ミンスミート作戦
この作品では、5人の俳優が目まぐるしく多くの役を演じ分けており、彼らのチームワークは実に見事だ。長年にわたり一緒に演じてきたことで培われたチームワークは、複雑に絡み合うシーンの中でも笑いのタイミングを外すことがない。そのうちの3人、デイビッド・カミング(チャールズ・チャモンドリー役)、ゾーイ・ロバーツ(ジョニー・ベヴァン役)、ナターシャ・ホジソン(イーウェン・モンタギュー役)は、本作の草案から脚本、楽曲、歌詞までを手がけたクリエイターでもあるという点も特筆に値する。さらに2018年にフェリックス・ヘーゲンが加わり、創作チームとしての完成形ができあがった。
ちなみに「ミンスミート」とは「ひき肉」の意味だが、「細かく砕く」というニュアンスから、「打ちのめす」や「壊滅させる」といった比喩的な表現にも使われる。作戦の発案者の一人、イーウェン・モンタギュー中佐は戦後に『The Man Who Never Was(存在しなかった男)』を著し、それをもとに1956年に同名映画も制作された。映画ではモンタギュー自身がカメオ出演しているが、本作では彼を女優のホジソンが見事な存在感で演じている。
作戦の内容は、英国がギリシャおよびサルデーニャ島に侵攻するという偽情報を、架空の身元を持つ英国軍少佐に仕立てた遺体に持たせ、それをスペイン沿岸に漂着させるというものだった。当時スペインには多くのドイツのスパイがいたため、ナチスの手にその情報が渡れば、ドイツ軍はシチリアから部隊を移動し、連合軍のシチリア侵攻が成功するという仕組みだ。しかし、計画の実行には数多くの障害があった。まず、短期間で遺体を確保するには遺族の承認が必要であり、法律が厳しい英国では容易なことではなかった。また、遺体を軍人らしく見せるために、故郷の女性からの恋文を偽造するなど、細部にわたる準備が必要だった。さらに、ナチスが本当に偽情報を信じたのかを確認することも難題だった。こうした困難を、英国らしいウィットや巧妙な言葉遊び、機転の利いたダイアログを通して、歌と共にユーモアたっぷりに描いていく。
SplitLipのメンバーは、演劇で知られるウォーリック大学で出会った3人の学生たちを中心に構成されている。そこに加入したヘーゲン、さらに舞台では保安局の秘書を演じるジャック・マローンとクレア=マリー・ホールの2人が加わり、完成度の高いキャスト構成となっている。本作では男女が逆の役柄を演じる場面も多く登場するが、不思議と違和感はない。おそらく、そこに「ポリティカル・コレクトネス」的な提言を含ませようという意図はなく、むしろ「なんでもあり」の自由な発想と、純粋に観客を笑わせることに全力を注ぐという姿勢が作品全体に貫かれているからだろう。
楽曲は全体的にテンポが早く、ユーモアに満ちた曲が中心だが、そこにしっとりとしたバラードを挿入することで、感情の振れ幅を効果的に演出している。一幕ではマローンによる美しいソロ曲が際立ち、二幕では作戦に利用された遺体に敬意を表する5人による合唱曲が観客の胸を打つ。さらに二幕の冒頭では、赤を基調としたヒトラー軍による歌とダンスのシーンが展開され、「K-pop風」と形容されるほどのノリの良さで観客を巻き込む。そしてクライマックスには、モンタギューが輝くタキシード姿で階段を降りてくるという、いかにもブロードウェイらしい派手な演出が盛り込まれている。一つだけ惜しい点を挙げるとすれば、デイビッド・カミングによるチャモンドリー役の“オタクっぽさ”がやや過剰に感じられたことだろう。しかし、その反面、彼の踊りの巧みさには目を見張るものがあり、ダンスナンバー全体を引き締めていた。
一部の批評では、「戦争をコメディにすることへの懸念」や、「英国風の言い回しがアメリカの観客には伝わりにくい」といった声もあるようだ。しかし本作は、あまり肩肘張らず、歴史と笑いと音楽の融合を、純粋に楽しんで味わうことをおすすめしたい。(2/22/2025)
John Golden Theatre
252 West 45th Street, New York, NY 10036
上演時間:2時間30分(15分休憩1回)
公演期間:2025年3月20日〜2026年2月15日(予定)


