Birthday Candles 直訳:誕生日のろうそく

Birthday Candles
直訳:誕生日のろうそく

演劇 ブロードウェイ
Birthday Candles
直訳:誕生日のろうそく
Birthday Candles 直訳:誕生日のろうそく

テレビのコメディードラマ「Will and Grace 邦題:ふたりは友達?ウィル&グレイス」でエミー賞を始め、多くの賞を受けた女優デブラ・メッシングが主演。ある女性の思春期から107歳(長生き!)になるまでの90年間を、17歳の誕生日、41歳の誕生日、70歳の誕生日・・・という具合に、節目節目の様子を見せることで、その人生を濃縮して 描き出している。

あらすじ&コメント

とある田舎町に住むアーネスティンは17歳の誕生日を、台所で彼女のケーキを焼く母の傍らで迎える。手伝っていた彼女は、こう力強く宣言するのだった。

「世界では毎分250人の赤ちゃんが生まれている。1時間で15,000人。1週間では250万人よ。どうやってその中で、自分が生きた証しを残せばいいの。私は皆の様にはならない。私は反逆者よ。神様を驚かすの!」

しかし彼女は、 同じ高校で心を寄せていたマットとほどなく結婚。 そして男女2人の子供の母親となる。月日が経ち幸せな家庭を築いていたが、ティーンエイジャーになった娘が精神を病んで自殺してしまう。その死を受けいれられない夫婦の心は、徐々に離れて行く。大人になった息子が選んだ奥さんは一風変わった女性だった。しかし息子の選択に口を出さないと決めたアーネスティンは、義理の娘を明るく受け入れる。

そして孫が生まれる。赤ちゃんを抱きながら幸せに包まれるアーネスティンだった。しかし息子夫婦は離婚してしまう。夫のマットも浮気して家を去る。失意のどん底にいた彼女だったが、高校時代から自分に心を寄せていたケニスの存在に気付き、付き合い始める。ところがある日、夫マットが戻って来たので受け入れるのだが、ほどなくマットは脳梗塞で半身不随となる。彼をケアする生活の中でも自らの誕生ケーキを作る彼女だったが、やがてマットも亡くなる。そして彼女は、ケニスと遅ばせながらの結婚を果たす。平和で穏やかな老後を送る二人だったが、ある日ケニスにも死が訪れる。

今では107歳の誕生日を迎えようという彼女には孫の孫までいるが、記憶が儘ならず施設に入っている。そして誕生日、施設から抜け出した彼女は、すでに他人のものとなっている昔の自分の家の、慣れ親しんだ台所でケーキを作ろうとする。

小さな田舎町に住み続け、俳優になる夢もいつの間にか諦めた彼女だったが、人々に遍く平等に訪れる幸福と不幸を経験し、名前アーネスティンの意味のように「ひたむきで真面目」に、喜怒哀楽いっぱいの人生を生き抜いたのだった。

一幕90分で完了するこの作品、舞台セットはそのままで、変わる事はない。また主演のデブラ・メッシングも舞台から引く事はなく、鬘も衣装も変わらない。髪のスタイルは若い頃はポニーテールだが、台詞を話しながら自分でゴムを外したり上下にまとめたりと、変えていく。また体の動きや話し方を工夫し、歳の移り変わりを表現している。

夫を演じる二人以外の俳優は、子供だったり、孫だったりと何役かを演じている。若い頃、誕生日プレゼントとしてケニスがくれたオックマン(サンスクリットで「神の一部である自分」という意味)という名の赤い金魚は、ダイニングテーブルに置かれた金魚鉢から90年間、彼女を見守っている。また台所の屋根の上には、星のように上からぶら下がる多くの物体が散らばっている。三輪車、人形の家、傘、サッカーボール、ぬいぐるみ、キーボードなどなど、思い出の品々なのだろう。そして太陽に当たる部分が変化していく月も浮いている。

デブラ・メッシングにとってはおそらく、ものすごい量の台本だが、彼女は毎晩それを聴きながら寝ることで、心に染み付くようにしたという。またケーキはそれまで作ったことがなかったので、誕生日ごとのケーキ作りを自然に演技できるよう随分練習したそうだ。

彼女がブロードウェイに戻るのは2014年『マリンガーの外』以来だが、今回は当たり役と言えるだろう。

演出は、彼女を学校時代から知っているというヴィヴィアン・ベネシュによる。良くまとまっているし、彼女自身の演技も素晴らしかった。しかしあまりに多くの登場人物が、軽く生まれたり死んだり、結婚したり離婚したりするので、お茶の間で見るテレビのような軽い作品となっていることも否定できない。

American Airlines Theatre
227 West 42nd Street, New York, NY
公演時間:90分(休憩なし)
公演期間:2022年4月10日(プレビュー3月18日)〜2022年5月29日

舞台セット:9
衣装:7
照明:9
総合:8
Photo by Joan Marcus

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