Cat Cohen: Broad Strokes    (キャット・コーエン:ブロード・ストロークス)

Cat Cohen: Broad Strokes 
(キャット・コーエン:ブロード・ストロークス)

オフ・ブロードウェイ ミュージカル
Cat Cohen: Broad Strokes 
(キャット・コーエン:ブロード・ストロークス)
Cat Cohen: Broad Strokes    (キャット・コーエン:ブロード・ストロークス)

コメディアンのキャサリン・コーエン(キャット・コーエン)による、上演時間が約70分のソロ・ミュージカルが、オフ・ブロードウェイで女性を中心とした若年層の観客に高い人気を誇っている。

2022年にNetflixで配信されたニューヨークでのライブ公演『キャサリン・コーエンの私って意外にゴージャス!?』の影響もあり、彼女の活躍はコメディアンにとどまらず、歌手、女優として幅広く知られるようになった。 そんな彼女は2023年に30歳の若さで脳卒中になって手術を経験しており、今回のソロ・ミュージカルは幼少期から大病を克服するまでの過去をコミカルに振り返る内容。

あらすじ&コメント

フェミニストである自身の勝ち気な性格や病弱だった過去を曝け出すことから、タイトルの“ブロード・ストロークス”には、彼女の積極的な生き方の“大まかな説明”といった意に、脳卒中のことを指す“ストローク”をかけた遊び心も加味されている。

彼女の強みは自ら台本とともに作詞・作曲も手がけるという点で、これは今も配信中の『キャサリン・コーエンの私って意外にゴージャス!?』で証明済み。
今回のソロ・ミュージカルでも8曲が書かれ、12歳の頃から片頭痛に悩まされ、他人とは馴染めない性格だったことなどの辛い経験を湿っぽくはなく、観客を笑わせることに要点を置きつつ振り返る。

ミュージカル『ムーラン・ルージュ!』のアレックス・ティンバースが演出を手掛けたというのは同作品のもうひとつの売り。
彼は昨年の12月に男性の演出家としては最年少の47歳で、自ら手掛ける4作品がブロードウェイで同時上演されるという記録を樹立したばかり。
この2年は、『オール・イン:コメディ・アバウト・ラヴ』と『オール・アウト:コメディ・アバウト・アンビション』という連作を劇場街で演出、コメディアンのトークと生演奏の音楽を生かした舞台を成功させている。
キャサリン・コーエンとタッグを組んだ今回も、同じ類の作品としてその手腕が十分に発揮され、スピード感が強みの作品に仕上がった。

演出家との繋がりか、装置をデザインしたのもミュージカル『ムーラン・ルージュ!』の煌びやかさで知られるデレク・マクレーンとなり、オフ・ブロードウェイ作品とは思えないほど豪華だ。
ステージ上の至る所には紫に照らされたドレープの布がかけられ、吊るされたものや床に叩き落とされ破壊されたままの複数のシャンデリアが妖艶な明かりを放つ。
ステージの奥にはゴシック建築風の窓があり、その手前には玉座が配置され、全体的に朽ちかけた古城のような雰囲気を醸し出す御殿の装置となる。

こうして始まる本編のオープニング曲ではキャサリン・コーエンが観客を出迎え、自身が強欲な女性であることや病弱だったことなど、どちらかといえばネガティブな話題を、敢えて軽快なメロディにのせて次々と披露。
そして役者志望だったが才能を開花できないままで、一般的で普通の女性だと思っていたものの30歳の若さで脳卒中となり、人生が自分自身では制御不能なものだと実感した皮肉を、アップテンポの楽曲とともに回顧する。

前半の早い段階では装置で隠されていた3名編成のバンドの男性たちも登場、演奏のみならず作品の進行に口出しするなどしてステージを盛り上げていく。
病気不安症のキャサリン・コーエンは幼少期から両親を悩ませ続けたが、12歳の時にそれが現実のものとなり、視覚前兆を伴う偏頭痛と診断されたというが、その過去に触れるミュージカルナンバーからは悲壮感は汲み取れない。

2023年、彼女は巡業公演の開始を目前に控えていたことから、縁起が悪いという忠告を無視、2週間前倒しして自身の誕生日パーティを開催したところ、その2日後に脳卒中に襲われたという。
駆けつけた救急病院でその病名を明かされ、その脳卒中の原因が心臓の卵円孔開存症にあることを知らされた際のエピソードでも、彼女のコメディアンとしてのセンスが光る。
卵円孔開存症で心臓に穴が開いているという事実を踏まえ、「私の心の穴」という普遍性のあるミュージカルナンバーを披露するのだ。
楽曲は途中で悲壮感の漂うメロディになり、歌っている彼女自身も辛い過去を思い出しナーバスになっていることを窺わせるが、それは意図的なこと。
すかさずピアノを担当するミュージシャンが演奏を止め、彼女に作品の方向性が逸脱しつつあることを指摘、こうして再び観客に笑顔を提供しコメディ路線に徹する。

そんな彼女は作品の終盤で、心臓の手術が成功し月日が経過した際、長年にわたって悩まされていた偏頭痛がなくなっていたことに気がついたのだと明かす。
そして病がまたいつ再発するか定かではないが、恐怖と不安は拭えないものの“悪いことが起こるのであれば、良いことも起こるのではないか”と観客に明るく問いかけ、フィナーレを締めくくる楽曲を熱唱する。

客席に目立つのは彼女のファンの核を成すミレニアル世代の女性で、それに次ぐのがZ世代の若者たち。
こうした観客が共感できるSNSなどについての日常の矛盾、男女関係などの話題を取り入れながら、それを赤裸々に自虐ネタとして焼き直すのがこのソロ・ミュージカルの最大の見所となる。
患者当人の不安にも拘わらず映像を通して行われる医師の診療や、メッセンジャーでスマートフォンに軽々と送信されてくる診断結果、そして高額な医療費などもこの作品では格好のネタ。
とはいえ自身の厚かましさを強調しつつも最後には、“禍福は糾える縄の如し”という人生訓をさりげなく織り交ぜ、不謹慎なコメディでは終わらせない。
オフ・ブロードウェイで期間限定公演を延長する人気を誇った理由は、こうした優しい配慮にもありそうだ。(8/4/2026)

Lucille Lortel Theatre
121 Christopher St, New York, NY 10014

上演時間:70分(休憩なし)
公演期間:2026年7月14日~9月25日

舞台セット:8
作詞作曲:7
振り付け:7
衣装:7
照明:8
キャスティング:7
総合:7
@ Matthew Murphy
@ Matthew Murphy
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