American in Paris(上演終了) 作品レビュー

ブロードウェイ

映画の時代設定は1951年だが、これでは終戦直後の1945年から始まる。そのため冒頭では、食糧難に喘ぐパリの市民や、ナチスに協力したとして髪刈りなどのリンチを受けるフランス人女性なども描かれている。

写真© 2014 Angela Sterling

写真© 2014 Angela Sterling

写真© 2014 Angela Sterling

ユダヤ系アメリカ人のガーシュウィンの楽曲を使って創作されたジーン・ケリー主演のミュージカル映画として有名な『巴里のアメリカ人』の舞台化。

この音楽は、アメリカだけでなく、ヨーロッパのクラシック音楽史に深く影響を及ぼしたガーシュウィン兄弟の代表作の一つである。主人公役のローバト・フェアチャイルドは、2009年からニューヨーク・シティー・バレエ団に席を置くプリンシパルダンサー。相手役、レネ・コープは、 日本人にも馴染みの深い英国のロイヤル・バレエ団に2003年からいるので、二人とも、ちゃきちゃきのバレエダンサーである。演出と振り付けは、元、ロイヤル・バレエ団のダンサーで、今では世界中で舞台を手掛けている同バレエ団の芸術助監督であり、更にアンサンブルにもバレエ団出身の人が多くいて、バレエ三昧の作品である。舞台装置も、モダンバレエの舞台で観たことがある様なセットもあり、同時に最近のブロードウェイらしく映像をふんだんに使い、衣装とセットに超凝っているバレエの公演を観ているようでもあった。といっても、同じ俳優が毎週8回演じて踊るので、高度な技術の振り付けではさすがに保たないので、それなりにお振り付けになっている。

ダンスは、どのカテゴリーもそれぞれの良さがあるが「身体の線の美しさ」はバレエにはかなわないが、その美とパリの風景をセンスよく描いた舞台セットの組 み合わせは、今までのミュージカルにはないおしゃれなブロードウェイの芸術作品となっていたので、一見に値する(ただ10分を越える長いダンスシーンも あるので、ガールフレンドに連れられてみるバレエで、ついつい寝てしまうタイプの男性諸君には、薦められない)。

一方、ガーシュウィンの有名なメロディーに乗って、視覚的、聴覚的に楽しませてくれるいい作品なのだが、なんとなく強く訴えかけてくるものに欠けた感じもある。元々、映画『巴里のアメリカ人』という名作は、ストーリーと音楽、そして踊りの3つのパーフェクトな組み合わせから生まれたと思う。

それは、

1)オープンで自由で気ままなアメリカ人のジェリーが、シンプルでストレートなその愛情表現で、リズの心とつながっていく

2)アメリカ生まれのガーシュウィンによる、東ヨーロッパからの移民が故郷から持ってきた民謡のメロディーを自由にちりばめた楽曲

3)やはりアメリカで生まれ、自由な形で発展していったタップとジャズダンスをジェリー(ジーン・ケリー)が踊る

という組み合わせだ。

が、今回はそのダンスの部分が、アメリカ生まれのタップとジャズダンスではなく、フランスで生まれたバレエだ。そこで、このストーリーとそれを表現する媒体(ダンス)の間に隙間が出来、何かが失われたと思う。

振り付けは素晴らしいし、バレエもモダンバレエではあるが、モダンバレエとタップ/ジャズダンスは、違う生き物だと私は思う。リズの美しさはバレエでうまく表現され、うっとりしたが、ジェリーがバレエを踊りだすとたんに彼が素晴らしいダンサーであるにも関わらず、彼はもうリラックスした自由奔放なアメリカ人ではなくなっていた。

そのバレエの美しさや洗練された振り付けには「ステキ〜」と溜息は出るものの、やはりアメリカ人なら、アメリカ人の象徴でもあるリラックスさや、「次のステップに何が来るかわからない」という衝動的な感覚さえ表現できるタップやジャズダンスが似合う。

特にそれがタイトルにもなっている位なのだから、尚更である。私はこの作品のメッセ−ジは「生で粗野のものの中にも美は存在し、人生に大切なものは、完成され洗練された美だけでなく、心と心が繋がり合う、ということが芸術の最終目的でもあり、そしてそれが人にとっても一番大切なこと」だと思うが、残念ながらダンスという媒体のジャンルの選択を誤ったことで、それがうまく伝わらなかった様に思う。

 

ただ、こうやって言いたい放題いったものの、私はバレエが大好きなので、バレエがブロードウェイの舞台に進出していくことは、嬉しく思っているし、今後はバレエが似合う作品には、是非、こうやって真っ向からバレエを組み込んで行ってほしい、と思う。そして、そういう作品が、偉そうなことを言う様でもあるが、俳優組合に入っているブロードウェイのダンサーの皆さんが、更に バレエのクラスを取って鍛錬する刺激になれば、と思っている。

 

ボブ・クローリーによる舞台装置は素晴らしかった。近年はプロジェクターを使用したプロダクションも普通になったが、この作品では他とは異なり、東京駅 丸の内駅舎を使って行われ話題になった物体の凹凸や形に合わせて様々な映像を投影するプロジェクションマッピングを見事に成功させていた。街の風景もその技法で夜から昼へと自然に変化していき、主人公のジェリーが描いたと思われる絵画の筆の動きが再現されており、優しい雰囲気を醸し出していた。

他のメディアのレビュー

NY Times: 9
Time Out: 6
Variety: 9

Lost Password