ザ・ロスト・ボーイ
あらすじ
離婚した母ルーシーと10代の息子マイケルとサムの3人は、カリフォルニアのある町に引っ越して来た。ここは、一見美しいビーチと賑やかなボードウォークがあるが、「行方不明」のポスターが目立ち、夜になると危険な場所へと変貌する。
アルコール依存で暴力的な父親を持ち、もともと孤独を抱えていたマイケルは、見知らぬ土地へ連れてこられたことに苛立っていた。しかし、地元のロックバンドのカリスマ的なバンドリーダーのデイヴィッドに出会う。そして、デイヴィッドもまた父親不在の環境で育ったことを知り、急速にバンドメンバーたちへ親しみを感じ始める。一方、明るい性格の弟サムは、兄とその仲間たちの恐ろしい秘密に気づき始めるのだった。
見どころ
この作品の最大の見どころは、何と言っても空中シーンと迫力の舞台美術だ。約20メートルもの高さまで俳優たちが宙に浮かび上がる本格的な飛行装置を使い、ワイヤーでつながれた俳優たちが自由に空中を移動・浮遊する演出が圧巻。
美術セットはパレス劇場の高い天井を最大限に活かした3階建ての巨大多層構造になっており、床から天井までの空間をフル活用している。
ヴァンパイアの棲家となっている工場の廃墟には、実際に稼働するエレベーターが組み込まれている。さらに、エマーソン家族の家の2階部分は舞台袖などから出入りするのではなく、天井裏から降下して現れる仕組みになっており、床下へ消えるトラップドアや昇降装置など、垂直方向の演出が多用されている。
オーケストラピット自体が可動式プラットフォームになっており、ロックコンサートのモッシュピットに早変わりする発想も実に面白い。
セットデザイナーのデイン・ラファリーが「ルービックキューブのように」と語った通り、セットは回転・移動し、瞬時に家屋からボードウォークへ変わっていく。「機械仕掛けの傑作」とも評されるその三次元的な舞台装置の動きは、生き物のように変形しながら、スペクタクル感とヴァンパイアの超自然的な世界観を体感させてくれる。
特に映画でも有名な鉄道橋のシーンは、霧と照明を交えた空中振付で再現され、観客を息をのむ美しさとスリルで魅了する。全体で8つ前後の空中シーケンスがあり、上下方向へゆっくり浮遊する演出には、『スパイダーマン』や『ピーター・パン』とはまた異なる独特の幻想性がある。
音楽
音楽・作詞はロサンゼルス出身のインディーバンドThe Rescuesが担当している。
80年代ロックを思わせる力強いオリジナルスコアで、ロックアンセム、情感豊かなバラード、アップテンポのナンバーが揃っている。
劇中バンド「The Lost Boys」が実際にステージ上で演奏・歌唱するシーンが多く、キャストがギター・ドラム・ベースを本気で演奏することで、「ライブコンサートのような興奮」を生み出しながらも、オーケストラとの融合により、ロックの生々しさとブロードウェイらしい洗練が見事に両立している。
キャスト
デイヴィッド役:アリ・ルイス・ブルズギ(Ali Louis Bourzgui)
2024年の『Tommy』で主演を務め、今回のトニー賞助演男優賞にノミネート。26歳とは思えないカリスマ性と存在感で強い印象を残している。
マイケル・エマーソン役:L Jベネット(L J Benet)
ブロードウェイ・デビュー作。端正なルックスと歌声が印象的。
ルーシー・エマーソン役:ショシャナ・ビーン(Shoshana Bean)
『Mr. Saturday Night』(2022)、『Hell’s Kitchen』(2024)に続き、今回3度目のトニー賞にノミネート。公園でのデートシーンでは、回転する乗り物の上でも安定した歌唱力で強い存在感を見せる。
サム・エマーソン役:ベンジャミン・パジャク(Benjamin Pajak)
現在15歳という若さながら、才能あふれる演技で今後が非常に期待される若手俳優。
コスト
週間興行収入は最高110万ドル超、客席稼働率も好調週で約91%を記録し、早期の累計興収は約620万ドルに達している。制作予算2500万ドルの回収には、継続的な高チケット販売や、ライセンス系の収入も必要だろう。
週間運営費の詳細は公表されていないが、業界の目安から推測すると100万ドル前後の可能性がある。5月上旬に最多ノミネート(12部門)を受けた影響で、売上は現在のところ上昇している。パレス劇場の席数は1648席。継続的に100万ドル超えを狙える位置にはいる。
感想
家族の絆、誰かと深く繋がりたいという孤独な心、子供時代の虐待から自己発見に至るテーマをヴァンパイアの物語に融合させた意欲作だ。
伝統的な吸血鬼フォークロアと異なる独自のルールがいくつかあり、最初は戸惑う部分もあるかもしれない。しかし、これは「80年代ロックでクールな新しいヴァンパイア像」を目指した創作設定だと理解すると、すんなり楽しめる。
一つ、シングルマザーの新しい恋には随分と時間をかけている一方で、デイヴィッドのバックストーリーは示唆されるだけで、彼と父親との関係は具体的に描かれないまま終わってしまうのが惜しい。最後に短い場面だけでも描かれていれば、家族の絆という全体テーマがエマーソン家だけの話に留まらず、より深く響いただろう。
しかし、見どころの空中フライングと複雑な多層セットは、ストーリーの弱点を補って余りあるスペクタクルを提供してくれる。天井から逆さまのまま静かに降下してくるヴァンパイアの不気味さは特に秀逸で、『Stranger Things』のようなダーク寄りの作品ほど残酷描写には振り切っていないため、ホラーらしい怖さとスリルがありながら、幅広い観客が楽しめるエンターテインメント作品となっている。
「ピットをセットの一部にする」工夫のおかげで、本物のロックコンサートのような没入感が得られる。ただし、前方のオーケストラ席の端では、ピットによって一部視界制限になる場合があるので、席選びの参考に。 (5/15/2026)
*トニー賞12部門ノミネート
- ミュージカル作品賞
• ミュージカル脚本賞(David Hornsby & Chris Hoch)
• ミュージカル作曲・作詞賞(The Rescues)
• ミュージカル演出賞(Michael Arden)
• 編曲賞(The Rescues+音楽監督)
• ミュージカル舞台美術賞(Dane Laffrey)
• ミュージカル衣裳デザイン賞(Ryan Park)
• ミュージカル照明デザイン賞(Jen Schriever & Michael Arden)
• ミュージカル音響デザイン賞(Adam Fisher)
• 振付賞(Lauren Yalango-Grant & Christopher Cree Grant)
• ミュージカル助演男優賞(Ali Louis Bourzgui)
• ミュージカル助演女優賞(Shoshana Bean)
Palace Theatre
1564 Broadway(47th Street角) New York
公演期間:2026年4月26日〜
上演時間:2時間30分(休憩含む)





