Yellow Face黄色の顔

Yellow Face
黄色の顔

演劇 ブロードウェイ
Yellow Face
黄色の顔
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アジア系アメリカ人のアイデンティティと人種問題に切り込む大胆な姿勢が高い評価を受け、2008年にピューリッツァー賞の最終候補となった戯曲のリバイバルである。ニューヨーク・パブリック・シアターでオフ・ブロードウェイ初上演され、その後各地を廻ってようやくブロードウェイにやって来た。

あらすじ&コメント

アジア系アメリカ人のアイデンティティと人種問題に切り込む大胆な姿勢が高い評価を受け、2008年にピューリッツァー賞の最終候補となった戯曲のリバイバルである。ニューヨーク・パブリック・シアターでオフ・ブロードウェイ初上演され、その後各地を廻ってようやくブロードウェイにやって来た。

出世作『M. バタフライ』(1988年)で有名となったデイヴィッド・ヘンリー・ウォンによる挑戦的で鋭い風刺は、まさに時宜を得ている。彼の演劇界での経験が土台にあると言われており、1990年代を背景にした劇作家ウォンの虚構の物語を中心にしたモキュメンタリー*で構成されている。実話が混在して進行するストーリーには、米国エンタテイメン界に生きるアジア人の様が、ユーモアと共に批判的に描かれている。ともすればデイヴィッド・ヘンリー・ウォンの自叙伝、あるいは回想録と勘違いしそうだが、あくまでフィクションである。

アメリカの著名な劇作家/脚本家である彼は、1957年、ロサンゼルスで中国系移民の両親のもとに生まれ、イェール大学ドラマ・スクールで脚本を学んだ後、初のアジア系アメリカ人として、冒頭に掲げた『M. バタフライ』でトニー賞最優秀演劇賞を受賞している。他の代表作に『Golden Child』『Chinglish』などがあり、ミュージカル分野でもブロードウェイ再演版『フラワー・ドラム・ソング』や、エルトン・ジョン(作曲)、ティム・ライス(作詞)と組んで『アイーダ』の脚本を書いている。

今から30年ほど​前のエンタテインメント界で、アジア系アメリカ人がさらされていた現実、すなわちアジア系のアイデンティティを持ちつつも、人種的なステレオタイプを装って対応しなければならなかった当時の業界の根深い偏見と差別が、風刺的に描かれている。そればかりか、社会的・政治的なメッセージも打ち出しており、秀逸な作品へと昇華させている。

デイヴィッド・ヘンリー・ウォンはこの作品で、ショウビズのプロの世界で能力を重視するのか、あるいはアジア人という存在を重視するのか。それらの疑念や矛盾を抱えながらの選択に苦悩する様子を経て、観客にそれらの質問を問いかけている作品だと思う。しかし実際に作品を見てみると、キャスティングに難があった。男性役を小柄なアジア人女性が演じたり、白人男性役を黒人女優俳優が演じたり、性と人種が混ざり合っていて、わかりにくいのだ。 出演者が少人数の場合、一人で数役をこなすのは珍しくないし、最近のブロードウェイでは、例えば、リーマンショックのリーマン兄弟の一人が黒人だったりなどする例もあり、役柄の人種をあえて無視して黒人俳優を起用する例が増えてきてはいる。しかし、俳優の人種そのものがテーマになって問いかける作品に、制作側がその問いかけの結論を出してキャスティングをしているため、オリジナルの作品のテーマが曖昧になって、逆に観客に伝わりにくくなっている。 興味深く、今まさに取り組むべきテーマなので、惜しい。このキャスティングではオーソドックスに無理のない一人二役位で纏めるのが無難だっただろう。

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<あらすじ>ミュージカル『ミス・サイゴン』の初演では、ベトナム人の母親を持つ主人公を、白人男優ジョナサン・プライスが演じ、英国ウエストエンドで大ヒットした。その流れでブロードウェイでも彼が演じることとなったが、米国芝居関係者労働組合エクイテイは彼の労働許可を拒否する。その旗頭がウォン(ダニエル・デイ・キム)であり、彼は純白人が演じること、および東洋人らしく見せる誇張した化粧に抗議したのだ。この抗議は大きなうねりとなり、演劇業界でのヘイトスピーチや偏見の論争が始まるのだった。(ちなみにこれは実際にあった話で、史実では表現の自由の観点からエクイテイが折れ、従前のジョナサン・プライスが演じて数々の賞を得ている。)

その後、ウォン自身が書いた作品『Face Value』で、彼がアジア系の俳優だと思い込んでアジア人役に採用した俳優マーカス(ライアン・エッゴールド)が、その後実は100%白人だったと知る。焦ったウォンは公演がスタートしたばかりのこの作品から、マーカスを、別の理由で首にする。しかしその後、この作品でアジア人を演じたことが助けになって、マーカスはアジア系アメリカ人俳優として『王様と私』などでアジア人役を務めるなどして、アジア系アメリカ人のコミュニティーに温かく迎え入れられるのだった。つまりウォンによる誤認を有利に使ってキャリアを築いていくのである。

ウォンは理想を貫きたいと思いながらも人種に対する自身の偏見やアイデンティティの複雑さ、またキャリアを積むためにはメディアからの批判を避けなければならない現実に挟まれて、数々の難しい選択と向き合わざるを得ないのだ。

後半には1990年代のチャイナゲート・スキャンダル(クリントン政権および与野党議員が中国共産党から選挙資金を得ていたとされる疑惑)に触れ、中国から移民してきた父親(フランシス・ジュ)との関係が描かれる。彼の父親は、ジョン・ウェインに強く憧れてアメリカに渡ってきた。そしてこの国で根を張って銀行で富を築き、アメリカへの感謝と強い愛国心を持っていた。しかし彼の銀行が中国にも支店を作ったということで、彼にスパイの疑いがかかり、彼のアメリカ人としての誇りは砕かれ、二度と立ち直ることはなかった。

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演出は、『Chinglish』も担当しているリー・シルバーマン。ウォン(ちなみに、Chinglish とはウォンが作った熟語で、Chinese(中国語)なまりのEnglish(英語)のこと)。主人公のウォンを演じるダニエル・デイ・キムはテレビドラマ『LOST』や『HAWAII FIVE-0』に出演して日本でも知られている。韓国の釜山で生まれアメリカで育った彼は、ハリウッドにおけるアジア系の俳優としてキャリアを築いてきた。自己疑念やユーモア、そして矛盾を抱えながら自身の行動の結果に苦悩する演技が、観客の共感を呼んでいる。ウォンの父親役を演じるフランシス・ジュは、『太平洋序曲』や、『M.バタフライ』に出演。また最近話題になったオフ・ブロードウェイの『Dead Outlaw 』にも出ている。オビー賞をはじめとする多くの賞を受賞している実力派の俳優で、この舞台ではウォンの父親の誇りをユーモラスを盛り込み、そして最後には、愛するアメリカに裏切られた哀愁を、見事に演じている。アルヌルフォ・マルドナドによる舞台装置は、時代の流れや場所がスピーディーに変化していく様子を、シンプルでありながら効果的にサポートしている。プロジェクションデザインはイー・ウン・ナム。衣装はアニタ・ヤビッチ。(9/27/2024)

* モキュメンタリー/ Mockumentary
ドキュメンタリー風スタイルのフィクション=mock(疑似)+documentary

Roundabout Theatre Company
Laura Pels Theatre
111 W 46th St, New York, NY 10036
公演時間:1時間40分(休憩なし)
公演期間:2024年10月1日~11月24日

舞台セット:8
衣装:8
照明:9
キャスト:5
総合:8
© Joan Marcus
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@ Joan Marcus
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