春の目覚め　SPRING AWAKENING（上演終了）

2006年にトニーで、最優秀ミュージカル作品賞を受賞したもののリバイバル。１０週間限定公演で、耳の不自由な 俳優が半数を占めるという革新的なアプローチをしている。斬新なこの作品は、大きな反響を呼んでおり、今後のブロードウェイの舞台にも なんらかの影響を及ぼすと思われる。ただ、もともとカリフォルニアに１９９１年に出来た耳の不自由な人の為のDeaf Westという劇場による制作なので、彼らにとっては、そこまで奇抜なアプローチではなかったのかもしれない。演出家のマイケル・アーデンは、まだ３３歳 という若さで、耳が不自由なわけではなく、ブロードウェイで随分と活躍した俳優である。

幕が開くと、若い俳優達が下着姿で舞台に出て、それ ぞれ声は出さずにジェスチャーしたりしている。背景には耳鳴りの様な遠くでの爆音の様な音が絶え間なく流れていて、舞台の上の戯れとは裏腹に緊張感を感じ させる。台詞が始まると、俳優らと対になりその声となり歌声となる若者が舞台の上にいて、本人が手話を行っている間にギターなどの楽器を片手に、台詞を 語ったりするのである。しかし皆で曲に合せて体で表現する手話は、振り付けとなってとても美しい。

対ではなく一人で演じられる役柄も中には あり、耳が不自由でない俳優も含まれているが、その一人はアンディー・ミエンタス。元々、オリジナルの『春の目覚め』を観て凄いファンとなり、そのフェー スブックを立ち上げた。が、 思いがけなくそのフェースブックに多くの一般の人々が参加したことで、『春の目覚め』のプロデューサーの目に止まり、それをオフィシャルな『春の目覚め』 のフェースブックにして運営をしてくれ、と彼から頼まれる。そして、彼から『春の目覚め』の全国ツアーにオーディションする様に薦められ、アンディーは Hanschen役で舞台にデビュー。そして、彼は演出家でゲイのマイケル・アーデンのフィアンセでもある。この『春の目覚め』をマイケルが演出すること なった流れは、そこら辺にあるのかもしれない。

歌も踊りも劇もうまい俳優は大人でもなかなかいないが、若者だと更に数は少なくなる。オリジ ナルの作品を見た時は、エネルギーが有り余って内に秘めることの少ない若者達の演技に、我が儘なわめきを聞いている気分にならないこともなかった。しか し、今回の作品は、手話で表現されることで、彼らのありあまったエネルギーにカモフラージュがかかり、却って置く秘めた若者の苦しさがこちらに素直に伝 わって来る。更に、役柄の声や歌となる背景に対となって出演する俳優は、歌手出身の若者を配役できるので、彼らの歌唱力が実に高い。そうやって二人が演じ る一人の役柄が、かなりのインパクトでこちらに伝わる。創作側にそういう意図があったかどうかはわからないが、一人では物足りない若者の役作りを、二人に させる、というのは素晴らしいアイデアだと思った。

作品は、若者達のその繊細で傷つきやすい心や、不器用さのために大人の作った社会に馴染 めない苦痛を表しており、心を動かされるところも多かったが、大人が愚人に描かれ過ぎていて、ホルモンにかきたてられている若者の恋を純愛として捉えるな ど若者を美化するところもあり、白黒のはっきりしたストーリーには、前回と同様、幼稚さを感じもする。しかし、ともすれば高い値段の切符を買う事ができる 中年以上の客層が主になっているブロードウェイでは、若者を新しい客層としてターゲットにしているので、そういう作風もしょうがないのかもしれない。