Sea Wall/A Life シー・ウォール/ライフ

Sea Wall/A Life
シー・ウォール/ライフ

オフ・ブロードウェイ
Sea Wall/A Life
シー・ウォール/ライフ
Sea Wall/A Life シー・ウォール/ライフ

生と死をテーマに、それぞれ1人の俳優のモノローグ(独白形式)による独立した2つの作品が、休憩を挟んで上演される。『Sea Wall(海崖)』は33歳のトム・スターリッジが、そして『A Life』 は38歳のジェイク・ジレンホールが素晴らしい演技を見せてくれる。特にジェイク・ジレンホールは、『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞にノミネートされており、日本にファンも多い。

あらすじ&コメント

『Sea Wall(海崖)/シー・ウォール』

アレックス(トム・スターリッジ)は、まだ観客が全員座る前から、知らぬ間にステージに出てきて床に座る。その後も芝居が始まるまで、2箇所ほど場所を移し自然体で座っている。そして「普通に座っているように見えるかも知れないけれど、僕の胸には大きな穴が空いている」というセリフから始まる。その後、クレッシェンドで悲劇が起こるまで、緊張感を保ってのモノローグが続く。

(ネタバレあり)家族関係が複雑な家庭に育ったアレックスは、あまり幸せを感じることがなかった。しかし、そんな彼を理解してくれる女性と結婚し娘が生まれて、二人の無制限な愛情に、彼の傷ついた心は少しづつ癒されていった。海辺に住む義父とは仲が良いわけではなかったが、スキューバでSea Wall(海崖)の潜りを教えてもらう。何度も一緒に海の神秘を経験することで、次第に義父に心を開く様になり、彼を信頼していく様になる。ある夏、アレックスは南仏の島に家族と義父を連れて旅行に行く。妻は宿で休み、まだ小さい娘と義父と3人で海辺に出た。義父がひと泳ぎして浜辺に戻り「素晴らしい水だ。僕がここにいるから泳いでこいよ」と言う。義父と娘を浜辺に残し、海に泳ぎに出たアレックス。義父は浜辺で本を読み始め、孫から目を離した隙に、彼女は浜辺の岩の上に登り重心を失って転げ落ち、下の岩で頭を打つ。南フランスの美しい海辺の太陽の輝く景色、そこで幼い娘を一瞬にして襲った惨事との対比は観客の胸を苦しくさせる。それを語るトム・スターリッジからドロドロと流れ出る、怒りと悔しさと恨みが凄まじい。

『A Life/ライフ』

「妊娠した、と告げられた時、僕はチキンをローストしていたんだ」と突拍子もないコメディー調で始まる。父親になるという得意な気持ちと同時に、父親になるなんて無理、と恐れをなすエイブ。一方、数年前から心臓の病気で衰えていく大好きな父親。彼がお手洗いに行くのを手伝いながら、「こんなにも脆弱な父親を見たことはなかった。小さくて、ぜいぜいと声を出し、歩くこともおぼつかない老人だ。」と語る。ある日、医師から「これからはお父さんが出来るだけ快適でいられる様に全力を尽くしましょう」と告げられる。一方で夫婦は誕生してくる子供のための準備をせっせと始めるが、父の死期と妻の出産予定日が迫ってくると、エイブの緊張はスピードアップしていく。父親の死後、娘が生まれる。「真実は、僕は父親ではない…息子なんだ」と呟くエイブ。愛する父親の死を前にして、自分が全く彼の死の準備が出来ていなかったことに気がつく。
『星の数ホド』のNick Payneが脚本を書いており、ジェイク・ジレンホールはその時の主演を務めた。ジェイクが涙を堪えようとするエイブを演じると、観客は涙を禁じ得ない。その大きな目で自由自在に繊細な心の移ろいを表現していく。

スタイルは違うものの、どちらの悲劇も心に響く。『Sea Wall』の幼児の死は憂鬱に心に残り行き場がない。『A Life』は死を語ってはいるものの、それまで愛していた父親との幸せな関係、そしてその父の血を受け継いだ娘の生命に続く話になっている。突然襲う死、いつかは来る死、そして新しく生まれてくる生命、ただその繰り返しなのだが、私たちは喜びに振り回され、そして傷つきながら成長し生きていく。

映画に、テレビにと忙しいであろう二人だが、時にはオフブロードウェイにも、こうして姿を現してくれる。
ジェイク・ジレンホールの舞台を見るのは今回が3度目だが、今回も期待を裏切られる事は無かった。
2/24/2019

千秋楽:3月31日2019年

Public Theater – Newman Theater
425 Lafayette St.

上演時間:1時間45分(休憩含む)

NYTimes 9
Variety 8
New York Magazine 7

舞台セット:6
衣装:7
照明:7
総合:9

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