亡霊
あらすじ&コメント
ヘレナ・アルヴィング夫人の屋敷にはメイドのレジーナが働いており、彼女の父親が娘を連れ戻すために訪れたところから物語が動き出す。・夫人には過去に秘められた数々の秘密があり、それらがマンダース牧師との会話を通して徐々に明かされていく。やがて、長らく海外にいた夫人の息子、オスヴァルド(リーヴォン・ホーク)が帰郷する。しかし彼もまた大きな秘密を抱えていた。ヘレナは、夫である大尉の名誉を守りながら、同時に息子を父の影から遠ざけるために国外に出していた。が、やがて家族の運命は「亡霊」に呪われたかのように、過去から逃れることができず崩壊へと向かっていく。
アイルランド、ダブリン生まれの脚本家マーク・オロウによる新しい脚色の元、ジャック・オブライエンが演出を担当し、ジョン・リー・ビーティーによるミニマリストでありながら印象的な舞台美術が特徴となっている。スリーサイド・ステージ形式舞台には、大きな部屋に一つのダイニング・テーブルが置いてあり、背景の天井から床まで続く窓ガラスの背後は雨が降っており、暗い外の空気の中に大木らしきものが聳えている。そのテーブルの上には緑色の表紙の台本が5、6冊置いてあり、演者らがそこに集まってリハーサルシーンが数度繰り返されてから始まった。現代風になっているのだが、最後も同じように演者が舞台に緑の台本を持って集まってきてから終わる。その目的は、ビジュアルにはあまり効果的ではないと思われたので、理屈的に分析もできなくはないが追及しないことにする。 もう一つ現代的な部分は、時間の流れを表す照明の変化もなく次のシーンへ移っていくので、ああこの話はあれから数ヶ月は経っているのだろう、などと観客の方が想像を強いられる。面白いと思ったが、人によってはストーリーがわかりにくくなったという意見もあったようだ。しかし、リリー・レイブの圧巻の演技によって、最後のクライマックスのシーンまで緊張感が保たれ、一方その居た堪れない結末には、終わってからも劇場を去る観客の足を遅くしていた。
今回の公演では、アイルランド出身の脚本家マーク・オロウによる新たな脚色のもと、演出はジャック・オブライエンが担当。ジョン・リー・ビーティによる舞台美術は、ミニマリストでありながら視覚的に印象深い。三方から客席に囲まれたステージには、ダイニングテーブルが一つ据えられ、背景には床から天井まで広がる大きなガラス窓が設置されている。その向こうにはしとしとと雨が降り、暗く沈んだ外の空気の中に大木がそびえる。冒頭、舞台上には緑の表紙の脚本が5〜6冊置かれており、俳優たちがそこに集まり、リハーサルのようなシーンが繰り返された後、本編が始まる。そして終幕も同様に、演者たちが再び台本を持って舞台に集まり、幕を閉じる。この演出の意図は明確には伝わらなかったが、象徴的な構造を狙ったもの想像する。 さらに現代的な要素として、シーンの転換において照明や舞台装置による時間の経過の提示がなく、観客側が「数ヶ月経ったのだろう」などと状況を推測する必要がある点も特徴的だ。面白い試みだが、人によっては物語がやや分かりづらいと感じるかもしれない。
とはいえ、リリー・レイブによる圧巻の演技が舞台を支えており、最後のクライマックスまで緊張感を失うことはなかった。そして迎える衝撃的な結末は、観客が劇場を後にする足取りを重くさせるほど深く心に残る。アルヴィング夫人を演じるレイブはニューヨーク出身で、テレビ・映画・舞台と幅広く活躍する女優だ。日本でも彼女の顔に覚えのある人は多いだろう。共演のヘイミッシュ・リンクレーター(レジーナの父親役)とは2013年から交際を続けており、現在は結婚こそしていないものの、人の子どもを共に育てている。互いに尊敬し合いながら、私生活を大切にしつつ、それぞれの演技への情熱を支え合う関係のようだ。レジーナを演じるエラ・ビーティは、伝説的俳優ウォーレン・ビーティとアネット・ベニングの娘であり、その美しさと存在感で注目を集めている。オスヴァルド役のリーヴォン・ホークは、イーサン・ホークとユマ・サーマンの息子であり、姉は女優・歌手として活躍するマヤ・ホーク。一方、マンダース牧師を演じるビリー・クラダップは、トニー賞最優秀助演男優賞の受賞歴を持ち、テレビや映画でも存在感を示してきたベテラン俳優だ。
重厚なテーマと現代的な演出、そして実力派俳優たちによって再構築された『亡霊』。イプセン作品の普遍的な力と、今日的な視点からの再解釈が融合した舞台だった。(3/13/2025)
Lincoln Center Theatre at the Mitzi E. Newhouse
150 W 65th Street, NY, NY
上演時間:2時間30分(休憩一回)
公演期間:2025年3月10日~4月26日



