Broadway Square

Wine in the Wilderness荒野のワイン

人種や階級をテーマに描いた本作は、1964年のニューヨークで起きたハーレム暴動の最中に、若手画家のアパートの一室で繰り広げられる出来事を描いている。黒人女性劇作家アリス・チルドレス(1916–1994)は、このアパートに集まった5人の男女を通じて、芸術と現実、そして理想とのギャップを浮かび上がらせる。本作は、ミュージカル『Colord People』でトニー賞最優秀助演女優賞を取ったラシャンズ(LaChanze)の演出家としてのデビュー作になる。

Purpose (意訳:生きがい)

脚本家ブランデン・ジェイコブス=ジェンキンスが昨年39歳という若さで、戯曲『Appropriate』によりトニー最優秀演劇賞を受賞したことは記憶に新しい。そして今年も彼の新作『Purpose』がブロードウェイに登場した。家族の人間模様を巧みに描くことに定評のあるジェイコブス=ジェンキンスは、この『Purpose』で両親の元に集まった家族の数日間をドラマチックに深掘りしている。

Buena Vista Social Clubブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

一昨年オフ・ブロードウェイでオープンし、その素晴らしい音楽とストーリーが大評判となり、あっという間にオン・ブロードウェイへの進出が決まったミュージカルである。国際的なラテン・ミュージシャンたちが集められ、アフロ・キューバン音楽をベースに、ジャズやソン、ボレロなど多彩なジャンルが織りなすこの世界は、キューバ音楽のファンには堪らないだろう。さらに、哀愁深いストーリーや芸術性の高いダンスが加わり、何度見ても飽きない作品に仕上がっている。

Operation Mincemeatミンスミート作戦

第二次世界大戦中、連合軍によるシチリア侵攻を成功に導くために英国保安局が実行した奇策、「ミンスミート作戦」は、英国将校に偽装した遺体に偽の極秘文書を持たせるという、大胆不敵な計画だった。この史実に目をつけた4人組の劇団グループSplitLip(スプリット・リップ)は、2018年にロンドンの小劇場(ニュー・ディオラマ・シアター)で、この作戦をコミカルに脚色したミュージカルを初演。口コミと評価を重ね、数々の劇場を巡った後、2023年にはウェストエンドで歴史的な大ヒットを記録し、ローレンス・オリヴィエ賞の最優秀新作ミュージカル賞を受賞。そしてついに、2024年にはブロードウェイへの進出を果たした。

Ghost亡霊

「近代演劇の父」とも称されるノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセン(1828年–1906)の作品が、ここ数年続けてブロードウェイに登場している。2023年には『人形の家』が上演され、2024年には『人民の敵』がトニー賞の最優秀作品賞にノミネート、そして今年は『亡霊』がリンカーン・センターのオフ・ブロードウェイ、ミッツィ・E・ニューハウス劇場にて上演された。イプセンは、演劇にリアリズムを持ち込み、複雑な社会問題や道徳、人間心理を真正面から描くことで、近代演劇に革命をもたらした作家である。『亡霊』もその代表例であり、社会的偽善、道徳的ジレンマ、そして過去がいかにして現在に影を落とすかをテーマにしている。

Wonderful World: The Louise Armstrong Musical 素晴らしき世界、ルイ・アームストロング

20世紀のジャズ界を変えた巨匠、ルイ・アームストロングのジュークボックス・ミュージカル『Wonderful World: Louise Armstrong Musical』が、2月23日に開幕した。初期の活動から60年を経て国際的なスターに成長するまでの人生を描き、タップダンスをふんだんに取り入れた豪華で古典的なエンターテインメントの作品に仕上がっている。当時、黒人ミュージシャンが直面していた音楽業界の厚い壁を乗り越えた彼の苦労がテーマですが、構成は彼の4人の妻を一人ひとり、時代順に丁寧に紹介する形をとっている。

Cellino v. Barnesセリーノ対バーンズ

ニューヨークで二人の弁護士が立ち上げた個人傷害法律事務所が、膨大な利益を出していたにもかかわらず、たった20年後には完全な破局に至るというミュージカル・コメディーだ。この二人は実在した弁護士で、2000年の始めに自らジングルを作り、さらにそれに出演もした。そのテレビコマーシャルは、電話番号を歌詞の中に含め、そのノリの良さで大きな話題となった。おかげで彼らの傷害法律事務所はアメリカ人で知らない人がいないほどの知名度を得て、顧客も急増した。しかし、蜜月が過ぎ、一旦小さい争いが始まると、二人は子供のように感情的になって、その喧嘩は終わりを知らなかった。最終的に、2017年にセリーノが会社の解散を求める訴訟を起こしたことで、その二人の滑稽かつ壮絶な争いが公に知られるようになった。その始まりから終わりまでが、テンポよくユーモアたっぷりに描かれている。

The Jonathan Larson Project ジョナサン・ラーソン・プロジェクト

ミュージカル『RENT』の作詞・作曲家として知られるジョナサン・ラーソン。35歳の若さで急逝した彼の未発表の楽曲を披露するのが、この春にオフ・ブロードウェイで上演されたミュージカル『ジョナサン・ラーソン・プロジェクト』だ。

Death Becomes Her永遠に美しく…

ロバート・ゼメキス監督による1992年の同名映画を舞台化したのがミュージカル『永遠に美しく…』。近年のブロードウェイで最も高額な3千150万ドルの巨費が投じられた大作がどう評価されるかには自ずと関心が集まった。急激なインフレは演劇界でも起こっており、制作費が高騰の一途を辿っていることもあるが、ミュージカル『永遠に美しく…』につぎ込まれた出資金は、パンデミック以降のブロードウェイでは最高額なのだという。

REDWOODレッドウッド(セコイアの木)

映画『アナと雪の女王』の『レット・イット・ゴー/ ありのままで』を歌ったイディナ・メンゼルが主演するミュージカル『REDWOOD:レッドウッド(訳:セコイアの木)』がブロードウェイで始まった。1996年にミュージカル『RENT:レント』でモーリーン役を務めてトニー助演女優賞にノミネート、2003年にはミュージカル『Wicked:ウィケッド』でトニー主演女優最優秀賞を受賞。前出の『レット・イット・ゴー/ ありのままで』はアカデミー歌曲賞を受賞している。本作品でイディナが演じるビジネスウーマンのジェシーは、ワーカホリック(仕事中毒)だったのだが、1年前、最愛の息子の死に遭遇し、立ち直れないままセコイアの森へ旅するのだった。

Vladimir ウラジミール

ロシア亡命者を両親に持つ脚本家エリカ・シェファーによる戯曲である。主役のロシア在住の女性ジャーナリスト、ライサは、1999年に就任した大統領プーチン・ウラジミールを相手に、2004年のチェチェン紛争をめぐって戦い続けた実在の独立系ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤをモデルにしたと言われている。本作品のライサも当局による税金の横領というスクープを追いかける姿を皮切りに、チェチェン戦争や不正選挙などの裏で渦巻く不正な資金の流れを暴露し、プーチンの元で急速に自由を失っていくロシアのジャーナリズムを憂いている。まさに政権の真実と限界を国民と共有することの大切さ、そのためならリスクを顧みないジャーナリズムの本質的精神、そしてそれらには、時代や体制に左右されない重要性があることを訴えている。

Hold on to Me, Darling訳: 手を離さないで、ダーリン

アダム・ドライバーが、カントリーソングのスターを演じる。彼は『スター・ウォーズ』続編三部作(2015-2019)のカイロ・レン役で広く知られるようになった後、『ブラック・クランズマン』(2018)や、『マリッジ・ストーリー』(2019)でアカデミー賞にノミネートされており、世界中にファンがいる。俳優になる前は、アメリカ海兵隊のなかでも頑丈で頭脳明晰な隊員で構成された部隊にいたらしい。たしかに身長190㎝の立派な体格を見ているとむべなるかな、となろう。

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