BURN THIS 焼却処分

BURN THIS
焼却処分

演劇 ブロードウェイ
BURN THIS
焼却処分
BURN THIS 焼却処分

1987年にオフ・ブロードウェイで初演され、成功を収めたラブストーリー。今回ブロードウェイでの主演は映画『スター・ウォーズ』のシークエル・トリロジー(『最後のジェダイ』『フォースの覚醒』『ザ・ライズ・オブ・スカイウォーカー』)で悪役カイロ・レン役を演じて人気を集めたアダム・ドライバー。相手役はテレビドラマ『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ』で知られ、同じく『ザ・ライズ・オブ・スカイウォーカー』でアダム・ドライバーと共演したケリー・ラッセルとあって、この若手俳優二人のファンが押し寄せ、客層は普段のブロードウェイとは随分違っていた。

あらすじ&コメント

ダンサーのアナ(ケリー・ラッセル)はマンハッタンのロフトで、ぽつんとソファーに座っている。高い天井まで繋がる大きな窓からは、外に連なるニューヨークのアパートの屋根と空が見える。数日前ルームメートのロビーがボートで事故死し、葬式から戻ってきたアナは放心状態だ。ロビーは才能溢れる若きダンサーで、彼女にとっては一緒に踊ってきた大切な人だった。アナは葬式でロビーの家族や親戚に会ったが、彼らがロビーに全く関心がないことに驚き、憤りを感じた。彼らはロビーのダンスを見たこともなく、彼がゲイであったことも全く知らなかった。そんな彼女を慰める為にバートンがロフトに駆けつける。彼はアナの長年の恋人でシナリオ・ライターとして成功している。そこにもう一人のルームメートの広告業界で働いているゲイのラリーが買い出しから戻って来て、会話に加わる。

葬式から1ヶ月も過ぎた日の真夜中、ロビーの兄ペイル(アダム・ドライバー)が突然現れる。寝ていたところを起こされたアナはバスローブ姿。ペイルは入って来た途端、挨拶もせずに「この近辺には駐車場所が全く見つからない」と大声で不平を垂らす。ロビーの持ち物を受け取りにやってきたのだが、アナの話には全く耳も傾けず、大声で次々とあらゆることに文句を言い続ける。全てのことに過剰反応して怒ったり心配する性分らしい。やっと不平や怒りを言い尽くしたからか、少しずつ落ち着いてきたペイルは、アンと普通に話し始めた。「ロビーがゲイであることを自分が家族に話してしまったので、それを恥じた家族がロビーの殺人を計画させたのではないか。ロビーが死んだのは、自分の責任だ」と泣き始める。しかし家族が殺人などを計画した証拠などはなかった。図体が大きく怒鳴りちらす彼の初対面の怖い印象とは全く違う、傷つきやすい暖かい心の男性が見えてくる。その差に驚きながら、強くペイルに惹かれていくアナ。ペイルも自身とは違う、静かな雰囲気を持つ美しいアナに惹かれていく。彼女は彼が結婚していて、有名なレストランのマネージャーをしていることもインターネットで調べて既に知っていたが、二人はいつの間にか、逢引をする仲になり月日が流れていった。

その一方で、彼女は振付師として独立するという未来に不安を感じる中、バートンの様な安定した人と平和な生活を送りたいと考える様になる。今夜こそバートンの結婚の申し込みを受け入れようと大晦日にシャンパンで乾杯する二人。そこに突然ペイルがやってくる。彼を追い出そうとするアナ。しかし、先にバートンが怒って出ていく。アナは又ペイルと一晩を過ごしてしまうが、次の朝、勇気を振り絞って彼との関係を断ち切った。

数ヶ月後、アンは振り付け師としての初の大舞台を迎える。公演は大成功だったが、パーティーが苦手なアナは一人ロフトのアパートに戻ってくる。ペイルがそこに現れる。大晦日に別れて以来の彼だった。驚いている彼女に、ペイルはラリーがアナに内緒で公演の切符を送ってくれたという話をする。ラリーは切符と一緒に「君はアナのダンスを見るべきだよ。でもこのメモは「これ燃やしてネ(Burn this) 」というメモ書きが添えてあった。アナに会いたい気持ちを何とか抑えてきたペイルだったが、彼女の公演を観てアナなしでは生きていけないと確信する。二人は今まで否定してきた相手への真剣で強い気持ちを、やっと素直に伝えてその愛を確かめ合うのだった。ラリーの「Burnt this (焼いて)」というのは、アナにお節介焼きに思われたくなかったからかも知れない。一定の距離を保ってお互いに干渉しないことを尊重するニューヨーカーらしく振る舞いたかったのかも知れない。彼女はそのメモを暖炉で燃やして、ペイルの腕の中に包まれてソファーに横たわる。二人はやっとお互いを見つけたという幸せを噛みしめる。

アダム・ドライバーは、その大きな体で表情をあまり変えずに面白いことを言うスタイルが『サタデー・ナイト・ライブ』でも人気を呼んでいるが、そんな特徴を生かしたキャスティングで良い味を出している。一方、ケリー・ラッセルは非常に美しいが、マンハッタンに住むアーティストというより、むしろ自然の多いバージニア州に住む綺麗な先生、という印象だった。演出家は『春の目覚め』でトニー賞ミュージカル部門最優秀演出賞を受賞したマイケル ・メイヤー(Michael Mayer)だ。

セリフが軽快で巧妙、尚且つお洒落で、マンハッタンで専門業に就いている若者達の生活を上手に描いている。舞台セットの転換は無く、居間だけだがロフトらしいデザインを効果的に使っていて、全く飽きない。窓の外には映画『ゴースト』 に出てきた様な 緊急避難用階段があり、そこでペイルが雪に降られるシーンもある。ステージの上手奥に台所があり、それがラリーの奥の部屋に繋がっている。又、風呂場、寝室、アパートの通路にそれぞれ繋がるドアもあり、 行ったり来たりが頻繁に行われて、あたかもドラマや映画のスピーディーなカット割りを見せられている様でもある。そのテレビか映画のような雰囲気は、更に場面と場面の間に流れる歌詞のあるポップ音楽でも助長されている。ラブシーンの前の選曲が「I’m on Fire」など、テレビドラマで使われているものを流すというのも、悪くいえばありきたり、良く言えば外さない選択とも言える。

セックスが気まぐれで軽く出来てしまう大都会の文化の中で、セックスしたからといって相手の私生活に干渉することが許される訳でもなく、そこから更に深い関係に発展するとは言えないニューヨークらしい男女の物語だ。そんな手探りで進む人でいっぱいの街だからこそ、最後に満足感を味わえるラブストーリーに仕上がっている。
4/17/2019

千秋楽:7月7日2019年

Hudson Theater
145 West 44th St. New York, NY

上演時間:2時間30分(15分の休憩一回含む)

舞台セット:9
衣装:8
照明:8
総合:8
Photo by Matthew Murphy, 2019
Photo by Matthew Murphy, 2019
Photo by Matthew Murphy, 2019
Photo by Matthew Murphy, 2019

Lost Password