ビーチズ
あらすじ&コメント
この人気作の舞台化は長年試みられてきたが、本格的にミュージカルとして形になったのは2010年代に入ってからである。2014年に地方劇場で初演され、その後も脚本や楽曲の改訂を重ねながら再演とブラッシュアップが続いた。2015年のシカゴ公演を経て、構成や音楽が大きく見直されるなど商業的成功を視野に入れた調整が進められたが、この段階では評価が分かれ、すぐにブロードウェイ進出には至らなかった。
その後も創作チームによる改訂が続き、長い開発期間を経てニューヨークでの本格上演に至った。つまり本作は、一度の成功でブロードウェイに到達した作品ではなく、地方公演→改訂→再挑戦というプロセスを経て成熟してきた段階的開発型のミュージカルである。
原作者のアイリス・レイナー・ダートは、本作で作詞を担当し、脚本もトム・トーマスと共同執筆している。自身の親友や従姉との実体験から着想を得た「女性の生涯にわたる友情」をテーマとした、極めてパーソナルな作品であると語っている。
演出はロニー・プライスとマット・コワートの共同演出。音楽はクラシックなブロードウェイスタイルを基調とし、グラミー賞受賞歴を持ち、ロックの殿堂にも名を連ねるマイク・ストーラーによる新曲が多数加えられている。また、映画版で象徴的な楽曲として知られる「Wind Beneath My Wings」(作曲:ジェフ・シルバー、作詞:ラリー・ヘンリー)も、本作において印象的な場面を彩る重要なナンバーの一つとなっている。
主要キャストは、2024年のカナダの劇団シアター・カルガリーの公演からブロードウェイへと引き継がれている。シーシー・ブルーム役はジェシカ・ヴォスクが務める。彼女は『ウィキッド』などへの出演経験を持つ実力派だ。親友バーティ役には『パレード』などに出演したケリー・バレットが起用され、繊細で温かみのある演技を見せている。
夫役の二人、ベン・ジェイコビーとブレント・ティーセンによるデュエット「God Bless Girlfriends(神よ、女の友情に祝福を)」は、浜辺でくつろぐ場面で歌われる印象的なナンバーである。背景ではシーシーとバーティが会話を交わしながら舞台を行き来し、その対比が巧みに描かれる。「一日中秘密の話をして、僕たちはコケにされる」といったコミカルな不満を歌い上げつつ、「男同士ではあのような親密さにはなれない」という羨望もにじませた歌詞が印象的だ。二人のハーモニーも美しく、作品の中でも記憶に残るデュエットとなっている。
第一幕では、小学生時代および高校時代の二人が描かれ、計4人の子役が登場する。いずれも愛らしく懸命な演技で観客の反応も良い。一方で、子役であるがゆえに演技がやや誇張気味に感じられる場面や、声の厚みに欠ける印象もあり、子供時代の場面は物語上重要ではあるものの、やや長く感じられる部分もあった。結果として、全体のテンポに若干影響しているようにも見受けられる。
プレビューおよび先行公演の段階では、ジェシカ・ヴォスクのパフォーマンスが高く評価されている。映画版でベット・ミドラーが演じた役を引き継ぐ大役であり、歌唱力とコメディセンスの双方が求められる。しかし本作はミドラー個人の再現を目的とした作品ではなく、その解釈には一定の自由度があるべきだろう。
ヴォスクはミドラーを想起させる要素を備えている一方で、その比較においてはミドラー特有のスター性との違いが際立つ場面も見受けられる。ミドラーが持つ独特の親しみやすさやカリスマ性を再現することは容易ではなく、むしろ異なる個性や魅力を前面に押し出すアプローチの方が、本作において有効であった可能性もある。
全体としては、情感豊かな物語と音楽に満ち、クラシックな友情ミュージカルとして観客の心を揺さぶる要素を備えている。終盤には客席からすすり泣きも聞かれ、「笑って泣ける」エンターテインメントとして多くの観客に受け入れられている。親しい人とともに鑑賞する作品としての魅力を持っている。
本作は、約4か月半の限定上演としてブロードウェイで上演された後、2026年秋から全米ナショナルツアーが予定されている。ブロードウェイ公演を経てツアーへと展開する形は、中規模作品においては一定の戦略として見られるものである。特に本作が上演されているマジェスティック・シアターは大規模劇場であり、長期公演を維持するためには安定した高水準の興行収入が求められる。そのため、限定公演とすることでリスクを抑えつつ、ツアーへと展開する判断がなされた可能性がある。
プレビュー期間の稼働率はおおむね70%前後とされ、週間売上も大劇場としてはやや控えめな水準にとどまっている。トニー賞でノミネートされるかどうかが興行に影響を与える可能性もあり、今後の動向が注目される。(4/18/2026)
Majestic Theatre
245 West 44th Street, New York
公演期間:2026年4月22日〜9月6日まで
上演時間:約2時間35分(休憩1回含む)



