)が遊びにくる。彼女の夫は鉱山を持ち、地下奥深くから石炭を掘り起こして富を手にしたハデス(パトリック・ペイジ)だ。ステージ奥には 螺旋階段があり、2階部屋に続いている。冥府の王ハデスはいつもそこから出てくる。そしてその部屋に入れるのは、ハデスのゲストだけだ。ハデスは若い頃、神ゼウスの娘のペルセポネに恋して、彼女を地の底の世界に連れ去った。しかしペルセポネは彼女の母の計らいで、毎年半年間を地上で過ごすことを許される。ある日、そのバーにある日オルフェウスがエウリュディケ(発音は「ユリディシィ」が近い )がやってくる。神話の中オルフェウスが一目で恋してしまうと言うエウリュディケ役は、最近のブロードウェイでリバイバルされたミュージカル『ミス・サイゴン』で主演を演じたエヴァ・ノブレザダ。オルフェウスは寒い風を怖がる彼女に、暖かい愛情を降り注ぐ。二人はどんな困難が立ちはだかったとしても、ずっと一緒にいることを誓う。しかし彼は世界を春にさせる歌を書くことに夢中で、寒い季節の到来に気がつかない。エウリュディケは腹を空かせて、嵐の中食べ物を探しに外に出て行く。

秋が来て、お酒に酔いしれて楽しく夏を過ごしたペルセポネは、ハデスタウン行きの電車に乗って夫の元へ帰っていく。ハデスはもう昔の様に、私を愛に溢れた目で見つめてくれない、と感じるペルセポネ。一方でハデスは、毎年春になると居なくなってしまうペルセポネの帰りを待つことに疲れていた。ハデスが気晴らしにと地上に出てくると、嵐の中を彷徨うエウリュディケの姿が目に留まる。「私の街に来れば、空腹などない」と彼女を誘い、電車の切符を手渡す。しかしその手にはガラガラ蛇がいて、エウリュディケは電車の切符に手を伸ばしてその蛇に噛まれ苦しみ、そのまま冥界の王が君臨するハデスタウン行きの電車に乗ってしまう。オルフェウスは、漸くエウリュディケが居ないことに気づき、ヘルメスの指南に従って自分の足でハデスタウンまでの長い道のりを歩いて行く。やっとの思いで地の底で坑夫として働くエウリュディケを見つけて彼女を連れ出そうとするオルフェウスに、ハデスは すでに彼女が法的に彼の所有物となっていることを告げる。失意の中でオルフェウスは春の唄を完成させる。その唄には昔ハデスが恋するペルセポネに捧げた歌のメロディーも含まれていた。若く純粋だった自分を思い出したハデスの心は、オルフェウスの想いに心が揺らいだ。しかし運命の三女神は彼が陥ったジレンマを歌う。エウリュディケを簡単に手放せば、他の坑夫をコントロールする権威は失われてしまうわと。そこでハデスは条件を出し、二人の運命をオルフェウスの手に委ねる。「君たちは一緒に立ち去ることができるが、オルフェウスが先頭になって歩いて行かなければならない。もしエウリュディケが後ろからついて来ているかを確かめようと、一瞬でも振り向いたのなら、彼女は二度と地上に戻れなくなる」と伝える。2人は地上へ続く長く暗い道を歩き始める。次第にオルフェウスは疑いにかられ始める。僕みたいに貧乏で歌以外何も与えることができない男を、本当に彼女は信頼してついて来てくれるだろうか? 何時間も一人で歩くうちに、その疑いは次第に大きくなり、エウリュディケの気配も感じられない。そして地上も近いところで、彼はとうとう振り返ってしまい、そこに居たエウリュディケは永遠にハデスのものになってしまう。
悲劇的な最後だが、カーテン・コールでは出演者が並んでワインをカップに注ぎあいながら、オルフェイスの為に歌おう。暗い夜に歌う鳥や、寒い冬に花を咲かせようとする人々に、乾杯しよう と笑顔で歌い、明るい雰囲気になって終わる。

ストーリーのアイデアも、曲のスタイルも新鮮でワクワクさせられる。キャスティングもここまで全て全員がピッタリとはまった作品には滅多に出会えないと言える。 ハデスの  壁を作るんだ。富を狙う敵を入れない為に  という歌詞の曲は、現実に在る政策を批判をしているのがあからさま過ぎると思ったが、驚いたことにアナイス・ミッチェルが2010年にリリースしたアルバムに含まれていた。 詩を聞いている様な、夢を見ている様な雰囲気の中で綴られるギリシャの神々の物語は、斬新で神秘的だ。最近は映画の舞台化や世に知られている名作を別物に仕上げるなど、リスクを避ける傾向の多いブロードウェイにおいて、これだけ新しいスタイルの作品を一から10年以上かけて大事に育て上げてきた創作チームに拍手を送りたい。
4/24/2019

Walter Kerr Theater
219 W. 48th St

上演時間:2時間30分(15分の休憩一回)

舞台セット:10
作詞作曲:9
振り付け:9
衣装:9
照明:9
総合:9

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