The Counterカウンター

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オフ・ブロードウェイ 演劇
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不眠症のポールは寒い冬の早朝、コーヒーを飲みにダイナー(小さな簡易食堂)にやってくる。ニューヨーク州北部のまだ暗さが残るその時間には、いつもウェイトレスのケイティしかいない。狭いダイナーの透かし窓には街を照らす灯火が映り、たまに車のヘッドライトが天井に差し込むが物音はしない。静かだ。夜明け前の時間がゆっくり過ぎていく。カウンターの向こうとこちらには主人公の二人。この二人の会話が、物語のたて糸となる。

あらすじ&コメント

ポールは中年の男性で40歳くらいだろうか。他方ケイティは、この田舎に2年ほど前に引っ越してきてウェイトレスを続けている20代と思しい女性だ。以前はマンハッタンに居たらしい。ボソッボソッではあるが少しずつ話をするようになる二人。次第に友情が芽生えて行く。

芝居は、5人ほどの席が並ぶカウンターがあるダイナーを、斜め横から切り取った舞台で繰りひろげられる。カウンターの内側にはコーヒーを入れたりトーストを持ってきたりするケイティがいる。一方ポールは、入ってくるなりジャケットを脱いで、いつも同じ椅子に座る。舞台は暗転する度に次の朝になる。交わされる会話は徐々に進行し、それぞれが大変な人生をかかえていることが察せられる。二人とも、おおよそ幸せなどとは縁がない、と諦めている様だ。

そんなある日、ポールが突然変わった頼み事をケイティに持ちかける。舞台には打って変わって、穏当とは程遠い空気が漂よい、緊張に包まれる。

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<この段落ネタバレあり>それは自殺ほう助の依頼だった。死を覚悟した人間が、他人と交わる内にフッともう一度生きてみようかと感じ、それが希望へと変容していく様子。そして人間の孤独な存在の切なさ。それらをこの二人は見事に演じている。彼らの押し付けがましいところの全くない演技は、見事だ。静かながらも人生を前に進んでいく勇気と、人間関係の温かみを思い出させてくれる。感動的な作品に仕上がっている。

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ポールを演じるアンソニー・エドワーズは、『ER』のドクター・マーク・グリーン役で知られる。この作品では兄と母親の長く辛い死を、傍らで看続けたポールの内面的な葛藤が、抑制のきいた激しさで演じられていて、彼の繊細さと脆さが伝わってくる。他方スザンナ・フラッドが演じるケイティは、温かくありながらも他人との間の距離をしっかり保っていて、過去の何かがそうさせていることを窺わせる。最後にはその田舎町で開業している女医(エイミー・ウォーレン)による短いが印象的な登場シーンがある。二人芝居で進む控えめな演技に、彼女の演技が重なり、生きる意味の再発見への旅を感動的にしている。

観劇後ブロードウェイを歩いていたらスザンナがダウンタウンへ向かって歩いていたので語りかけ、感動に浸れた旨のお礼を述べた。彼女は最終シーンで涙を沢山流すのでまだ目が赤かったが、大きく微笑んで感謝を受け止めてくれた。6、7人一緒に歩いていたのは彼女の家族と親戚だそうで、その晩ニューヨークにこの作品を観に来たという。「スザンナさんのこと、さぞ誇りに思われているでしょうね。」と言うと、皆、嬉しそうに揃って頷いていた。(10/5/24)

Laura Pels Theatre
111 W. 46th St, New York, NY

公演時間:75分(休憩無し)
公演期間:2024年10月9日〜11月17日

舞台セット:9
衣装:6
照明:8
キャスト:8
総合:8
© Joan Mercus
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