作品レビュー
舞台はアメリカ。 第二次世界大戦の退役軍人サム・キムラは、手元に届いた姉の死の知らせから、若き日に家族全員が強制収容されたことを思い出すところから物語は始まる。
キムラ家はカリフォルニアに農地を持っていたが、日本軍による真珠湾攻撃後、日系人だという理由だけで、強制的に土地を売却させられ、ワイオミング州に収容されてしまう。その売却額は、実際の価値より10分の1の値段だった。父親オサムにとって、毎日汗水流して働いてやっと築いた農家を奪われたことは、アメリカからの大変な仕打ちだった。彼とサムの姉の恋人のフランキーは、日系人への差別に対する不満から収容所で反政府運動を行い、逮捕されてしまう。一方、若きサムはアメリカへの忠誠心から、兵隊として日本と戦うことを希望する。彼はアメリカ兵としてヨーロッパ戦線での勇敢な活躍が評価されるが、更に忠誠心を証明しようと、最も危険な任務を引き受ける。しかし、その任務で殆どの戦友を失い、自分も負傷してしまう。終戦後、収容所で愛し合った白人看護師のハナに会う事だけを楽しみに、サムはアメリカに戻って来る。ばらばらになった家族はやっと再会を果たすのだが、そこでハナが、(→カット)反政府運動の旗をかかげたフランキーをかばって、アメリカ兵にまちがって撃たれ亡くなったことを知る。その(→自分の恋人を死なせる原因をつくった または 自分の恋人を死なせた わかりやすいかと…)フランキーと結婚して夫婦生活をしている姉と、彼らと同居していた父親のオサムに憤慨したサムは、それから50年間家族と音信不通のまま頑に独り(+で)生きていく。そこに姉の死を知らせに来たのは、実はケイの娘でありサムの姪のハナコだった。彼女からすでに亡くなった父と姉が、どれほど自分のことを想っていたかを知ったサムは、涙ながらにハナコに心を開いていく。
白黒の判断を簡単にせず、当時の日系人が置かれた複雑な心境を1世、2世、3世それぞれの目から捉えていて、アメリカを単純に批判しているだけで終わっていないこの作品には、好感をもてる。スタートレックのスールー役で有名なジョージ・タケイは、フラッシュバックした本編では一世の祖父役、そして戦争から戻って50年後の年老いたサム役の二役を演じる。かたくなになって家族をも捨ててしまった自分に後悔する場面は彼の熱演で、周り中の観客が涙していた。
70年以上前、第二次世界大戦の間受けた日系アメリカ人の扱いは、今でもアメリカ歴史の汚点となっている。日本の土を踏んだこともない日系アメリカ人も含めた約12万人が送られたと言う強制収容所で、彼らの生活は破壊され、終戦後もその人生は大きく狂ってしまった。アメリカへの忠誠を証明するために軍に入った日系アメリカ人は、特に危険な任務を託され、その生存率はアメリカ軍人の平均よりも、ずっと低いものだった。
アフリカ系アメリカ人への人種差別の歴史は、かなり大声で訴えられてきたので当然のように同調される一方で、アジア系アメリカ人はソフトな表現をする為に「Quiet Minority(静かな少数派)」と呼ばれる程で、この歴史の汚点を知らないアメリカ人も多い。
ブロードウェイでも黒人やゲイの差別への反感を表現する試みが、あらゆる作品で観られる中、アジア人への差別について語られる作品は観た事がない。当時の人々は、自分を差別視するアメリカという国に属するアメリカ人の自分と、日本人の自分の間でどれほど引き裂かれていたことだろう。 アメリカ在住の日本人に是非観てもらいたい作品だ。
一つ日本人として残念だったのは、ミュージカル『ミス・サイゴン』で有名になったレア・サロンガ以外の女性キャストに美形がいない。上演中の『王様と私』で大勢のアジア人キャストが使われて残っていないのだろうか。「Beauty is only skin deep(美人と言うのも皮一重)」ということわざはあるけれど、やはりブロードウェイ、まずは視覚から楽しませて欲しい。 舞台で何度か「Gaman (我慢)」という曲が歌われるが、一緒に行った男性が「僕の方が「我慢」の歌をうたいたくなります」と漏らしていた。
『アリージェンス(Allegiance)』が2月4日にクローズする
去年11月に開幕したミュージカル『アリージェンス』が、 2月4日にクローズすることが本日(1/6/2016)発表された。37回のプレビューを含め、150回の公演で上演打ち切りとなる。 絶賛するメディアの劇評に恵まれず、観客入場率も平均60%と好調とはいえず)、今回の決断に至った。 今後は、米国内外でのツアー公演を検討しているそうだが、日系アメリカ人の歴史を描いた作品なので、こんなに早くに閉まってしまうというのは残念だ。 この興行的な失敗により、更にアジア人を題材にした作品への投資に...[Read More]
Longacre Theatre
220 West 48th Street
New York, New York 10036
尺:2時間30分(休憩含む)
舞台セット★★★☆☆
作詞作曲★★★☆☆
振り付け★★★☆☆
衣装★★☆☆☆
照明★★★☆☆
Photo©Joan Marcus
Photo©Joan Marcus
Photo©Joan Marcus
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