The Jonathan Larson Project ジョナサン・ラーソン・プロジェクト

The Jonathan Larson Project
ジョナサン・ラーソン・プロジェクト

オフ・ブロードウェイ ミュージカル
The Jonathan Larson Project
ジョナサン・ラーソン・プロジェクト
The Jonathan Larson Project ジョナサン・ラーソン・プロジェクト

ミュージカル『RENT』の作詞・作曲家として知られるジョナサン・ラーソン。35歳の若さで急逝した彼の未発表の楽曲を披露するのが、この春にオフ・ブロードウェイで上演されたミュージカル『ジョナサン・ラーソン・プロジェクト』だ。

あらすじ&コメント

同作品は、ミュージカル『RENT』に魅了され、作詞・作曲家ジョナサン・ラーソンを崇拝するようになったプロデューサーのジェニファー・アシュリー・テッパーが牽引して立ち上げた同名のプロジェクトに端を発する。

彼女はライフワークとして、作詞・作曲家が残したカセットテープやフロッピーディスクなどから、未発表の楽曲を発掘することに邁進した。そして、2018年にはそれらを自らが運営する名門キャバレーの「54 Bellow」で、コンサート版として披露、大きな話題となる。

翌年には楽曲を録音しアルバムをリリース、そして今回はその集大成としての『ジョナサン・ラーソン・プロジェクト』をオフ・ブロードウェイで上演させるに至った。劇場で配布されるプレイビルには、作品の“時”と“場所”の設定が、それぞれ“現代”と“この場所”と記され、コンサートではなくストーリー性のあるミュージカルであることが示唆されている。

開演前、中央にアップライトピアノが置かれたステージには、長方形と正方形のスクリーン4枚が吊られ、そこに現代のニューヨークの街の映像などが投影されていく。客電が落とされ、披露される全18曲の歌詞の一語一句が書き換えられることなくオリジナルのままだということを強調する開演前のアナウンスが流れ、本編が始まる。すると、ミュージカル『RENT』の名曲「Seasons of Love」のお馴染みのピアノのイントロが始まり、ステージ上のスクリーンに現代の学生などの若者たちが、同曲をコーラス隊で歌っている複数の映像が順番に映し出されていく。

次に投影されるのは、ミュージカル『RENT』のオリジナル・キャストとして名を馳せたイディナ・メンゼルやアンソニー・ラップも登場する初演当時のリハーサル映像。そして、ミュージカル『RENT』のオフ・ブロードウェイ初演のプレビュー初日にジョナサン・ラーソンが亡くなったことを報じるニュース映像が流される。救急車のサイレンが耳を打ち、その後はミュージカル『RENT』のブロードウェイ昇格や、ピューリッツアー賞獲得を報じた当時の映像が順番に投影されていく。さらに、彼がトニー賞で楽曲賞に輝き、代理で壇上に立った妹が売れない芸術家の若者たちに向けて、夢は必ず叶うのだとトロフィーを掲げながら語りかけるスピーチの映像が胸を熱くするが、同作品が心を惹きつけるのは、惜しくもそこまでで終わってしまう。

女性2名、男性3名のキャストが18曲を歌っていくが、それぞれの楽曲で内容を踏まえてのシチュエーションが描かれていく。バーや居間などの場面設定は小道具やスクリーンに投影される映像と、2台のブラウン管のテレビの大道具に映し出されるビデオを以って示していくという趣向。18曲の全てが独立したスケッチとなり、各々に繋がりは見いだせず、テーマ性のないレビューのような作品に仕上がっている。果たしてなぜ“時”と“場所”を“現代”と“この場所”と設定し、それを敢えてプレイビルに印刷する必要があったのかという疑問が残るのだ。

プレイビルには二つ折りになった紙が挟まれており、そこに全曲の書かれた年と経緯が説明されている。作詞・作曲家が学生時代に書いた曲や、キャバレー向けのもの、上演にいたらなかった作品のミュージカルナンバーまで幅広い。中でも、ミュージカル『RENT』と『tick, tick…Boom!』のカット曲は非常に興味深く心が弾む。

とはいえ、本編ではこれらの背景には触れていないため、事前に知識を持っているか、開演前に解説を読まない限りは知らないまま舞台が進行してしまう。さらにはミュージカル『RENT』のカット曲は、ヒロインのミミが歌うものだったとの説明が書かれているものの、舞台では男性の出演者がソロとして披露するため、不思議な違和感を招く結果となっている。ジョナサン・ラーソンは社会派の作品を好んだことは事実だが、なぜかアメリカの政治色の濃いスケッチのナンバーに仕上げられた楽曲が多いのにも首をかしげざるを得ない。そして序盤では、出演者5名で披露する楽曲が目立つものの、それ以降に一転して各々のソロが続くようになるというバランスの悪さも気にかかってしまう。開演前にステージ中央に置かれていたアップライトピアノも、バーを示唆するプロップとして使われ、序盤の一曲で突然バンドのコンダクターが登場し弾くのだが、それ以降の曲では使用されなくなり、邪魔な道具であるかのように隅に放置されたままとなる。そして、フィナーレで歌われる「ピアノ」と題された楽曲で、実はアップライトピアノが作詞・作曲家であるジョナサン・ラーソンにとって、かけがえのないものであったことが示されるものの、後味の悪さは極まりない。

楽曲自体はどれも素晴らしく、なぜこれまで耳にすることができなかったのかと後悔さえ感じる名曲も多い。また原案としてクレジットされているプロデューサーのジョナサン・ラーソンへ傾けた情熱が残した功績は多大だ。しかし、その熱意と名曲の数々とが交わりミュージカル作品になる過程で、秀作が生まれる化学反応は起きなかった。

当初は6月1日までの予定だった期間限定公演は、前倒しとなり3月30日に千秋楽を迎えることとなったのは非常に残念だ。(3/22/2025)

Orpheum Theatre
126 2nd Avenue New York, NY 10003
上演時間:1時間30分(休憩なし)
公演期間:3月10~3月30日

舞台セット:8
作詞作曲:9
振り付け:6
衣装:6
照明:6
キャスト:6
総合:7
@Joan Marcus
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