& Juliet アンド・ジュリエット

& Juliet
アンド・ジュリエット

ミュージカル ブロードウェイ
& Juliet
アンド・ジュリエット
& Juliet アンド・ジュリエット

シェークスピアの4大悲劇の1つ「ロミオとジュリエット」のお話で、もしジュリエットがあのストーリーの中で「ロミオが死んでも自分は死なない」という決断をしていたらどうなっていたか、を今の時代背景に沿ってフェミニズム的視点から描く新作のコメディー・ミュージカルだ。ジューク・ボックス・スタイルで、スウェーデン人のソング・ライターマックス・マーティンによるヒット曲によってストーリーが展開していく。 マックス・マーティンはブリトニー・スピアーズやセリーヌ・ディオンなどの多くのアーティストのヒット曲を出し、アメリカのシングル版ヒットチャートの1位に載った回数がポール・マッカートニーやジョン・レノンに続く2位という大物だ。 マーティン氏が同作品のプロデューサーでもあるだけあって、全ての曲がピッタリと絶妙にストーリーに嵌っていてデューク・ボックス・スタイルにありがちのチグハグ感が全くない。私は多くの20〜30代の女子に囲まれて座っていたのだが、彼らの世代のヒット曲のパレードなので、前奏を聞いただけで「アッ、この歌詞が来るのネ〜。ウーんピッタリ〜!」などと歓喜に湧き立つ様子は面白かった。

あらすじ&コメント

ジュリエット役のラーナ・コートニーは、『ディア・エヴァン・ハンセン』や2020年のリバイバルの『ウェスト・サイド・ストーリー』に続くブロードウェイでの出演は3作品目。非常に軽々と曲をこなしていく。ロミオ役のベン・ジャクソン・ウォーカーは初めてのブロードウェイだが、スタイル、歌、ルックスのいずれも素晴らしく、アメリカの舞台界の層の厚さに今更ながら感心する。モテモテで浮気っぽいこのロミオにはぴったりだった。ジュリエットが旅行先パリで知り合う貴公子フランソワ役や、ジュリエットの幻想の中での友達メイ役も、今回ブロードウェイが初めて。照明はコンサート風で、バックで踊って歌うアンサンブルも、皆若くピチピチでエネルギッシュ。紙吹雪もあるし花火もある。若者層をターゲットにした、2時間半の派手で楽しい作品となっている。

ただ1つ、気になった事があった。シェークスピアと彼の妻、ロミオとジュリエット、ジュリエットの世話係とフランソワの父親、という3組のカップルが出てくるのだが、最初から最後まで「世の中は男性がしたい放題。だがこれからは女性も自分のしたいように生きるべきだ」というメッセージが何度も繰り返されることだ。ジュリエットによってそんなセリフが読まれる度に、周りの若い女性たちから歓声があがる。その様子を見ながら思った。アメリカ女性は、更なる自由と権利を主張して本当に幸せを得られるのだろうか。フェミニズムやウーマンリブによって女性参政権や高等教育権を獲得し、性差別のない社会の実現を目指した頃の運動は良かった。しかし最近は次の時代に入ってきたのではないか。「何でも勝手にしたい」と考えながらも「男子に愛されたい」と思い、「自分がリードする」と言いながらも「リードしてもらいたい」という気持ちが見え隠れする。そんな相反する2つのメッセージの中で、男女関係が錯綜しているのではないだろうか。女性が強いことを言うアメリカでも、男性に「沢山稼いで欲しい。難しい決断から逃げないで欲しい。守って欲しい。」という気持ちをどこかで持つ女性は少なからずいる。フェミニズムの主張が以前と続く現在、性別による役割分担からの解放が、一般女性を本当に幸せにしたのか。疑問を投げかける社会学者も多い。子供を持たないこと、キャリア中心に生きていくこと、男性に頼らないことを良しとする社会になる一方、それに応えるように頑張らなくてもいいんだ、付き合っていても責任はないのだという男性も増え、今度はそれに失望する女性が目立つようになってきた。女性が幸せになるには男性を幸せに、そしてその反対も然り。現代はそれらの折り合いをうまくつけて、一緒に生きるためのメッセージを模索する時代だと思う。16世紀末のエリザベス1世による絶対王政全盛期を背景にして訴える本作品のメッセージ「女性はもっとパワーを手に〜」は、今現在の米国にとって、既に全くの時代遅れとなっている可能性がおおいにある。
(1/5/2023)

STEPHEN SONDHEIM THEATRE
124 W. 43RD ST., NEW YORK, NY
公演時間:2時間30分(休憩1回含む)
公演期間:2022年11月17日〜

舞台セット:7
作詞作曲:9
振り付け:8
衣装:7
照明:8
総合:7
Photo by Matthew Murphy
Photo by Matthew Murphy
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