復活を期して休むブロードウェイ
〜コロナ感染の中、ニューヨークの行方〜

復活を期して休むブロードウェイ 〜コロナ感染の中、ニューヨークの行方〜

コロナ感染の状況は毎日変化する。新型コロナウイルスの世界的な感染爆発により、ブロードウェイは3月12日から約1ヶ月の全公演が停止を発表したが、4月8日、それを更に約2ヶ月先の6月7日までに延期した 。

そこでこの影響の大きさを解説する前に、少し振り返って今回のブロードウェイでの動きをなぞってみる。

ニューヨーク州のクオモ知事は、高齢者と旅行者が多いブロードウェイの観客に感染が拡大することを懸念し、3月12日(木)の午後、翌日からの500名以上の集会禁止を発表した。この12日がマチネ公演だった『ムーランルージュ!』のキャストに、数日前より風邪の症状を示す者がいたこともあり、事態を重くみていたブロードウェイ運営側は、翌日を待たずに全公演停止を決めた。

当時ブロードウェイで上演されていたのは、31の演劇とミュージカル。これらがすべて公演停止となったわけだが、準備中の16作品も中止となった。うち既にプレビュー中だった作品『Who’s Afraid of Virginia Woolf?』と『Hangmen』は開幕を断念。 『Flying Over Sunset』『Birthday Candles』『Caroline, or Change』『Six』は初日を延期。特にウェスト・エンドでヒットしてブロードウェイ公演に漕ぎつけた『Six』は、3月12日の晩がちょうど初日だった。

そして、ブロードウェイ再開の予定日とした 6月7日は、元々第74回トニー賞授賞式の開催日だったが、それも二週間ほど前すでに延期が決まっており、新しい日付は未だ発表されていない。そして、これに沿って、受賞対象の条件である公演開始日の期限であった4月23日も延期されることだろう。

近年、ブロードウェイ公演が2日以上停止したのは、以下のようになる。お判りのように今回、停止最長記録を大幅に更新することとなった。

2012年  3日間停止      ハリケーン・サンディ
2007年 19日間停止      舞台裏方の労働組合のストライキ
2001年  2日間停止      911アメリカ同時多発テロ事件
1975年 25日間停止      ミュージシャンのストライキ(ミュージカル12作品)

尚、1918年から3年間におよんだスペイン風邪では、全米で20万人近く死者を出したにも拘わらず、ブロードウェイの閉鎖はなかった。

さてクオモ知事の非常事態宣言により、オフ・ブロードウェイ公演の方も時期のずれはあれどもすべて停止となった。座席数が99〜500席のオフ・ブロードウェイは、500名以上の集会禁止という措置対象に含まれていなかったが、別途500席以下の小規模劇場に対しては定員数の半減が求められていた。多くの公演が停止したが、幕を締めず続けていたショ-もあった。例えば『Harry Townsend’s Last Stand』や『ストンプ』などは、定員を半数にして意欲的に公演を続けていた。しかし4日後の16日、新たな知事声明「人の集まる業種、レストラン、バー、映画館、ジムなど全ての営業禁止」が出た為、続行が不可能となった。

今回のブロードウェイの停止が、ニューヨーク市の経済に与える影響は大きい。アメリカの演劇界の頂点であるブロードウェイは、巨大なビジネスでもある。例えば昨年は1460万人がチケットを購入し、約1930億円の売り上げを記録した。これは人数、金額、ともにニューヨーク州とニュージャージー州の大衆スポーツ10チームのそれを上回っている。それが今回の新型コロナ禍で、ざっと110億円を上回る損害になると見積もられている。

またブロードウェイが支える8万7千人以上の雇用が被る影響も小さくない。

ブロードウェイ側は ユニオンと交渉の上、公演が停止された週の終わりから2週間のお給料を保証し、健康保険料金も4月分は支払う合意に至った。しかしブロードウェイ関連業務に携わっているのは彼らだけではない。ブロ-ドウェイ周辺のホテルやサ-ビス業界や、フリーランスとして舞台に関わっている人、またコンテンツを開発中のアーティスト等も合わせて年間約1兆3千6百億円の収入をあげていたのであるから、これがなくなるのは大きな痛手だ。しかし現時点では、アメリカ全体の経済が大変な状況になっており、ブロードウェイだけの話はしていられない。感染爆発が起き医療体制が崩壊すると、全米で2.2千万人の死者が出ると言われているため、各州は外出禁止令などを発令しており、ビジネスの多くは停止に近い状態を強いられている。助けることができる重症患者の上限数以下に、感染者が集中的に発生するのを抑え込むためだ。

 

ここニュ-ヨ-ク市では先月、70万の仕事が失われ1631億円の経済損失が見込まれている。連邦政府はこのような状況を受け、必要な経済補助として今年2億ドルの赤字を予想している。また来年も同様な状況が続く可能性もあるとの見方もある。株価の方も3月ひと月で1300億円下がり、含み損は2800億円以上に膨らんだと報道されていた。

アメリカの不景気は世界の経済に影響するので、人の命だけを優先するのではなく、 経済的な影響による人の幸せ感度も考慮した対処をするべきだと唱える人も少なくない。が、今の所社会に必須なビジネス(病院、ニュースメディア、食料品店など)以外はすべて閉鎖というニューヨーク州の対処方法は長く続きそうだ。

NYの感染者が10万人を超えた3月24日には、合併症の併発により新型コロナ肺炎で入院中の劇作家テレンス・マクナリー(81歳)が他界した。彼はミュージカル『ラグタイム』『蜘蛛女のキス』『マスター・クラス』を始め、映画にもなった『恋のためらい フランキーとジョニー』(舞台『月の光の中のフランキーとジョニー』)の脚本や、最近では『アナスタシア』も彼の手による。まだまだご活躍を期待していたのに、惜しい人を亡くしてしまった。昨春、トニー賞功労章を受賞したことが、せめてもの慰めだったと想いたい。俳優のニック・アダムズ、サラ・バリレス、ブライアン・ストークス・ミッチェルやアーロン・とヴェイト、マット・ドイルなども感染したと公表している。

 

そんな中、俳優達が 行なっているのは、ブロードウェイ・ハンド・ウォッシュ・チャレンジ(BwayHandWashChallenge)という、コロナの影響で仕事を失った人々や生活に困窮している人達のために寄付金を募る社会活動だ。彼らは寄付先を指定したうえで、感染予防のために手を洗いながらミュージカル・ナンバーを歌う動画を、各々SNSに上げている。

これはハッシュタグ#BwayHandWashChallenge  でシェアされていて、スクロールすれば俳優たちのインスタのサムネ-ルがリストで見ることができる。

https://www.theatermania.com/broadway/news/bway-hand-wash-challenge-theatermania_90784.html

 

先週末もセントラルパークの様子を見に行ったが、人との距離は保っていたが、芝生の上で陽を浴びたり、走ったり色々な体操をするなど、普段と変わらない穏やかな風景だったので、ほっとした。

週末の公園の様子も慈善活動も、アメリカが持っている底力が感じられて頼もしい。これからも新型コロナウイルスにより多くの方が亡くなられるだろう。そしてその後不況が訪れるに違いない。しかし勇気を持って難局に立ち向かい、焦らずに待てば、装いを新たにしたブロードウェイが復活する日は、そう遠からず訪れるだろう。それは、ニューヨーク・シティーが意気盛んな街に戻るときでもある。

そんな確信に近い希望を持って、明るいニュ-スや身の回りのできごとにも目を向けている、今日この頃である。
4/8/20

 

Lost Password