Brooklyn Laundryブルックリン・ランドリー

Brooklyn Laundry
ブルックリン・ランドリー

オフ・ブロードウェイ 演劇
Brooklyn Laundry
ブルックリン・ランドリー
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ピューリッツァー賞とトニー賞を受賞しているニューヨーク生まれの劇作家、ジョン・パトリック・シャンリーが脚本と演出を担った悲喜劇『ブルックリン・ランドリー』。異性運がなかった男女が、人生の大波に呑まれながらも様々な絆を大切にする様子を、丁寧に描いている。主演女優は『サタデー・ナイト・ライブ』で10年以上、いろいろな役をこなしてきたセシリー・ストロングで、今回は簡素で二面性のないフラン役を、好感の持てる演技で魅せてくれる。相手役のオーウェンは、ピューリッツァー賞を受賞した『Cost of Living』(https://broadwaysquare.jp/appropriate/)で主演したデヴィッド・ザヤス。彼はこの作品でトニー賞にノミネートされている。粗野でありながら温かみが感じられる男優で、人との触れ合いを渇望しながらも楽観的でいられる、寂しい中年男を演じると天下逸品だ。

あらすじ&コメント

3件の洗濯屋を営む中年の独身男性オーウェン(50歳)はある日、店の一つブルックリン・ランドリーに洗濯物を預けに来たフランに出会う。オーウェンは初めてなのにフランに親しみを感じ、普段なら話題に揚げないような事までオープンに話していた。たとえば数年前に交通事故で腰を痛め、そのストレスで勃起障害に悩むようになった話などだ。どうやらその障害の直後に妻が去ったらしい。一方フランは今まで異性に運がなかった37歳の独身女性。オーウェンに「君は僕の前妻に似ている」とデートを提案されるが、なんて野暮な誘い方なのかと思うと同時に、最近はこのまま一生独り暮らしの可能性は高いかもと思っていたところだったので即OKしたのだった。喜んだオーウェンは、一つだけ約束して欲しいと彼女に頼む。どんなことがあっても急に連絡を断たないで欲しい*、というのだ。かつての妻が、訳も言わずに荷物をまとめて居なくなり、突然連絡もできなくなっってしまったことがトラウマになっているようだ。

初デートで互いに飾り立てず、正直に話す二人は、楽しい時間を過ごす。もしかしたらこの人となら上手く行くかもしれない、と久しぶりに気持ちが昂る二人だった。シーンは変わる。フランには二人の姉がいた。一人目の姉はガンのため余命幾許もない。その姉には子供が一人居るが、もう一人の姉にも二人の子供がいるのでそちらの姉が子供を引き取って、3人まとめて育てるのだろうと漠然と思っていた。ところがそのもう一人の姉も、末期ガン患者だったことが判明する。姉達は共々子供の父親と仲が悪かったので、二人ともフランに子供を育てて欲しいと願っていたのだった。フランは、自分にも漸くやって来た恋の成就を目前にして、それを諦め、血の繋がった家族の危機を助けるかどうか、という選択を迫られる。そして終に決意する。姉たちの家族を襲った不運を和らげ、子供たち3人を救おうと。オーウェンとの幸せを諦めた彼女は、辛過ぎるが故に何の事情も知らない彼からの連絡に応えることはできなかった。しかし姉の住む地域に子供3人の面倒を見るために引っ越す日が近づく。そこで彼女は彼に暫くぶりに連絡を入れる。しかし彼からは返事がない。だがニューヨークを去る前になんとしても逢いたい。もう一度だけオーウェンに逢って事情を伝えておきたい、とブルックリン・ランドリーを訪ねるフランだった。

ニューヨーク生まれの劇作家らしく、シャンリーはいかにもニューヨークに居そうなシンプルな一般人を描く。その回り道しないストレートな会話には親しみが湧く。一方時々言い争いになると結論が出ないまま堂々巡りする理屈の応酬は、納得できるが早く終わってくれないかという気分にもなる。

最後の二人のシーンでは、果たしてそんな決断をして良いのだろうかと心配になるが、不運に襲われた男女の悲劇を喜劇にして幕を下ろすシェークスピア的展開だと思って観れば面白い。彼の作品は今シーズン、ニューヨークで他にも二つオープンされている。その一つは先月ブロードウェイでオープンしたリバイバルの戯曲『ダウト』で、大変な評判を呼んでいる(https://broadwaysquare.jp/doubt-a-parable/)。もう一つは、昨年秋にオフ・ブロードウェイで上演された彼の初期の作品『ダニーと青い海』のリバイバル上演だ。

『ブルックリン・ランドリー』の舞台デザイナーは、サント・ロカスト。演劇、映画、ダンス、オペラの国際的デザイナーで、これまでにトニー賞4回、ノミネート24回という凄者(すごもの)だ。映画ではアカデミー賞に3度ノミネートされ、ウディ・アレン監督映画『ラジオ・デイズ』で英国アカデミー映画賞を受賞している。今回の戯曲では、洗濯屋、姉のトレーラーハウス、最初にデートする野外レストラン、もう一人の姉のアパートという、4つのシーンが周り舞台となって出てくる。一つ一つがそれぞれ細部まで作り込まれていて、そこで生活して居る人となりが自然に見えてきて作品の味わいが深まるのを手助けしてくれる。

照明デザインは、トニー賞を5回受けているブライアン・マクデビットが担っている。屋外レストランのシーンでは足元から照射される赤い閃光が、デートする二人の頬に映るグリルの炎となって、雰囲気を盛り上げていた。(3/26/2024)

*「どんなことがあっても急に連絡を断たないで欲しい」急に連絡が取れなくなることを、Ghoast(動詞)(ゴースト)と言う。I got ghoasted (急に相手と連絡が取れなくなって、別れられた)などと表現される。デートをして「すごく楽しかった」と言われたのに、その後、電話やテキストなどに全く返事がなく消えたようになること。最近出来た俗語で、デートやセックスが軽く行われるようになったアメリカでは、まだ親しくなく義理もない間の別れを簡潔にするため、単に連絡を避ける事が多くなりつつある。説明や言い訳あるいはドロドロした関係となる面倒を避けるため、その前触れも見せずに遮断することが多い。そのため相手の方はその進展に驚き戸惑い、悩み、傷つくことが多く、冷たい別れ方だと思う。簡単にセックスをする若い人が増えたのと並行して、ストーカーも増え、相手を気遣う若者が少なくなってきた昨今、仕方のないことかもしれない。

The New York City Center
131West 55th Street
公演時間:75分(休憩無し)
公演期間:2024年2月28日~4月14日

舞台セット:9
衣装:6
照明:7
キャスト:8
総合:8
© Jeremy Daniel, 2024
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© Jeremy Daniel, 2024
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