アヴァ・秘密の会話
あらすじ&コメント
エリザベス・マクガヴァン(2025年9月現在64歳)は映画・テレビ・舞台で女優として知られ、同時にシンガー・ソングライターでもある。脚本を書き、自らアヴァを演じているだけあって、秘密めいた表情と掴みどころのない気まぐれさを見事に表現しながらも、抑えがたい個性と圧倒的な存在感を放ち、観客の心に深く響く。
同作品はウェストエンドで2022年にオープンし、その後、ロサンゼルスを経て、オフ・ブロードウェイにやって来た。
物語の舞台はロンドンに暮らすアヴァのリビングルームだ。当時66歳で一人暮らしのアヴァと、妻子を持つ54歳のピーターとの対話が描かれていく。
ピーター・エヴァンス(1934–2012)を演じるのは、ブロンクス出身の俳優アーロン・コスタ・ガニス。ピーターはイギリスのジャーナリストで、当時スターの素顔を鋭く描く筆致で知られていた。
ピーターは、アヴァの過去の恋愛、とりわけフランク・シナトラとの関係に迫ろうとする。アヴァは率直に応じつつ、時には大胆に、時には防御的になりながら語る。過去に関わった男性を語る中で罵り言葉や辛辣な表現を交えつつも、素直さと率直さに満ちた正直な語りがあり、ピーター自身がそのあまりの生々しさに驚く。アヴァは、ときに語りを撤回したり時には沈黙することもある。明朝から、あるいは深夜にも交わされるこの揺れ動く対話は「秘密の会話」というタイトルにふさわしい。
トニ=レスリー・ジェームズによる衣装は、アヴァの細身の体を美しく包み込み、往年のスターらしい輝きを際立たせている。ピーターと出会った時、既に脳卒中を患い健康を大きく損なっていたが、それでも女としての火はアヴァの体から消えていなかった。朝からシャンパンを飲むアヴァは、時には風呂上がりにタオルを体に巻き、グラスを片手にタバコを吸う。その姿は、セックス・シンボルだった頃を思わせるに十分だ。
ピーターは、インタビューを重ねるうちにアヴァの女としての魅力に取り憑かれていく。次第に彼女の回想に登場するシナトラやヒューズと彼の姿が重なり、どちらを演じているのかの境界が曖昧になっていく。それが、この戯曲の凄みだろう。
演出を担うのはドイツ出身のモーリッツ・フォン・シュトゥールプナーゲル。ブロードウェイでは『Hand to God』(2015年)でトニー賞演出賞にノミネートされた実績がある。彼の演出はシリアスな題材の中に鋭いユーモアと人間臭さを織り込み、俳優同士の掛け合いに重点を置くのが特徴だ。
二人のやりとりは率直さと疑念が交錯するもので、最終的には、かつてピーターはマフィアとシナトラとの関係を記事にして彼の怒りを買った人間だったことをアヴァが知り、自伝は未完に終わってしまう。
しかしピーターとの関係を絶った後も、アヴァは映画やテレビに出演し続けた。舞台では、レッドカーペットでフラッシュを浴びる彼女のハイヒール姿が象徴的に映し出される。
実際に1990年、ロンドンで67歳の生涯を閉じる直前まで、彼女はスクリーンと観客の心に強烈な存在感を残し続けた。そして、ピーターが残したアヴァとのインタビューの記録は、彼女の遺族の承認を得て書籍化され、舞台作品として人々に紹介されるに至った。
『Ava: The Secret Conversations』は、単なる自伝の再現にとどまらず、語りと沈黙の間にある男女の複雑さを描き出している。舞台美術はシンプルでありながら、エリザベスとアーロンの二人芝居が、90分間観客を引きつけて離さない。シリアスとユーモアを行き来しながら、女を生き抜いたアヴァの人生を見せつけてくれる。
ちなみに、彼がフランク・シナトラとして美声で歌うシーンは、彼自身の生の声であり、口パクではない。(9/10/2025)
New York City Center(Stage I)
131 West 55th Street, New York, NY
上演時間:90分(休憩なし)
公演期間:2025年8月7日〜9月14日



