Purpose (意訳:生きがい)

Purpose
(意訳:生きがい)

演劇 ブロードウェイ
Purpose
(意訳:生きがい)
Purpose (意訳:生きがい)

脚本家ブランデン・ジェイコブス=ジェンキンスが昨年39歳という若さで、戯曲『Appropriate』によりトニー最優秀演劇賞を受賞したことは記憶に新しい。そして今年も彼の新作『Purpose』がブロードウェイに登場した。家族の人間模様を巧みに描くことに定評のあるジェイコブス=ジェンキンスは、この『Purpose』で両親の元に集まった家族の数日間をドラマチックに深掘りしている。

あらすじ&コメント

同作品は、去年シカゴのステッペンウルフ劇団で初演されて、人生の不可解さが鋭い洞察力で描かれていると高い評価を得た。ブロードウェイ版では、母親役にターニャ・リチャードソン・ジャクソン(75歳)と、トニー賞受賞歴のあるカラ・ヤングが新たに加わっている。ちなみにターニャは、ハリウッド俳優サミュエル・ジャクソンと一緒に45年付き添ってきた夫婦である。演出は、女優として2度のトニー賞を受賞したフィリシア・ラシャッドが担当しているが、彼女にとってブロードウェイでの演出はこれが初めてだ。

黒人政治家で活動家として知られるソロモン・ジャスパー(愛称サニー)とその妻が住む家が舞台となっている。天井の高い広い居間で裕福な家族の家の感じだ。中二階は今の背景に、ダイニングルームが舞台左に配置され、壁にはマーティン・ルーサー・キングやオバマ大統領と思われる歴史的黒人の肖像画や写真が飾られている。ストーリーは二人息子の末っ子のナズが観客に語りかけながら進行していく。このナズ役を演じるのはジョン・マイケル・ヒル。テレビや映画でも活躍し、2010年には『Superior Donuts』でトニー賞助演男優賞にノミネートされている。

物語はナズが、自身が写真家でアジーザという女性に精子を提供したことを観客に告げるところから始まる。アジーザは彼がニューヨークのハーレムに住んでいた頃の隣人だったが、二人は「ナイアガラの滝」を見渡せるホテルで、料理に使う大型スポイトを使って、その計画を実行したという。ナズは、アジーザと一緒に時間を過ごしながら、生まれてから今まで経験したことのない至福の気持ちを感じていた。

父親ソロモンは政治界を引退し、蜂を育てながら余生を過ごしていた。それぞれが運命によって託された「役割」と「目的(Purpose)」をひたむきに全うする蜂は、彼にとって強く心を惹かれる存在だった。彼は、自分が築いた黒人のリーダーとしての道を息子たちに受け継いでほしいと願っていたが、長男ソロモン(ジュニア/ジャスパー)(演:グレン・デイビス)は小さい頃から精神的に不安定で、政治家となったものの、選挙資金の不正使用の罪で告発された。そして数日前、20ヶ月の刑を終えてきたのだ。末っ子ナズは森に籠り、自然を写真に収める生活を送っている。滅多に実家には遊びにこないナズが、久しぶりに会えることを母親は喜んでいるが、父親は別にどうでも良い、という対応だ。そこにアジーザが現れた。ナズも含めて家族が予想していなかったこの客が加わったことで、それぞれが今まで秘めていた心中の思いが表面化していく。

人生の目的とは何なのだろう。目的のない人生は意味があるのだろうか。生まれてきた意味とはなんだろうか、と問いかけている作品だが、それがコミカルなセリフで面白おかしく描かれていく。

ハリー・レニックスが見事に演じる父親はソロモン・ジャスパーという元政治家だったが、1960~1990年の間に有名だった黒人公民権運動家/牧師/政治家であるジェシー・ジャクソンを元にしたことは間違いないだろう。どちらもマーティン・ルーサーの元で活動し、黒人の経済的自立を支援する運動を展開し、アメリカ大統領選挙に出馬し、アフリカ系アメリカ人として初めて大規模な支持を得た人物だ。そしてジェシー・ジャクソンの息子も、同じ罪で刑務所に入っている。しかし、違う部分も多々あるので、訴えられないようジャクソンの名は、作品の宣伝にも全く出てこない。この戯曲は、『Appropriate』の完成度には届かないが、3時間近いのに全く飽きない。脚本家のブランデンは黒人の父親とユダヤ人の母親を持ち、プリンストン大学とニューヨーク大学を経て、マッカーサー・フェロー奨学金を受けたエリートの脚本家だ。彼は物事に黒白をつけることなく、光の背景には影、影には光が当たる現実にしっかりと目を向けていく。一つ、夕食のシーンが重要で長いのにも関わらず、6人が普通に机の周りに座るので、声が聞こえても、表情が全く見えない演者が必ず出てくる。多分二階席の前に座るのがベストな作品ではないかと思われる。

<ネタバレ> ナズは、精子提供の件は絶対に誰にも言わないよう、アジーザに口止めするが、夕食を囲んでナズの母親のクラウディアからの執拗な問いかけに、とうとう自分がレズビアンであること、そしてナズから精子のもらったことを打ち明けてしまう。信仰心の篤い両親は狼狽するが、その様子をモーガンは面白がっている。彼女は、夫の罪を共に背負う羽目になり、数日後には12ヶ月の刑に服すことになっている。モーガンは、そんな自分に一つも労いの言葉をかけることのない夫や義理の両親に怒り、この家族は皆おかしいという話と共に、ナズも自閉症スペクトラムであることも暴露する。怒りにまかせてまくしたてるモーガンに、クラウディアは思わず平手打ちを食らわせる。モーガンはそのまま自分のベッドルームへと戻っていくが、階段の途中で立ち止まり、「この後どうなるかわからないから」と警告を発するのだった。

ジュニアは、父に認められたい一心で、蜂の巣からハチミツを採取してきた。しかしそれは、ハチたちが冬を越すために巣に残していたミツであった為、父は激怒する。自分のダメ男ぶりに落ち込んだジュニアは、父のライフルで自殺を図る。しかし、それすらもうまく行かず、未遂に終わるのだった。
アジーザは全てを目撃し、この家族の遺伝子を心配し始め、受精しているかもしれない子を中絶する可能性をナズに仄めかす。翌朝、ナズと二人きりになった居間で、父ソロモンは「自分はどこかで人生をかけ間違えしたように思う」とナズに語る。

舞台が暗転し、スポットライトを浴びたナズは観客に語りかける。彼は、実家に行くまで感じていた幸福感が、あの時完全に消え去って、今も戻ってこないと語る。ソーシャルメディアでアジーザが息子を出産したことを知り、「もしかしたら自分の子かもしれない」と思いながらも、それを確かめることはできないと語る。「あのとき神様は、僕に幸せになる機会を与えてくれていたのかもしれない。なのに僕はそれに気づかず、幸せになるチャンスを自ら手放してしまったのではないか」と、後悔に満ちた問いを涙で投げかけるのだった。(3/26/25)

Helen Hayes Theater
240 West 44th Street
上演時間:2時間50分(休憩一回)
公演期間:2025年3月17日~7月6日(予定)

舞台セット:8
衣装:7
照明:7
キャスト:8
総合:8
@ Marc J. Franklin
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