KPOP
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2017年秋オフ・ブロードウェイで演じられ、奇抜さとエッジの効きで評判をさらった『KPOP』が本作品の元となっている。当時その高評価を梃子(てこ)に、地方公演を経てオン・ブロードウェイへ進出する予定だったのが、時期が悪く、コロナ禍で停滞を余儀なくされていた。ところが昨今のコロナの鎮静化を受け、2022年11月からブロードウェイでの公演が始まった。作品名のKPOPは、日本ではK-POPとして呼び倣われていて、ダンスと歌謡がミックスされた韓国ポップ界の1ジャンルのことを指している(Korean Pop)。世界的にはBTSやブラック・ピンクといったグループが有名だが、今回のミュージカル『KPOP』は切符の売れ行きが伸びず、プレビュー後二週間をちょっと過ぎた公演17回目にあたる12月11日には、早々に閉演となった。

あらすじ&コメント

ストーリーは劇中劇形式をとっていて、コンサートへ向けた厳しいリハーサル風景が描かれている。孤児だったムウィーは、プロデューサー/タレント・エイジェントのルビーに引き取られ、自由時間などない厳しい練習を経て一人前の歌手に育っていた。ルビーは、自身が叶えられなかった大スターの夢をムウィーに託したのだ。彼女はルビーを大スターにするために大手レコード会社幹部も招いた特別なコンサート企画を計画する。ムウィーを中心とした若い男女のグループの厳しいリハーサルが始まる。しかしそんな特訓の中、彼女はあるミュージシャンと恋に落ちる。そして「これまでの私の人生は、いったい何だったんだ」と思い始めるのだった。そして遂に、彼と一緒にルビーの元から去ると宣言する。しかし結局、自分の天命は大スターになることだと気付き、コンサートの開演直前に戻って来たのだった。

ムウィーを演じるLUNAとマネージャーのルビー役のジュリー・リーは、韓国で活躍するK-POPの歌手だ。また他の出演者たちもアメリカで活動しているアジア系の俳優や歌手で、皆揃って歌も踊りも上手い。ラスト15分間のコンサート場面は、全員が彼らの才能を次々と披露してくれて見応えがある。才能ある若者達からほとばしるエネルギーが、最高のエンタテイメントを演出してくれた。終盤に至ってようやく、観にきた甲斐があったと満足した次第である。

各誌の劇評には、オフの作品から大きく変わっていたことを残念がるものが多かった。当初のオフでは小劇場における観客参加型スタイルが評判を呼んだのだが、オンでは観客数がはるかに多く、観客は動けない。またエッジが効きすぎる作品のオンでの上演は、大きな賭けとなるので、それを避けるため大幅にストーリーを変更したが、その修正点をシェイプアップする時間が無かったのだろう。元の作品がオフの利点を生かすスタイルだった分、オンでは再現できないものが多くなったのはやむを得ない。だからオンならではの利点で解決する必要があった。しかしオンにくる前の地方劇場公演が、COVIDのせいでキャンセルとなり、試行錯誤の機会が失われたのも想定外の1つだったのだろう。

K-POPはこの十年くらいに若者の認知が進んだジャンルだが、このポップな歌の流行りに疎い人々も少なくない。今回の興行資金を提供する投資家達にもそういう人が多いから、資金を集めるのは大変だった様だ。作品中、あちらこちらに予算不足を思わせる箇所が見え隠れしていた。床は質素な黒塗りで、舞台奥には数段の階段があるだけ。背景に映し出される映像もコンピューター・グラフィックによるシンプルなデザイン。プロジェクターのサイズもさほど大きくない。

大した話でもないのだが基本的なミスではないかと思われる点が1つあった。ムウィーが若い頃のオーディションを追想するシーンで、ルビーが「あなたの足が太い」と厳しい避難を浴びせる場面がある。マネージャーによる虐待を描いているのだが、実際に元々足の太いL U N Aにそれが更に目立つデザインのスカートとソックスを履かせた衣装には驚いた。アメリカ人のスラっとした足に慣れているこちらとしては、思わずドン引きした。後で観劇した知り合い数人に聞いたところ、皆口々に同じことを言っていた。ここであえて実際に足を太く見せる必要は全くない。と言うか、作者の意図とは反対に「ルビーだってああ言いたくなる」と皆に思わせ、まさに逆効果だった。

『KPOP』にはちょっとした騒動があった。それも観客数が伸びなかった原因かも知れないので一応触れておく。それは開幕日に出たニューヨーク・タイムズ紙の劇評で始まった。批評文の中に「目を細めずにはいられない照明が〜」と言う表現があったのだが、これに対して『KPOP』のアメリカ人プロデューサーが「アジア人への人種差別だ」と主張したのだ。米国にはアジア人のことを、「目の細い奴ら」と蔑視する人がいるからだが、実際に観た私も、結構あの照明は眩しくて辛かった。観客照射用ハイビームが多く使われていたからなのだが、恐らくコンサートの雰囲気を出したかったのだと思われる。『KPOP』側は「人種差別」という言葉をわざわざ持ち出したが、ニューヨーク・タイムズ紙はにべもなく拒否した。もしかすると『KPOP』側は、それまでにアジア人作品であるがゆえの数々の障害があって既に神経質になっていたのかも知れないが、残念に思った。それはともかく、この作品によるブロードウェイでの失敗を糧として、今後、次々とアジア系作品が出てきてくることを祈る。
12/03/2022

The Circle in the Square Theatre
235 West 50th Street
公演時間:2時間10分(休憩1回)
公演期間:2020年11月27日〜12月11日

舞台セット:6
作詞作曲:7
振り付け:8
衣装:7
照明:6
総合:7
Photo by Matthew Murphy, Evan Zimmerman
Photo by Matthew Murphy, Evan Zimmerman

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