Tootsie トッツィー

Tootsie
トッツィー

ミュージカル ブロードウェイ
Tootsie
トッツィー
Tootsie トッツィー

1982年、ダスティン・ホフマン主演で大ヒットしたコメディー映画のミュージカル化。 くだらない昼ドラを女装したマイケルが視聴率最高のドラマに仕立て上げていくという設定が、ミュージカル版ではテレビドラマではなく、ブロードウェイのミュージカルとなっており、劇中劇になっているところが大きな相違点だ。元の映画がすでに面白く出来ているが、ロバート・ホーンによる台本とデヴィッド・ ヤズベックの歌詞はユーモアたっぷりで、最初から最後まで笑いが絶えることの無い最高のコメディー・ミュージカルに仕上がっている。

あらすじ&コメント

俳優のマイケルは、演技への思いと自我の強さと持ち前の短気な性格から、あらゆるニューヨークのディレクターと喧嘩になってしまう。中でも演出家のロンは、二度と彼を雇わないと誓う。エイジェントからも「君はこの業界の嫌われ者だ。もう君のための仕事などアメリカには存在しない!」と太鼓判を押されてしまう。そこでマイケルは女装してドロシーという女優に扮してロンが演出するブロードウェイのオーディション に行き、見事に看護婦役を勝ち取る。マイケルはドロシーとして振る舞う時には、女だからとバカにされない様、イライラすることがあっても情緒的にならずに落ち着いてその怒りを表現できた。そして、今までうまく言葉にできなかった周りの人達への同情や共感する気持ちも、女性の振りをしている時の方が、何故か上手く表現でき、前よりも分別のある強い人にと変わっていった。彼は女優としてリハーサルをしながら、あい変わらない強い意志と芝居に対する情熱で他の俳優達を率い、演出家と意見を戦わせながらも、陳腐なミュージカルの作品を業界の期待を 受ける作品にまで創り変えていく。劇中劇で一緒に 演じる女優のジュリーからは親友として慕われる存在になり、次第に二人は友達以上の愛情を感じる様になる。男としてジュリーを愛するようになったマイケルは、一番嘘をついてはいけない相手に「自分が男だ」ということをずっと隠さなければならないというジレンマに陥る。

映画と違って、ジュリーは演出家ロンの誘いを最初から断り続けており、今の#Me Too のハリウッドを意識しているようだ。又、ジュリーがドロシーを好きになり、レズビアンかも知れない自分を受け入れていくところは、LGBTをサポートする 米国の社会の流れを反映している。

ミュージカルはキャスティングされてから開幕するまでに何ヶ月もかかる。その間に ドロシーのポスターが沢山出回るほど有名になっていくという設定だ。そして彼を慕って満足感と緊張感に浸りながら開幕の前の晩を迎えている俳優陣や創作チームによる明日は私の人生で一番大切な開幕日の楽曲も歌われる。しかしそんな皆にとって大事な晴れ舞台で、「自分は男だ」とマイケルであることを暴露してしまう。ここで彼は「自分のことで頭がいっぱいで分別のないマイケル」に戻っているのは、残念。

デヴィッド・ ヤズベックはミュージカル『迷子の警察音楽隊』でトニー賞最優秀オリジナル楽曲賞を受けており、彼のファンは多い。彼のミュージカル『ペテン師と詐欺師』も未だに記憶に残る。『Tootsie』も歌詞とメロディーの合致が素晴らしく、歌詞に合わせてメロディーが乗って行く感じは、ソンドハイムさえも思い起こさせる。そしてメロディーもまた美しい。サンティノ・フォンタナは役柄のマイケルとは 違うトゲのない 好青年(と言っても37歳だが)で、ダスティン・ホフマンとは正反対の雰囲気なのにも関わらず、マイケル/ドロシーは当たり役で、今年2019年のトニー賞では主演男優賞にノミネートされている。コメディーの間の取り方は絶妙で歌声も美しい。元々声は低い方なのに、よく女性の様な高い綺麗な声を出せるようになったものだと感心する。かなりの努力家でもあるらしい。彼は2010年、スカーレット・ヨハンソンの相手役として『橋からの眺め』のプレビュー公演中に、喧嘩のシーンで舞台にあったテーブルで 頭を強く打ち、脳震盪を起こした。症状はかなり重く、結局その作品には戻れなかったのだが、彼に今年1月にインタビューをした際、それについて訊いてみた。「その事故の後、 台本を覚えるのも一苦労になってしまいました。長い間リハビリと記憶訓練をしましたが、長期に渡って 自分の頭が思い通りにならないのは、とても辛いことでした。でも、あの体験のおかげで自分は変わりました。それまでは、僕にとって有名になることや認められることはとても重要でした。でもあの時、不安でいっぱいの僕はいろんな人に支えられて、人との関係や心の触れ合いの大切さが身に沁みる毎日を過ごしました。だから今は、家族や友達、そして観客の心に触れるということが、僕にとって何よりも 大切だと感じています。」と語っていた。

助演のサラ・スタイルズも、同映画でジュリー役を演じたテリー・ガーに負けていない。ドロシーに恋してしまうダメ役者を演じるJohn Behlmannも最高だ。マイケルのルームメートのジェフ役のアンディ・グロテルリューシェンは、同映画のビル・マーレイには届いていないかも知れないが、彼なりの良い味を出している。一幕目の最後は、ドロシーが感極まって夢中でジュリーに口づけをしてしまい、本人達がアッと驚くところで幕が降りる。そして二幕目のオープニングは、マイケルの前でジェフが歌う「Jeff Sums It Up(意:今の状況をまとめてみると)」 から始まるが、この歌詞がかなり笑えるので、お楽しみに。
5/1/2019

Marquis Theatre
1535 Broadway

上演時間:2時間35分(休憩一回を含む)

舞台セット:9
作詞作曲:9
振り付け:8
衣装:7
照明:8
総合:9
Photo by Julieta Cervantes, 2018
Photo by Matthew Murphy, 2019
Photo by Matthew Murphy, 2019
Photo by Matthew Murphy, 2019

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