Broadway Bounty Hunter ブロードウェイ・バウンティハンター

Broadway Bounty Hunter
ブロードウェイ・バウンティハンター

オフ・ブロードウェイ
Broadway Bounty Hunter
ブロードウェイ・バウンティハンター
Broadway Bounty Hunter ブロードウェイ・バウンティハンター

2018年の夏、オフ・ブロードウェイで上演され旋風を巻き起こしたのがSFタッチでアメリカの高校生の青春を描いたミュージカル『ビー・モア・チル』。楽曲がネット上で若年層の心を捉えたことがきっかけとなり大ヒットにつながり、すぐにブロードウェイ昇格が決まる。もちろん、その時点ではトニー賞などの演劇各賞を総なめにする有望株だと多くが信じて疑わなかった。ところが現実は厳しく、蓋を開けてみるとトニー賞ではオリジナル楽曲賞でのノミネートのみで、ブロードウェイでは短命に終わってしまう。

あらすじ&コメント

作品そのものは不幸な末路を辿ったが、若者の興味を演劇界へと惹きつけることに成功した作曲家ジョー・アイコニスの功績は大きい。この夏、199席のオフ・ブロードウェイの劇場で上演されたのが、そんな彼が作詞作曲、そして脚本を手掛ける新作ミュージカル『ブロードウェイ・バウンティハンター』。若年層の心を虜にした逸材の新作に期待が募った。

物語は、落ちぶれたブロードウェイ女優が賞金稼ぎ(バウンティハンター)に転職して活躍するというもの。2016年のマサチューセッツ州にある地方劇場での初演を経て、今回のオフ・ブロードウェイ上演に至った。主演はテレビなどでも知られるアニー・ゴールデンで、ブロードウェイでもベテランの中堅女優として知られる彼女が、劇中では実名で賞金稼ぎになる女優役を演じる。1951年生まれで、決して大スターとして第一線で活躍しているわけではない彼女が、自身の名で売れないブロードウェイ女優に扮するため、不思議なリアリティが加味されるという趣向だ。

若いころの顔写真を使ってオーディションに挑戦し続けるアニーだが、年齢もあり一向に合格できずに過去の栄光にしがみつくしかない。過去に出演したブロードウェイ作品のタイトルや、自宅アパートのセットに飾られたポスターなどの思い出の品は実際にアニー・ゴールデンが出演した作品のため、現実味を帯びる。現実とフィクションが入り混じった彼女の物語が展開していくのだ。

家賃が払えず、電気も止められ途方に暮れるアニーに突然、日系人女性がリーダーを務める謎の組織からアプローチがあり、賞金稼ぎへの転職のオファーが舞い込む。彼女の女優としての演技力と仕事への献身的姿勢が認められたのだ。

こうして賞金稼ぎになるためのトレーニングを開始するアニーだが、組織のメンバーたちとの訓練の場面が終わる気配なしに延々と描かれていく。ここで活用されるのは、ミュージカル『ビー・モア・チル』でもあったコメディタッチのオーバーリアクションな演技や動き。スローモーションで、映画『マトリクス』を彷彿とさせる武術を使ったアクションによる特訓のシーンがひたすら続く。

第一幕後半になり、やっと売春宿を経営する麻薬王を捕まえるというミッションを受け南米へと向かうアニーだが、そこで捕獲したターゲットが亡くなったはずの夫だった。こうして物語の方向性が一切掴めないまま迷走したかのように幕間を迎える。

首を傾げざるを得ないストーリー展開だが、第二幕になると一転、メタシアターの要素が豊富な作品へと様変わりするから驚きだ。亡くなったはずのアニーの夫はブロードウェイの演劇プロデューサーで、失敗作が続いたことに悩まされ死を装って逃げ出したという。こうして南米の売春宿と思われていたアジトで10年間かけて開発したのがブロードウェイに革命を起こす“フィアース”という薬。その新薬を使えば役者たちの体力を高めて技術を向上させ、週8回を上回る週15回公演を可能にし、収益を上げられるという。そして久々にブロードウェイで手掛けるミュージカル『Young People(若者)』のキャストで新薬を試して、披露する計画だということが明らかになる。ここから悪徳演劇プロデューサーの夫と、彼の計画を阻止しようとするアニーたち賞金稼ぎの戦いが始まるという展開だ。

もちろん賞金稼ぎたちの勝利に終わるのだが、それに至るまでにも第二幕には演劇に関する様々なジョークが散りばめられた。例えば賞金稼ぎの組織の日系女性リーダーには、アジア系には狭き門のブロードウェイでミュージカルに出演していた亡き双子の弟がいたという設定がある。役者の弟を殺したのがアニーの夫の悪徳プロデューサーで、それを受け日系女性リーダーは弟の復讐を誓ったのだ。ブロードウェイのアジア系俳優の就職難をネタにする遊び心が微笑ましい。

主役を演じるアニー・ゴールデンは良く動き、見事な声量で歌い、年齢を感じさせない。この作品はそんな彼女への作詞作曲家からのラブレターではないかと思えてくる。オープニングとフィナーレを飾るのは、“ある一定の年齢の女性”の意の「Woman of a Certain Age」というミュージカルナンバー。一見、年増のアニー・ゴールデンを揶揄しているかのような曲名だが、厳しい業界で生き残ってキャリアを積んできた彼女に一目置き、キャッチーな旋律とともに暗に称える楽曲だ。

作品そのものは1970年代のブラックスプロイテーション映画に着想を得ており、B級テイストは意図的なことのようである。その一方で、ミュージカル『ビー・モア・チル』との共通点があまりにも多い。開演前や幕間に客席でライトなBGMが流れている点がその筆頭。決して複雑ではなくキャッチーな楽曲にも酷似するメロディが多い。日本びいきな要素を含み、架空の新薬が物語の要となる点もしかりだ。さらには、作品のリードプロデューサーさえ2作品とも共通する。このプロデューサーと作曲家がタグを組んだ際には、今のところは避けられないお決まり路線なのかもしれない。                   8/2/2019

千秋楽:8月18日 2019年

Greenwich House Theatre
27 Barrow Street
上演時間:2時間(休憩一回)

舞台セット:6
作詞作曲:6
振り付け:4
衣装:5
照明:6
総合:6
(c) Matthew Murphy
(c) Matthew Murphy
(c) Matthew Murphy
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