ザ・レセプショニスト
2度のトニー賞受賞歴を持つケイティ・フィナーランが、作品名となる会社の“受付係”を演じる同戯曲は、2007年にオフ・ブロードウェイで初演されたダークコメディのリバイバル。
2001年の同時多発テロ事件によってテロリストとの戦いが始まり、アメリカ政府公認で当時CIAが容疑者に行った拷問に等しい過酷な強化尋問にインスパイアされて書かれた、出演者が4名の作品だ。
舞台はとあるコンサルタント会社の北東支社で、ケイティ・フィナーラン演じるビバリーは次々とかかってくる電話の応対、社員用のコーヒーの準備などで多忙を極め、その合間を縫って同僚の女性社員ロレインと世間話に花を咲かせる。
物語は北東支社がどういった業務内容を提供しているかが明らかにされないまま進行し、本社から重役の男マーティンが予告なく突然訪問してくるところから急展開。
まだ出社していない北東支社の代表エドワードを粘り強く待つマーティンと親しく会話を交わすビバリーやロレインだが、次第に同コンサルトタント会社の実態が垣間見えてくるようになるのだ。
ここからはネタバレを含むが、中盤に北東支社の代表エドワードが出社してくると、この会社は公にはできない闇事業を請け負っていることが観客に示唆されていく。
エドワードは与えられた拷問のミッションを良心から遂行できず、本社の重役マーティンにその責任を咎められていることが次第に明らかになる。
エドワードの妻が本社により自由を奪われたことが暗示されると、夫はマーティンの圧力に屈し、未来の保証さえない強制連行に応じるしか選択肢がなくなるのだ。
マーティンの目を盗んで逃走を謀るロレインにも追手が放たれ、エドワードによる拷問ミッションの失敗の事実を知ったビバリーさえも拘束の対象となってしまう。
楽観的な性格の受付係だと終始認識できる主人公ビバリーが、果たして会社の実態を周知していたかは観客の想像に任せられ、これが同作品の最大の謎として強烈な印象を残すこととなる。
このように間接的な表現や台詞で実態を曖昧にし、予想を覆す物語の進行を以って観客の恐怖心を煽り、謎が解かれないままの後味の悪ささえ持ち味とするかのようなダークコメディ/ブラックコメディはこれまでにも多々あった。
先シーズンのブロードウェイでは、パラノイアやカルトを切り口に政府による陰謀説に迫った、2006年の映画版でもお馴染みの戯曲『バグ』が初演され大成功したばかりで、他にもミュージカル化もされた『貴婦人の訪問』などの例もある。
こうした作品は観客に極度な違和感を抱かせることなく、常識から逸脱した作品の世界へと段階をふんで引き込むことで成立していく。複雑なメッセージやテーマと向き合った作品もあるが、『ザ・レセプショニスト』に至ってはあくまでもエンターテインメント性を追求した類のものだと感じ取れるのが特徴。
開演前にはジャネット・ジャクソンやテイラー・スウィフトによる軽快な楽曲が流され、当然のように戯曲の方向性が仄めかされることはない。
そして開演すると、北東支社の代表エドワードが壁に囲まれた狭い空間の中にある椅子にひとりで座り、自身の趣味と妻のことを独白。
フライフィッシングが好みで捕まえた魚が弱っていない限りは必ずリリースするのだと慈悲深い性格を滲ませていく。
そして舞台が北東支社のオフィスに移ると、受付係のビバリーの天真爛漫な振る舞いや、同僚のロレインとの恋愛についての会話などとともに笑いが豊富で軽快に進んでいき不穏な空気が漂うことはない。
4人の登場人物のごく一般的な家庭環境といったプライベートも包み隠さず語られることから、秘められた結末に気がつくのは至って困難。
オフィスを舞台にしたシチュエーションコメディを匂わせながらも、最終的にはカフカ風の世界観を持つサスペンスへと生まれ変わっていく。
徹底した恐怖による統制がとれた不気味な組織についての戯曲として成立するのは、クライマックスにかけての悲壮感の漂う出演者の演技力があるからこそで、飽和感を抱くことのないスリリングな80分間を十分に楽しめた。(5/9/2025)
Second Stage/The Pershing Square Signature Center
480 W 42nd Street New York, NY 10036
上演時間:80分(休憩なし)
公演期間:2026年5月24日まで



