The King and I(上演終了) 作品レビュー

ブロードウェイ

写真© Paul Kolnik

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4月15日にレビューを終えて開幕し、同月28日には、渡辺謙が日本人俳優としては2度目となる。トニー賞のノミネーションを果たし、日本人なら行きたくなる『王様と私』だ。

日本でも随分と賑わっているらしいが、ニューヨークに居る私も日本人がブロードウェイ界で認められたのは嬉しかった。

ユル・ブリンナー主演で有名な『王様と私』。 渡辺謙にインタビューした際に「ブリンナーで有名なこの役柄をこなすために、彼のシャム王を観ましたか」と訊いたところ、ブリンナーより前に制作された『王様の私』の映画を観た、と言っていた。あえてあまりにも有名なブリンナーの演技を見ないで、彼自身の解釈をしようとしたのだと思う。そしてその甲斐があったのか、「渡辺謙は彼自身のシャム王を作り上げた」とウォール・ストリート・ジャーナル紙でも褒められていた。

写真© Paul Kolnik

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映画俳優は舞台俳優の声量を持たないことが多いが、渡辺謙の声は堂々たるものだった。

しかし、歌になるとちょっと単語がわかりにくくなる。それは声量が問題なのではなく、日本人の英語に特有の子音が省略されてしまうためである。私もアメリカ人の親しい友人に注意されたことが何度かあるので、人ごとではない。 が、舞台での貫禄や存在感は十分だ。

同公演は、日本でもお馴染みのリンカーン・センター内にあるブロードウェイの劇場で行われている。リンカーン・センターにあるヴィヴィアン・ボーモント劇場は、張り出し舞台型になっていて、観客席が急斜面になっており、うまくそれを利用したセットや演出となっている。最初の場面、当時のシャム(現在のタイ)の空に美しい夕焼けが映える中、アンナを乗せるイギリスからの船が港に入る場面に息を呑んだ観客から大きな拍手があった。一番印象的なシーンは、なんといってもやはりシャム王とアンナが互いに惹かれあっていることを初めて意識する場面である。渡辺謙がケリー・オハラのウェストに手を延べて彼女を引き寄せるシーンはなんともセクシーだ。そして、有名な「シャル・ウィ・ダンス?」のメロディに乗って、シャム王をリードにフープスカートが大きく揺れて宮殿の大広間を回る姿は、恋心を感じて踊る二人の心をうまく表現し、感動的だ。

写真© Paul Kolnik

今回のノミネーションも含めると6回もトニー賞ミュージカル主演女優賞にノミネートされているアンナ役のケリー・オハラは、声が美しいだけでなく、品の良い女らしさと知性をも持つアメリカには珍しい女優だと思う。

彼女にも負けずにその美声で楽しませてくれたのは、オフ・ブロードウェイで上演されたミュージカル『ヒア・ライズ・ラブ』)でイメルダ・マルコス役を演じて好評を得て、今回、王女役で出演するルーシー・アン・マイルズだ。シャム王の数多い子供たちもそれぞれ子供らしいキャラを出していて、可愛い。ニューヨーク・シティ・バレエ団のバレエ・マスターで多くの賞を受賞したジェローム・ロビンズによるオリジナルを基にした振り付けもいい。劇中劇の設定で、宮殿で訪問客をもてなすために催したダンス芝居も、元マーサ・グラハム団のソロイストが主役で、その踊りは見がいがある。欲を言えば、最後のシャム王の死ぬ前のシーンに、もう一押しぐっとこさせる何かが欲しかった。

写真© Paul Kolnik

贅沢にお金をつぎ込んだこの豪華な作品は、笑いや刺激を楽しむ、というよりも、高い芸術性を楽しむ2時間50分という長時間大作である。

今は何ヶ月先までも売り切れているため、券面額の何倍もの価格を払わなければチケットが手に入らない。時差で眠ってしまうかも知れない心配のある人は、ご用心。 ちなみに、この人気で延期される可能性はあるものの、渡辺謙の契約は7月までと聞いている。

ちょっと本題から外れるが、アンサンブルに何人か日本人が入っているが、その中の前田純枝さんは、目出たくこのミュージカルのオーディションに受かる前に、弊社制作の「Dreamers」というNHKの番組の司会をしてもらったことがあり、今後の活躍を心から祈っている。

他のメディアのレビュー

NY Times: 9
Time Out: 9
Wall Street Journal: 9

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