Emojiland エモジランド

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オフ・ブロードウェイ ミュージカル
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2018年と2019年と立て続けにクールジャパンな出来事がニューヨーク演劇界であった。ブロードウェイで幕を開けたミュージカル『ミーン・ガールズ』と『ビー・モア・チル』の劇中で日本発祥の絵文字が取り上げられ重要な役割を果たしたのだ。そして2020年を迎え、今度はオフ・ブロードウェイで絵文字が主役のミュージカル『エモジランド』が開幕、期間限定の公演を延長するほどの人気を博している。

あらすじ&コメント

ミュージカル『エモジランド』は2018年のニューヨーク・ミュージカル・フェスティバルに出品され好評だったのを受けて、今回のオフ・ブロードウェイ初演に至った。

物語の舞台はスマートフォンの中。自らを悪い性格だと認める自己中心的な“お姫様”が治める国には様々な絵文字が暮らしている。ヒロインの“目も笑う笑顔”は気障な“サングラスの笑顔”と、また“女性警察官”と“女性建設作業員”は恋仲にある。そして“どくろ”は陰気な雰囲気を漂わせ、“うんち”は他を寄せ付けない圧倒的な存在感を放ちひたすらマイペースを貫いく。そんな絵文字ランドだが、システムのバージョンが4.0から5.0へとアップデートされ、新たな絵文字たちが仲間に加わったことで問題が発生する。

新たな絵文字として“王子”が追加されたことで自らの権力が奪われ、地位が危ぶまれることを危惧した“お姫様”は、外部から新たな絵文字が入国できないようにするため、“女性建設作業員”に絵文字ランドを囲む壁ファイアウォールの建設を命じてしまう。

一方、アップデートにより新たに加わったのが物語の主人公となる若者“オタク顔”。知識が豊富で賢い彼だが、他からは煙たがられ、なかなか相手にされない。想いを寄せるヒロインの“目も笑う笑顔”も、好意は抱いていても彼からはつい距離を置いてしまう。そんな最中、自殺願望のある“どくろ”は博学な“オタク顔”に接触し、自身を抹消するウイルスの開発を依頼する。完成したウイルスを手に入れる“どくろ”だが、彼が企んでいたのは自分自身だけではなく全ての絵文字を消し去ることだった。拡散されたウイルスは絵文字ランドが完成したファイアウォールの壁に囲まれていることもあり猛威を振るい、感染した絵文字の住民が次々と削除されていく。

混乱の中、ヒロインの“目も笑う笑顔”はボーイフレンドだと信じていた“サングラスの笑顔”が、実はシステムのバージョンが3.0だったかなり以前からセクシーな“投げキスの顔”に手を出していたという事実を知ってしまう。落ち込む“目も笑う笑顔”を陽気に励ますのは“うんち”だ。こうして慰められた“目も笑う笑顔”の心は次第に純粋な“オタク顔”へと靡いていくが、そんな彼女もウイルスに侵されてしまう。そしてウイルスを作成した“オタク顔”に、人生はやり直すことができるので過ちを改めるよう諭し、生き絶える。

壁の建設を担った“女性建設作業員”もウイルスに感染、ファイアウォールの壁を暗号化して開けることのできる秘密の鍵を恋人の“女性警察官”に託し息を引き取るのだった。

それと並行し、アップデートで新たに加わった絵文字がウイルス蔓延の根源にあることが明るみになり、彼らが隔離対象として指名手配されてしまう。当然、“オタク顔”も対象で、“女性警察官”に逮捕されそうになる。しかし、“オタク顔”はウイルスを撲滅する秘策を提案し拘束を免れ、“女性警察官”から壁を開けることのできる秘密の鍵を入手。“オタク顔”が考えたのは、ファイアウォールの壁の外にあるスマートフォンのメニュー画面の設定から、システムをリセットするボタンを押し正常の状態に戻すという策だった。

ウイルス駆除を阻止しようとする“どくろ”との死闘を制した“オタク顔”はスマートフォンのリセットを無事に成功させる。リセットによりウイルスは消え、削除された絵文字も復活、“オタク顔”は“目も笑う笑顔”との恋を成就させ、絵文字ランドに以前と変わらない平和が再び訪れるのだった。

絵文字ランドを囲む壁がアメリカとメキシコとの国境の壁を意識していることは明らかだが、それ以外では重いテーマと向き合うわけでもなく、奥深さには欠ける。ウイルスが蔓延していくのがコロナウイルスと重なると話す複数の観客を休憩中や終演後に見かけたが、これは製作陣が意図したことではなく、たまたまタイムリーに時期が重なっただけだ。そういう意味では人気作ではあるが、決してブロードウェイに昇格し旋風を巻き起こす類の革新的なミュージカルではない。

とはいえ、総勢14名の出演者の多くが複数の役を演じ分け、絵文字ランドの住民がバラエティに富んでいるのには感心させられる。コメディタッチだが、それぞれが何かしらのステレオタイプな現代社会の悩みを抱えているのだ。例えば、主人公の“オタク顔”は冷たい処遇を受け、疎外感に苛まれたことから悪役の“どくろ”に耳を貸してウイルスを作成、過ちを犯してしまう。ヒロインの“目も笑う笑顔”も人前では常に微笑んでいなければならず、感情を表に出すことが許されないという悩みを抱えている。絵文字ランドがアメリカ社会の縮図のような印象を受け、オープニングとフィナーレを飾るテーマ曲のタイトルは「生きているだけでとても素晴らしい」と訳され、人生賛歌のようだ。ミュージカルナンバーが17曲もあり、上演時間が休憩込の2時間20分と同種の作品としては比較的に長いが、不思議な満足感に浸ることができる。

ピクセルのような無数の立方体が積み木のように組み上げられ、そこに映像を投影するデジタル感に満ちた装置には工夫が窺えた。また、カラフルな衣装やかつらはどれも絵文字の特徴を捉えていて楽しめる。

絵文字が日本発祥であること受けてか、劇中では様々な日本特有の文化が登場するのも微笑ましい。例えば絵文字ランドで若者に人気のスポットは東京タワーとなる。そして団子がトレンドで、その絵文字の小道具も登場。さらには、“サングラスの笑顔”が浮気相手の“投げキスの顔”と時間を過ごすのはラブホテルという設定だ。

2017年に公開され、評論家から近年まれに見る酷評に晒された『絵文字の国のジーン』というアメリカ産の3Dアニメーション映画があった。最低映画を対象に授与されるラジー賞で作品賞を含む4部門で受賞した同映画も、物語の舞台がスマートフォンの中で、絵文字たちの冒険がコミカルに描く内容だ。

ミュージカル『エモジランド』がメディアに高く評価された理由は設定や趣向が酷似する最低映画として名高い映画『絵文字の国のジーン』と比べて、明らかに完成度が高かったからなのかもしれない。

The Duke on 42nd Street
229 West 42nd Street
上演時間:2時間20分(休憩一回)
公演期間:2020年1月19日〜3月19日

舞台セット:7
作詞作曲:8
振り付け:5
衣装:9
照明:6
総合:7
Photo: Jeremy Daniel
Photo: Jeremy Daniel
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