Ah, Wilderness ! ああ、荒野!

Ah, Wilderness !
ああ、荒野!

オフ・ブロードウェイ
Ah, Wilderness !
ああ、荒野!
Ah, Wilderness ! ああ、荒野!

アメリカの近代演劇を築いた作家で、ノーベル文学賞も得ているユージン・オニールによる唯一のコメディー作品。ブロードウェイの初演は1933年で、映画化もされている。しかし90年近く経った今日まで、ブロードウェイのリバイバルは僅か4回。おそらく出演者の数が多いからだろう。今回逃すと次に観られるのは何時になるか分からないので、足を伸ばした。

あらすじ&コメント

1906年7月4日。アメリカ独立記念日を迎えるコネチカット州の小さな町が舞台となっている。その町の銀行の創立者ミラー氏と妻の愛情豊かな家庭では、4人の子供達がおおらかに育っている。そのうちの一人、純粋で潔癖な17歳の息子リチャードは、社会改革に情熱を燃やす一方、近所の娘ミュリエルに恋をしている。しかしミュリエルの父親から、彼女に会うことを禁じられてしまう。リチャードはヤケになり町の娼館に行くが、そこのバーで強がって一気に飲んだ初めての酒に気分が悪くなり、酩酊状態で家に戻ってくる。両親は、そんな彼を叱咤しながらも暖かい目で見守っている。

一方、ミラー家に遊びに来た家族の友人のシッドは、気立てはいいのだが、どうやらアル中のようだ。彼は16年前にミラー家の父親の妹リリーと一度は婚約までしていたのだが、 彼の酒癖が原因で別れてしまった。リリーは独立記念日を家族と一緒に過ごすためにミラー家に泊まりに来ている。二人は未だにお互いを忘れられずにいる。シッドはお酒をやめると心に誓いながらも、街中が祝杯を挙げている中で、その誘惑に負けてしまう。この二人の関係は、静かにこの物語に影を落としている。

日が暮れて恒例の花火大会が終わるころ、浜辺には若い男女の影がある。リチャードとミュリエルだ。 恋に燃える二人は、ファースト・キスの後、結婚を約束するのだった。

この作品は当初からコメディー作品と紹介されているが、現代のコメディー作品とは全く違う。作品全体が温かい愛情で包まれていて、笑うというより微笑ましい。年長者への尊敬。親戚や隣人同士の助け合い。子供と近すぎず離れすぎず、成長を見守る両親。それらは節度の中にも自由と個性を尊重する古きアメリカ、と言っていいだろう。いまではすっかり見られなくなった。

心に残った最後の場面を紹介しておこう。
2階の窓からリチャードが、夜空を見上げ、未来の夢に思いを馳せている。
その下の階ではベランダに出た両親が、肩を寄せ合い同じ夜空を眺めている。
昔のアメリカを知らないのに、何故かとても懐かしい気持ちになった。
この作品には、作家ユージン・オニールが理想として憧れた少年時代が反映していると言われている。

リチャード役は、ピーター・アトキンス。コロンビア大学の芸術学部の修士号を取得中で、ロンドン・アカデミー・オブ・ミュージック・アンド・ドラマティック・アーツ(LAMDA)による『ハムレット』やシェークスピア・アンド・カンパニーの『尺には尺を / Measure for Measure』などに出演した経験を持っている。彼のこれからに期待したい。他の出演者は皆、舞台俳優として発声はしっかりとしているが、演技は多少味気なさが残った。
2/9/2019

上演期間:2019年1月31日〜2月17日。

Blackfriars Repertory Theatre and The Storm Theatre
The Sheen Center for Thought & Culture
18 Bleecker Street

上演時間:2時間40分(休憩一回)

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