ドラァグ:ザ・ミュージカル
主人公はドラァグクイーンのアレクシスとキティで、2人は愛し合い力を合わせて巨大なクラブを開店させる夢を思い描いていた。ところがある日、2人は仲違いをしてしまい、通りを隔ててそれぞれ別の店をオープンし競い合うことになってしまう。
アレクシスが経営するフィッシュ・タンクは客足が好調だが、多額の出費が重なり3年以上にわたり税金を滞納、店が差し押さえられる可能性が濃厚になってきた。アレクシスは不本意ながら、長年にわたり疎遠になっていた会計士の弟トムを呼び寄せるが、企業家としても成功を収めている彼にも莫大な借金を返済する手立てが見つけられない。それどころか、一緒にやって来たトムの息子ブレンダンが店で働くドラァグクイーンと交流を重ねるうちに女装に目覚めてしまう。自分の息子に兄アレクシスのようなドラァグクイーンになってほしくない父親トムは、そんなブレンダンの女装の趣味を完全否定、全員から冷たい目で見られてしまう羽目になる。
一方、キティのキャット・ハウスは質の高いショーを売りにしていたが、収入が少ないことから高騰する家賃を払えなくなり、この状況が続くと近い将来に閉店せざるを得ない状況に追い込まれていた。
何とか危機を乗り越えようと奔走する2人の店主と従業員のドラァグクイーンたちだが、打つ手もなく状況は悪化の一途を辿っていく。そんな中、アレクシスとキティ双方の友人で、両方の店の常連の老人ジェリーが急逝、事態が一転する。その葬儀で、店に入り浸るただの飲んだくれだと思われていたジェリーが、実は不動産王の億万長者だったことが発覚。彼の遺言により遺産のほとんどはLGBTQのチャリティーに寄付されたが、持っていた物件のひとつを共同経営という条件付きでアレクシスとキティに遺したことが明らかになるのだ。
アレクシスとキティは和解、クラブを共同経営することとなり新たな門出を祝い、従業員のドラァグクイーンたちも路頭に迷わなくても良くなった。そしてアレクシスの弟トムも、ブレンダンの女装に理解を示し、ありのままの息子を受け入れることこそが重要だと悟るのだった。
オフ・ブロードウェイ作品としては非常に規模が大きく、テンポが良く進行するミュージカル・コメディで、理屈なく楽しめる作品だ。確かに、なぜアレクシスとキティが喧嘩別れをして別々の店を持つようになったかの理由は曖昧で、フィナーレのジェリーの死によって訪れるこじつけ感のある必然的な大団円など、突っ込み所が満載である。とはいえ、同作品には終始それに勝る徹底した明るさがあり、その勢いが矛盾点を包み隠していく。
ドラァグクイーンを継続するには金銭的な負担が大きいことや、如何にカツラが大事なのかを歌うミュージカルナンバーなども興味深い。会計士のトムの息子ブレンダンが女装に目覚め、父親がそれを躊躇しながらも受け入れていくくだりも、昨今のLGBTQ+関連の作品に倣った展開で違和感はない。
出演者では作詞・作曲・脚本も兼任している主役キティを演じるアラスカ・サンダーファックが圧倒的な存在感を放つ。同時に、ミュージカル作品の出演に慣れた他の出演者を抜きん出て悪目立ちするのではなく、馴染んでいるのにも好感が持てた。アラスカ・サンダーファックは2025年1月12日までの出演で、翌日からは同じく『ル・ポールのドラァグ・レース』の番組で有名になったジンボに交代する。同作品がロングランする限りは、キティ役は著名ドラァグクイーンでまわしていく方針のようだ。
同作品の一番の見所は次々と登場するアイディアの宝庫となる衣装とカツラ。ブリトニー・スピアーズやケイティ・ペリーとも仕事をしたことのあるマルコ・マルコによる衣装とカツラはどれも派手だが、それぞれを殺し合うことなく目を引く。因みに、上演されているのは5つの小劇場が入った複合芸術施設のニュー・ワールド・ステージズ。元々ここは準新作の映画を格安の入場料で上映するシネマコンプレックスで、楽屋が狭いことで知られる。狭い楽屋にあれだけの数の衣装をどう収納しているのか気になるほどの衣装替えがあり、飽きさせない。
去る夏に上演されたミュージカル『キャッツ』のリバイバルや、短命に終わったミュージカル『リトル・ハウス・オン・ザ・フェリー』など、オフ・ブロードウェイではドラァグクイーンに焦点を当てた作品の登場がこれからも続きそうだ。(11/3/2024)
New World Stages
350 W 50th Street, NY, NY 10065
上演時間:1時間50分(休憩なし)
公演期間:10月21日~