The Roommate ルームメート

The Roommate
ルームメート

演劇 ブロードウェイ
The Roommate
ルームメート
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異なった環境で生活してきた全く違う性格の二人の中年女性が、オハイオ州の田舎でルームメートとなるところから物語は始まる。彼らの似ているのは、今までの生き方を変えたいと願っているところだ。二人の人生が、そのとある一軒家で交差し、やがて離れていく。その居間で繰りひろげられる大女優二人の演技を、1時間40分間、じっくりと観ていただきたい。

あらすじ&コメント

異なった環境で生活してきた全く違う性格の二人の中年女性が、アイオア州の田舎でルームメートとなるところから物語は始まる。彼らの似ているのは、今までの生き方を変えたいと願っているところだ。二人の人生が、そのとある一軒家で交差し、やがて離れていく。その居間で繰りひろげられる大女優二人の演技を、1時間40分間、じっくりと観ていただきたい。

この大女優とは、ミア・ファロー(79歳)とパティ・ルポーン(75歳)。両人ともコネチカット州に住んでいて友達付き合いをしているらしく「全く違う性格なので相性が良い」と語っている。ミア・ファローは、20代始めに映画『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)で悪魔の子を宿った妊婦を演じて一世を風靡した独特の個性と雰囲気を持った女優だ。私生活ではフランク・シナトラやアンドリュー・プレヴィン(指揮者)と結婚、離婚を繰り返し、その後、映画監督/俳優のウディ・アレンと同居している。養子も含めて14人もの子供を持った彼女だったが、その中の夫プレヴィンと結婚していた間に韓国から養女に迎えた娘がウディ・アレンと関係を持ったことで、彼とも別れている。ちなみにウディ・アレンは、40歳ほどの歳の差を乗り越えて25年以上経った今も、東洋系のその彼女と仲睦まじい結婚生活を送っている。

もう一人の主役パティ・ルポーンは、ミュージカル『エビータ』のブロードウェイ・オリジナル初演(1979年)で主人公エバ・ペロンを演じた名女優。この作品で1980年のトニー賞 ミュージカル主演女優賞を受賞。その後トニー賞を3回、アカデミー賞を2回、オリバー賞を2回受けている。数年前、ソンドハイムのリバイバル「カンパニー」でトニー賞にノミネートされた後、俳優ユニオンから脱退し、よもや引退かと多くのファンが残念がったのだが、その後ユニオンを脱退しても舞台には立てる、という最高裁判決が出て活動できるようになり、復活の最初の舞台が本作品がとなった。

アイオワ州の田舎に住むシャレン(ミア・ファロー)は夫に離婚され、大学に入り家を出て行った息子も彼女からの電話には滅多に出てくれない。そこで一人ぼっちになった家にルームメートを募集したところ、ニューヨークの中でも一番危険な街で知られるブロンクスから、ロビン(パティー・ルボン)がやって来た。おしゃべりなシャレンは、身近にいるロビンにやたらと話しかけるのだが、ロビンは中々自分の話をしようとしない。それでも早々に分かったのは、ロビンはレズビアンで、喫煙者で、完全菜食主義者だということだった。田舎の専業主婦としての人生しか知らないシャレンは、最初の二つに胸をざわつかせたのだったが、ブロンクスで一人生きてきたロビンの堂々とした態度や豊富な知識に、強く惹かれていくのだった。

ある日シャレンは、ロビンがポーチに置きっぱなしにしていた引越し箱の中に、何枚もの運転免許を見つける。写真は皆ロビンなのに、名前はどれもロビンではない。そこで家に戻ってきた彼女を問い詰め、ロビンが詐欺師だったことを知る。だが批判はしない。それどころか反対にそんな違法行為に興奮し、自分にも詐欺の方法を教えてくれとロビンに乞い迫る。

ロビンは困ってしまう。というのも法律家になった娘から詐欺師のお母さんとはもう会わない、と宣言をされたのを機に、ブロンクスからアイオワ州の平和な田舎に身を落ち着けることで、悪から手を洗おうという計画だったからだ。その試みが巧くいけば娘との関係も取り戻せる。しかしシャレンの要求は執拗極まりない。しかし自分の手を染めるわけではないわけだし、とシャレンにその技を教え始める。

やがて幾多の詐欺手法を身に着け、磨きをかけていくシャレンは、変化していく自分にワクワクし、以前のようなドギマギした様子はどんどん消えていって大胆になる。彼女は知り合いにフランス人を装って電話で献金を受けたり、読書クラブで知り合った老人男性の孫にマリワナを売ったりして、お金を稼げるようになる。そして何かあった時のためにと、自動小銃まで買ってくる始末だ。かつて自分は世間知らずで退屈な人間だと引け目を感じていたシャレンだったが、今は他人を騙すことに興奮し、優越感さえも覚えるのだった。一方、他人に心を閉じていたロビンは、アイオア州の自然の中で蜂を育てて生活の糧にしたい、などと口にするようになる。

ある晩、久しぶりのデートから帰ってきたシャレンは、車中で抱き合った男から盗んだ腕時計やライターを誇らしげにロビンに見せる。どれほどデートを楽しめたのだろうかと気を揉んでいたロビンは呆れてしまう。が、心ならず笑ってしまうのだった。

デートでほろ酔い気分になっていたシャレンは、居間のプレーヤーにスローバラードのレコードをかける。そしてロビンを誘い、抱き合いながらスローダンスを始める。やがて突然足を止めたシャレンは、ロビンの口に長いキスをした。ロビンは途中でシャレンを振り切る。驚いたシャレンは「怒ったの?」と謝るが時すでに遅く、ロビンは「寝る」と言い残してベッドルームへ去っていった。

次の朝、シャレンはいつもの様にコーヒーを煎れてロビンを待っているが、すでに彼女は荷物をまとめて家を去っていた。シャレンはまた、一人になってしまったのだ。

ロビンが居なくなった家の階段下には、石膏人形たちが何個も置き残されていた。ロビンがブロンクスで作ったという人形だった。シャレンは悲しさと怒りに任せて、それらの人形を床に投げつけて粉々にしてしまう。しかしその中から、小さなビニール袋に入った白いコカインの粉末が姿を顕すのだった。そこにロビンから電話がかかってくる。電話越しにロビンは、自分を優しく受け入れてくれた礼を述べ、いつかまた訪問することもきっとあるよ、と伝える。涙ながらに電話を切ったシャロンは、空虚な家に一人立ちつくす。そして石膏のかけらに交じった白い粉の袋に目をやり「悪行も、自由の一つ」と呟くのだった。

2017年、ウィリアムズタウン・シアター祭で本作品が、今回の二人とは違う地味な女優二人によって淡々と演じられた時には「純粋に作品の良さが出ていた」とニューヨーク紙の劇評家が述べている。つまり当時は今回の様に、有名大女優二人の演技に魅せられることを期待する観客していなかった、というのだ。確かに個性の強さで名が知れたこの二人による芝居は、セリフに必要以上に多様な意味が吹き込まれ、著者が思ってもみなかった余波が加わっている。ルポーンは、エビータを演じきった事でも分かるように、男まさりながらも心の中はより女らしい女性を演じさせると逸品なのだが、その彼女がレズビアンを演じるというのも微妙だった。特に最後のシーンでは、化粧の濃い顔に綺麗にカールされてケアされた長髪、溢れそうな胸が見える大きい襟のワンピースは、どうみてもレズビアンには見えない。だから酔った勢いでキスをしてくるシャレンに対して、傷つくのが目に見えている「ストーレートの女性との恋」はしたくないと言うロビンの哀愁が伝わってこない。夫にも息子にも飽きられたシャレンは、なんでも試したいという気持ちで、悪気なしに人を傷つけていく。次第に悪に染まっていくミア・ファローが描くシャレンは、不気味に見えてくる。これこそまさにミア・ファローの役者としての原点なのかも知れない。(9/10/2024)

the Booth Theatre
222 W 45th St.
公演時間:1時間40分(休憩なし)
公演期間:2024年9月12日~12月15日

舞台セット:8
衣装:6
照明:8
キャスト:7
総合:8
©Matthew Murphy
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