SMASH スマッシュ(大ヒット)

SMASH
スマッシュ(大ヒット)

ミュージカル ブロードウェイ
SMASH
スマッシュ(大ヒット)
SMASH スマッシュ(大ヒット)

2025年4月10日、TVドラマ『SMASH』の舞台版が、ドラマ放送終了から10年以上の時を経て、ブロードウェイで正式に開幕した。映画監督として名高く、TVドラマ版でプロデューサーを務めたスティーヴン・スピルバーグが、今回もプロデューサーとして名を連ねている。彼の発案により舞台版は、コメディに特化した内容となり、スピルバーグ自身が制作過程からリハーサルに至るまで深く関与したそうだ。

2012年に放送が始まったTVドラマ『SMASH』は、シーズン2で打ち切られたものの、現在でも根強いファンを持つ。内容は、マリリン・モンローの伝記ミュージカル『Bombshell』の制作過程を描いたもので、2人の女優が主役の座を争う人間模様がストーリーの軸となっている(ちなみに「ボムシェル」とは「驚きの出来事」と「ホットな女性」という二つの意味がある)。今回の舞台版も、『ボムシェル』の制作過程を描くという点では同じだが、2人の女優がマリリン役を争うという筋書きは変更されており(詳細は後述のネタバレで)、キャラクターの名前を含め、多くの点で大幅な書き換えが行われている。

脚本は、『ドロウジー・シャペロン』や『ザ・プロム』など、演劇界の裏側をユーモラスに描く作品で知られるボブ・マーティン。演出は、振付家としても名高く、トニー賞を5度受賞しているスーザン・ストローマンだ(『クレイジー・フォー・ユー』で振付賞、『コンタクト』『プロデューサーズ』では演出賞と振付賞を同時受賞)。音楽は『ヘアスプレー』で知られるマーク・シャイマンとスコット・ウィットマンのコンビ。彼らは、2013年に劇中劇『ボムシェル』のための新曲を多数書き下ろし、そのアルバムが大ヒットしている。舞台版では、TVドラマからの楽曲が殆ど残されており、オリジナルファンの喜ぶツボを抑えたライアップとなっている。

コメディ要素を支えるのは、劇中劇のディレクターであるネイジェルを演じるブルックス・アシュマンスカスと、風変わりな演技コーチのスーザンを演じるクリスティン・ニールセン。ネイジェルの台本の行間から最大限の笑いを生み出す才能は凄い。クリスティンは、ある種毎回パターン化した演技ながら、この奇妙な老婦人というキャラクターに上手くハマっていた。

ブロードウェイやニューヨーク演劇界のニュースを織り交ぜたジョークが数多く盛り込まれているのも、この作品の大きな魅力の一つだ。そのため、ブロードウェイに馴染みのない観客には伝わりにくい箇所もあるかもしれない。
「Bombshell」の創作チームが、ミュージカル制作の苦労に疲れ果て、「もうこの業界は嫌だ」と嘆く場面では、すでに故人となった巨匠ソンドハイムや、『オペラ座の怪人』で知られる名演出家ハロルド・プリンスの名前が登場する。
ソンドハイムの斬新すぎる作風が当時なかなか受け入れられなかったことや、ハロルドが40年以上前に手がけたミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング』が初演では大失敗に終わったものの、2023年のリバイバル版ではチケットが1,000ドルで取引されるほどの大ヒットとなった、というエピソードを知っていると、さらに楽しめる仕掛けになっている。また、実在するニューヨーク劇場街の店名なども登場し、細部に至るまで演劇ファン心をくすぐる工夫が凝らされている。

開幕当初の今はドラマファンの後押しもあり興行成績は順調だが、今後その勢いを維持できるかどうかは未知数である。特に、夏の観光シーズンにどれだけ観光客の支持を得られるか、そして6月のトニー賞レースでどこまで健闘できるかが、この作品の今後を左右する大きな要因となるだろう。

<ネタバレ(ストーリー含む)> マリリン・モンローを称えるミュージカル『ボムシェル』の主演に抜擢されたスター女優アイヴィー・リンは、ひょんなことからマリリンの元演技コーチ、スーザン・プロクターの著書を読み感銘を受け、彼女を自分のコーチに指名する。スーザンはリンを洗脳し、「自分こそマリリン・モンローである」と信じ込ませていく。実際にスーザン自身、リンはもはやリンではなくマリリンそのものだ、と信じている節もある。

さらにスーザンはリンに興奮剤や鎮静剤など様々な薬を投与し、彼女は次第に薬漬けとなっていく。その影響で、リンは稽古に遅刻したり無断欠席したりと問題行動を繰り返すようになり、カンパニーに混乱をもたらしていく。そして、ゲネプロ当日、リンは姿を見せない。有名政治家の誕生日パーティーで「ハッピーバースデー」を歌うために遠くの別会場へ向かっていたのだ。自分以外にマリリンを演じられる者はいないと信じているのだろう。そこで代役のカレンが急遽出演することになるが、夫がアイヴィーへの嫌がらせで作った牛用の下剤入りカップケーキを誤って食べてしまい、舞台に立てない状況に。最終手段として、抜擢されたのは、演出アシスタントのクロエだった。彼女は、見た目がパッとせず、舞台では才能がありながらもずっとアンサンブル止まりだったため、今では出演は諦め、舞台裏で働いていたのだ。大柄で外見的には“マリリンらしくないが、その実力で舞台に立つことになる(「どんな体型でも美しい」という現代ブロードウェイらしいポリティカル・コレクトネスのメッセージを込めたかったのだろう)。

代役の代役として出演したクロエは、その歌唱力がインフルエンサーたちに大絶賛され、瞬く間にその存在がSNSで拡散されていく。はたして当初の予定通りアイヴィー・リンが主演して初日を迎えるのか、アンダースタディのカレンが役を引き継ぐのか、それとも時の人となったクロエが舞台に立つのか、関係者の間でも意見が分かれ、カンパニー内では更に緊張が高まっていく。

結末の詳細は伏せるが、3人の女優たちはそれぞれ他者の幸せを願い、物語は意外にも温かみのある展開で幕を閉じる。ただし「女性同士は本当は優しく、妬みも嫉妬もない」という描写は、競争の激しいこの業界で、やや理想化されすぎている印象も否めない。コメディとして、もう一歩踏み込んで辛辣な笑いを追求してもよかったのではないかと思う。(4/18/2025)

Imperial Theater
249 W 45th Street,  New York, NY
公演時間:2時間30分(休憩一回)
公演期間:2022年4月10日〜

舞台セット:7
作詞作曲:9
振り付け:7
衣装:9
照明:7
キャスティング:8
総合:8
@ Matthew Murphy
@ Matthew Murphy
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