ナターシャ、ピエール&1812年の大彗星 Natasha, Pierre & THE GREAT COMET of 1812

ナターシャ、ピエール&1812年の大彗星 Natasha, Pierre & THE GREAT COMET of 1812

ブロードウェイ
ナターシャ、ピエール&1812年の大彗星 Natasha, Pierre & THE GREAT COMET of 1812
ナターシャ、ピエール&1812年の大彗星 Natasha, Pierre & THE GREAT COMET of 1812

不思議なタイトルだが、内容はトルストイ「戦争と平和」をミュージカル化した作品で、2012年にオフで上演され成功し、今年オンに移ってきた。

タイトルに出てくるコメット(彗星)は、実際に地球に近づいた「1811年の大彗星」である。 260日間肉眼で見られたと言われるので1812年にも見ることが出来たのだろう。因みに、ナポレオンのロシアへの侵略が同じ時期にあったので「ナポレオンの彗星」とも呼ばれている。

オープニングは♪「戦争と平和」のストーリーは複雑だから、読んでおいてね〜♪ という歌で始まるが、実際には「戦争と平和」の第二巻第五部が中心となった、かなり割愛されてシンプルなストーリーとなっている。

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舞台は19世紀前半のロシア。美しく天真爛漫なナターシャはピエールの親友であるアンドレイと婚約するが、彼が戦争に行っている間、享楽的なアナトーリに出会い彼に誘惑されて恋に落ちてしまう。ナターシャはアンドレイとの婚約を解消し、アナトーリと駆け落ちしようとしたが、それを知ったアナトーリの義兄のピエールは、アナトーリを街から追放し、アナトーリはすでに人の夫であることをナターシャに伝える。ナターシャは心痛で病気になってしまうが、彼女を元気づけながら夜空の彗星を見上げたピエールは、突然人生の本質を理解できた様な感覚に襲われ、至福を感じるのだった。

200年以上前のロシアを描いた大河歴史小説のミュージカル化と聞くと、なんとなく埃の匂いが漂う舞台セットなのかと思ったが、劇場の中にあったのは客席と舞台との境も幕もない不思議な空間だった。客席の中に伸びる曲がった花道、何段もの段差があるステージ上にも置かれた客席やテーブルや絨毯は、赤と金が基調の、まるでロシアの高級ナイトクラブの様だ。披露される踊りや合唱はアクロバットも加わり、ストーリー自体もシュールなナイトクラブのショーの様で、観客はもはやそのショーの客のようでもある。演じる役者達も、真ん中の高い場所に作られた扉から、あたかもショーの出番のように背後からの光を浴びて現れる。いろいろな境界線を省き、一つ間違えば、混乱状態に落ちそうな幅狭い線の上を、見事にバランス良く曲芸をして見せた勇気ある作品だ。ミミ・リアンのモダンな舞台セットと、まだ30代後半であろうブルックリン出身のレイチェル・チャフキン演出の斬新な趣向で、「ハミルトン」一色だったブロードウェイ界に新風を吹き込んだ。

主人公ピエール役のジョシュ・グローバンは、その歌唱力とルックスで世界中で人気の歌手だが、デビューしたきっかけは面白い。1998年、まだ17歳で歌を勉強しながら高校に通っていたジョシュは、ある日グラミー受賞式のリハーサルの指揮者だったデイビッド・フォスターから電話を受けた。セリーヌ・ディオンとデュエットを歌うことになっていた目の不自由なオペラ歌手アンドレア・ボチェッリが病気の為に急に出られなくなったので、代わりに出て欲しいというのだ。しかし、リハーサルだけといってもそのつもりで練習をしていない曲を大勢の人前で歌うのは抵抗があった。しかしフォスターも諦めない。「他にそんなのが出来るのは君しかいない、頼む〜」と嘆願され、仕方なく代理として出てきた。元々年よりも若く見えた彼は、当時は背の高い12、3歳くらいの子供に見えたらしく、リハーサルの劇場入口にいた警備員も「君誰?」という感じだったらしい。恥ずかしがり屋の彼は、ステージに立ちながら緊張しすぎてその楽譜を持つ手も震えていたそうだ。そんなおどおどした彼を見て、セリーヌ・ディオンや現場の大人たちは同情し、皆彼に励ましの言葉をかけた。しかし彼が歌いだした瞬間、誰の耳にもその飛び抜けた才能は明らかだった。広い音域を力強く安定した声で歌い上げるその青年に、オーケストラの人々やそこにいた関係者は全員感嘆した。グラミー賞の司会役として一緒に現場でリハーサルをしていたオプラ・ウィンフリーは、その後すぐに自分の人気番組のゲストに彼を招待。瞬く間にその才能は米国中の評判となった。そして彼は大学に行くことをやめて音楽界へのデビューを決断。今では世界をツアーし、DVDも3千万枚以上売れて自信も貫禄もついている。歌い始める前は俳優志望だった彼にとって、ブロードウェイの舞台に立つことは長いあいだの夢だったが、多くのファンが客席にいたようで、彼の美しい歌声に大きな拍手と歓声を送っていた。

メディア評

NY Times: 8
Time Out : 9
Variety: 8

Imperial Theatre
252 W. 45th St.
尺:2時間30分(15分の休憩含む)

舞台セット ★★★★★
作詞作曲 ★★★☆☆
振り付け ★★★★★
衣装 ★★★★★
照明 ★★★★★
総合 ★★★★★

©2017 Joan Marcus

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