The Little Prince 星の王子様

The Little Prince
星の王子様

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星の王子様
The Little Prince 星の王子様

フランス人サン=テグジュペリによる「星の王子さま」の舞台化である。 シルク・ド・ソレイユを手がけてきた演出家フランコ・ドラゴーヌと10年間一緒にLe Reveなどの作品を手がけきたというAnne Tournie が演出・振付を担っているので、期待どおりアクロバット、ダンス、歌が融合されたフィジカル・パーフォーマンスの作品に仕上がっていた。また、もう一人の共同演出者Chris Mouron は、歌詞だけではなくナレーターも担当している。

あらすじ&コメント

砂漠に不時着するプロペラ機の飛ぶ音が聞こえてくる。舞台の始まりだ。星の王子(Lionel Zalchas)が大きな玉の上に乗って、バランスをとりつつ舞台に出てくる。黄色いダブダブのつなぎを着ている。その表情とジェスチャーは別の星からきたナイーブで無垢な王子を感じさせる。私には今まで観た舞台や映画化された作品よりも、最も星の王子様らしい登場だった。

彼が地球の砂漠で出会う飛行機乗り(Aurelien Bednarkek)は、アクロバットはしないが、筋肉質で、美しく素直な動きをするダンサーだ

その後王子が訪れる場所は、舞台背後の壁から床に境目なくつながったプロジェクションマッピングにより、絵画やグラフィックあるいは実写で表現される。ただ前席からでは床の映像が見えないので、もし全体を感じ取りたければ中二階1列目の席をお勧めしたい。勿論運良く空いていればの話だが。

第一幕では王子の星に落ちた種が、やがて育って赤いバラの花となる。そのバラを顕すダンサーとのストラップを使った空中デュエットは、曲と見事にマッチしている。そしてエアリアル・ストラップを使った、空中を舞いながらの惑星間移動も幻想的だ。行く先々の星には家来を欲しがる王様。酒を止められない自分に嫌気がさしている酒飲み。財産勘定に余念のない実業家。スマホを片手に自撮りを続けるナルシスト。1人しか住んでいないのに、ガス燈の火を灯したり消したりし続ける点燈夫。それぞれの人生は、アクロバット的要素満載のダンスで表現され、星の王子はナレーションを通して彼らと話す。これらすべてがスピーディに展開して第1幕は下りる。

2幕目で王子は、ようやく地球に降りて来る。草原で咲きほこるバラと出会い、砂漠で狐と友達になる。その都度王子は、生きるのに大切なものを一つひとつ発見していく。そこでは原本からの引用がナレーターにより語られる。「本当に大切なものは目に見えない」、「きみがバラのために費やした時間の分だけ、バラはきみにとって大事なんだ」 などと。しかしナレーターのフランス語なまりの英語は聞き取りにくい。舞台の右左に設けられたモニターの英語を読めば解るのだが、英訳を出す位なら、フランス語で語っても良かったのではないか。そうすれば仏語の美しさと相まって、より独創的で神秘的な世界に観客を連れて行けただろう。

作品を通してだが、正確にストーリーを伝えたいという思いと、ダンスと歌で主題を描こうという試みとの間で生じた葛藤を感じた。たとえば王子が欲しがる羊を描くのに苦労する飛行士の場面では、何匹もの羊が白い着ぐるみをまとって四つん這いで舞台に出てくる。 結局王子は飛行士が書く「箱の中にいる姿の見えない羊」を見て「これこそ僕が欲しかった羊だ」と喜ぶ。しかしこの場面は、あそこまで原作に忠実になる必要があったのだろうか。 一方、王子が訪れるいくつもの惑星での出来事はアクロバット的にも素晴らしいダンスだったが、子供が理解するのは難しかったに違いない。つまり家族連れの子供たちに喜んでもらうのか、芸術作品としての舞台を楽しんでもらうのか、二兎を追ったために多少中途半端な作品になってしまっている。優れた子供向けの作品は大人になっても楽しめるし、優れた芸術作品は子供であっても何かを感じ取るものだと個人的には思う。恐れず後者に的を絞って欲しかった。収益に配慮したのかも知れないが、サン=テグジュペリは本の前置きで「フランスの苦渋しているある大人(友人)に捧げる」と述べているのだから、プロデューサーは家族連れを無視しても良かったと思う。

「星の王子様」は舞台化、映画化、オペラ化、バレエ化などされ、数多くの作品がある。だが成功しているのはごく僅かだ。扱いが難しい小説なのだろう。とはいえ、政治的で理屈っぽいものばかりが並ぶ最近のブロードウェイにおいては、まるでこの舞台、オアシスのようだった。もう一度見に行こうと思う。

なお星の王子様はフランスで書かれたと思っている人は多いだろう。だが実はサン=テグジュペリが1941年から27ヶ月間ニューヨークにいた時に執筆されている。そして1943年に、フランス語版と英語翻訳版が同時に米国で上梓されている。
04/15/2022

Broadway Theatre
1681 Broadway (West 53rd St.)
公演時間:1時間50分(休憩1回)

舞台セット:9
作詞作曲:9
振り付け:9
衣装:7
照明:9
総合:9

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