エスケイプ・トゥ・マルガリータヴィル  Escape to Margaretville

エスケイプ・トゥ・マルガリータヴィル  Escape to Margaretville

ブロードウェイ
エスケイプ・トゥ・マルガリータヴィル  Escape to Margaretville
エスケイプ・トゥ・マルガリータヴィル  Escape to Margaretville

新作『エスケイプ・トゥ・マルガリータヴィル』は、カントリー・ミュージックのシンガーソング・ライターとして知られるジミー・バフェットの曲を使ったジュークボックス・ミュージカルだ。彼の代表曲でタイトルにも使われている「魅惑のマルガリータヴィル」という曲が軸となり、南国を舞台にストーリーが展開される。演出はミュージカル『カム・フロム・アウェイ』でトニー賞を獲得したクリストファー・アシュリー。振付や照明も『カム・フロム・アウェイ』を手掛けた陣容。2017年にミュージカル『ノートルダムの鐘』が初演されたラ・ホイヤ劇場で初演され、その後、複数の都市でのトライアウト公演を経てブロードウェイでの開幕に至った。

あらすじ&コメント

活火山のあるカリブ海の小島の寂れたホテル、マルガリータヴィル。物語の主人公でホテルのバーの歌手タリーと、バーテンダーのブリック、ホテルの女将マレリー、飲んだくれの76歳の老人J.D.が日々訪れる観光客をもてなしている。そこに米オハイオ州から二人の女性客がやって来る。一人は婚約中で6日後に結婚式を控えたタミー、もう一人は親友で環境科学者のレイチェルだ。バーの歌手タリーがレイチェルに想いを寄せる一方で、バーテンダーのブリックはタミーに惹かれていく。楽園の開放的な雰囲気の中で、次第に親しくなっていく二組のカップル。ところが、ブリックはフィアンセがいるタミーと付き合うことは叶わず、二人の島での想い出に腹にタミーの顔の刺青を入れた。また、レイチェルは環境科学者としてのキャリアを優先したいためタリーと一緒になる決心がつかない。そしてタミーとレイチェルの島での休暇はあっという間に過ぎ、二人は帰ってしまう。

その直後に火山が大噴火、全員が急遽島からの避難を強いられる。混乱の中、タリー、ブリック、女将マレリー、そして、飲んだくれの老人J.D. は船に乗り遅れてしまう。ところが、J.D.がパイロットの免許証を持っていたことが判明。4人は隠されていた飛行機で島を脱出する。飛行中、機内でタリーはJ.D.に諭され、もう一度レイチェルに自分の熱い想いを伝えることを決意し、一行はオハイオ州へと飛行ルートを変更する。

そこではタミーとフィアンセの結婚式のリハーサルが行われている。肥満症のタミーはダイエットをフィアンセから強要されて、ストレスが次第にたまっていく。そこにタリーの一行が到着。ブリックは想いを寄せるタミーに食事制限などやめるよう促す。その直後、デブは愛せないとフィアンセに言われ、タミーは結婚を解消、ブリックと一緒になることを決意する。 一方、タリーはレイチェルに歌で想いを伝えるが、レイチェルの心は変わらない。愕然とするタリーだったが、たまたま会場に居合わせた音楽プロデューサーに才能を見初められ、プロとしてデビューすることとなる。

それから3年間の時が経過する。ブリックとタミーは結婚し女児を授かる。J.D.と女将のマレリーもいい仲になっていた。そしてタリーはミュージシャンとして名声を手に入れ、レイチェルは環境科学者として成功していた。また火山の噴火災害後の復興が進んだ島ではホテルのマルガリータヴィルが再オープンする。オープン記念の式典の為に、音楽界で有名になったタリーは島に戻ってきて彼の歌を披露した。その観衆の中にいたレイチェルは彼の歌を聴き入っていた。タミーとレイチェルは、互いの想いが時を隔てても変化がないことを実感する。そして仲間たち全員が参加するタミーとレイチェルの盛大なウェディングが大団円となる。

決してひねりのある物語ではなく、現代のカリブの島の楽園を舞台にした明るい男女のラブストーリーが展開するシンプルなミュージカル。そして、そのストーリーの中にジミー・バフェットによるおよそ30の楽曲が散りばめられている。

プロセニアムアーチの外にまで、物語の舞台となるホテルのコテージや巨大なヤシの木の大道具が組まれている。劇場ロビーのバーやグッズを販売している売店もランタンや裸電球で装飾され、バーのメニューはサーフボードに書かれ、大衆的な南国の雰囲気が劇場全体で演出されていた。因みにバーでは珍しく数種類のマルガリータが販売されている。

70年、80年に一斉を風靡したジミー・バフェットのファン層が多いため、客席にはかなりの数の高齢者が目立った。ミュージカルナンバーの一曲では、サビの一部を観客に歌わせるコンサートさながらの掛け合いさえある。フィナーレでは大量の大中小の持ち帰り自由のビーチボールを天井から一斉に降らせ、徹底的に盛り上げていた。高い天井から落ちてくる大きいサイズのビーチボールは、顔面にあたると結構痛いが、キャノン砲などとはちがう仕掛けで楽しめる。

物語に心を揺さぶられるドラマや感動はないが、昨今のアメリカ産のミュージカルにともすれば見られる性的なきわどいジョークや同性愛ネタもないので、家族で楽しめる作品だろう。レコードよりもツアーで稼いだジミー・バフェットらしく、ニューヨークに焦点を置かず、ツアーでアメリカのどの地方都市でも問題なく上演できる様な、全米で受け入れられやすいミュージカルを目指したという感じである。気取らず観られるスタンダードなミュージカルだが、ジミー・バフェットの音楽に親しみのない観客にとっては、物足りないだろう。

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