KENREXケン・レックス

KENREX
ケン・レックス

オフ・ブロードウェイ 演劇
KENREX
ケン・レックス
KENREXケン・レックス

実在の事件を基にした作品で、タイトルになっているケン・レックス・マクロイ(1934–1981)が窃盗、脅迫、暴行、誘拐、動物虐待など数々の犯罪を繰り返し、長年にわたりある田舎町を恐怖に晒した様子を描く音楽付きの犯罪スリラー劇である。

イギリスの男優ジャック・ホールデンが約35人のキャラクターを演じ分ける一人芝居で、イギリスの地方劇場やオフ・ウェストエンドで完売公演を記録した。2026年4月に行われたローレンス・オリヴィエ賞では作品賞を含む6部門にノミネートされ、最優秀男優賞と最優秀音響デザイン賞を受賞している。

今シーズンのブロードウェイでは、同じく実在した話で、無罪にもかかわらず20年間服役した男性を描いた『フィア・オブ・13(Fear of 13)』も話題になっている。が、『KENREX』は対照的に、有罪でありながら刑務所にほとんど入ることのなかった人物の物語だ。

冒頭は、当時の大型リール式テープレコーダーから流れるFBI捜査官の声に声に応対する地方検事デヴィッド・ベアードの録音インタビューから始まる。シーンは、そこからベアードの1981年7月の911緊急通報の記憶へと移行していく。

「911、緊急事態ですか?」
「ああ神様、神様、彼が死んだ…夫が…みんなが撃ったの…みんなで…」

この通報を契機に物語は大きく動き出し、昔に遡って一人の男ケン・レックスによる暴力が日常化した町の緊張感へと観客を引き込んでいく。

ジャック・ホールデンは、地方検事やケン・レックス、そしてスキッドモアの住民を演じる圧巻のパフォーマンスを見せてくれる。舞台上で彼と空間を共有するのは、作曲・音楽監督・作詞を担ったジョン・パトリック・エリオット。彼は、舞台右奥の一段高いプラットフォームで、静かなカントリー調から暴力的なロックまで幅広い音楽で、事件の背景にある町の空気や恐怖を立体的に表現している。

演出のエド・スタンボルーアンはホールデンと共同で脚本を書き、オリヴィエ賞にノミネートされている。最優秀音響デザイン賞を受賞したのはジャイルズ・トーマスで、照明・ビデオデザインのジョシュア・ファローらを含め、技術面も高く評価されている。

本作では暴力や死の描写、銃声、フラッシュライトやストロボ、ヘイズ(スモーク)などの演出が用いられているが、小規模で観客との距離が近いオフ・ブロードウェイの劇場空間は、この一人芝居の緊張感を活かすのに非常に適しているだろう。批評家からは「息をのむパフォーマンス」「怖くて興奮する」「ミニマリストながら多層的な真実犯罪劇」と絶賛されており、実際にホールデンが演じるケン・レックスは強い恐怖を感じさせる存在である。

例えば、ケン・レックスが弁護士の忠告を無視して、町のお祭りに現れるシーン。そこで高校1年生の少女トリーナが「星条旗よ永遠なれ」を歌っている。彼はその様子を獲物のように見つめる。ホールデンがどちらも演じているのだが、トリーナが舞台から降りた後も、照明と音響の効果によりその影が歌い続け、それが観客の一人であったケン・レックスへと変化する瞬間は、不気味である。

冒頭のスキッドモアの町の説明はやや長く感じられたが、本作が英国版として制作されたことを考えると、このアメリカの田舎町の空気感を丁寧に伝える必要があったとも理解できる。音楽は素晴らしいのだが、音量が非常に大きい場面もあり、耳に負担を感じる。

2幕に入ると、物語そのものよりも、ホールデンが舞台上で小道具や椅子、マイクスタンドなどを素早く動かしながら演じ続ける様子や、中腰で老人を演じる身体的負荷の大きさに意識が向いてしまった。個人的には、彼の卓越した演技力に感嘆しながらも、次第に彼の顔面に浮かぶ汗が気になっていた。

本作は単なる真実犯罪の再現にとどまらず、「人々はどこまで正義を自ら執行してよいのか」という問いを投げかけている。しかし、若者が過激に走る傾向が強くなり、個人が自分の倫理で人を捌こうとする事件が増えている今のアメリカには、あまりそぐわない作品と感じる人もいるのではないだろうか。

ネタバレ含むあらすじ概要:

ケン・レックス・マクロイは、カンザス州にて借地農民の家庭に14〜16人兄弟の一人として生まれ、後にミズーリ州スキッドモア郊外に定住した。幼少期から非行傾向はあったが、20歳頃、彼の働いていた建設現場での事故による頭部外傷をきっかけに、更に暴力的になったと言われている。彼はその後、数々の罪を犯しながらも、弁護人の巧みな手法と司法制度の不備により、ほとんど服役することはなかった。

しかし1981年7月のある白昼、数十人の町の住人の目前で、ついに銃撃され命を落とす。複数の人物が銃を発砲したとされるが、誰も証言しなかったため犯人が特定できず、事件は未解決のままとなった。
そしてこの事件は「民衆による正義」の象徴として全米の注目を集め、現在も様々なメディアで取り上げられている。

(4/30/2026)

Lucille Lortel Theatre
121 Christopher Street, New York

上演時間:約2時間15分(休憩1回あり)
公演期間:2026年4月26日〜6月中旬頃 約11週間の上演予定

舞台セット:8
衣装:8
照明:9
キャスティング:100
総合:8
@ Manuel Harlan
@ Matthew Murphy
@ Pamela Raith
@ Manuel Harlan

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