私にとって憲法とは
あらすじ&コメント
最初は彼女が高校時代の討論会で優勝したシーンが再現される。最後まで変わらない舞台セットは討論会場の公民館の様で、歴代の軍人である中年、老年の白人男性の写真が背景の壁一面にかかっている。討論会に出場して得た賞金で学費を賄い、大学を卒業したハイディ。様々な経験を重ねる中で憲法とそれを作りあげた白人の男性達が、現実に自分達を守ってくれているのかと疑問に思い始める。鬱に入って気のおかしくなった曽祖母の死、家庭内暴力の中で生きた祖母、妹を父から守るために立ち上がった母を通して、男性の元で苦労の絶えなかった女性の話を綴る。そして憧れの男子生徒に誘われた生まれて初めてのデート。当然のように自分の洋服を脱がせようとする彼。そこで何故はっきりと「No」と言えなかったのだろうと考える。彼女は十代で妊娠して中絶。祖父母からの遺伝により精神的に不安定で薬を飲んでいるとも語る。時おり声をつまらせながらも滔々と身に起きた話を、多少のユーモアを含めて語り続ける。
次に、若い頃のハイディの様に討論に闘志を燃やしているという黒人の高校生女子が出て来る。彼女は憲法が黒人に対して平等でなかった歴史を語る。そして、二人は討論を行う。黒人の女の子は、今の米国の憲法を廃止する、という意見。ハイディは憲法を保持して改正をしていくという意見だ。その後、観客の一人にどちらかの意見に投票してもらう。最後に、前日の観客が劇場を去る前に書いたという質問5、6個に二人が答える。それは例えば「孤島に暮らすことになり、タコスか寿司のどちらかだけ食べられることになったら、どっちを選ぶ?」というたわいの無いもので、二人は友達同士の様に床に座り、質問の答えを考えながらおしゃべりをして終わる。
オフらしい新鮮さもあるが、非常に理屈っぽい内容なので、フェミニストや人種差別の活動に興味がないと、エンターテインメントとして楽しめる作品ではない。ニューヨークでは移民と話す機会が多いが、皆口々にアメリカに住んでいるという現実に感謝している。母国ではない場所に住む寂しさや慣れない辛さはそれぞれあっても、去った母国と比べれば、如何にアメリカが良い国かを得々と語る話を何度も聴いている。自分の国というものは、ともすると親みたいなもので、いつもそこに居て黙って受け入れ続けてくれると、とかく欠点ばかりが見えて不満でいっぱいになってしまうものだ。勿論、アメリカには変えるべきところは多々ある。しかし完全な国(ユートピア)が地上のどこかにあると勘違いし、自分達ならそんな国を造る事が出来る、という安易で傲慢な考えで失敗し、変えようとしたが前以上に住みにくい国になってしまった例は沢山ある。
当初6月9日までの限定公演の予定だったが、作者が主演である事により予算も最小限に抑えられており、ニューヨーク紙の劇評も良かった事も手伝い、7月21日までの公演延長が決まっている。
4/2/2019
Helen Hayes Theater
240 W. 44th St.
上演時間:1時間40分(休憩なし)