Bus Stop  バス停留所

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バス停留所

オフ・ブロードウェイ 演劇
Bus Stop
バス停留所
Bus Stop  バス停留所

ウィリアム・モッター・インジ(1913–1973)の作品は、この『バス停留所』(1955)も含め、『ピクニック(Picnic)』(1953)、『草原の輝き(Splendor in the Grass)』(1961年)が映画になっているので、ご存知の方も多いだろう。『バス停留所』は、アメリカ中西部を舞台にした密室劇*である。ニューヨークのオフ・ブロードウェイでは、数ヶ月前に「Sumo 相撲」という戯曲がアジア系アメリカ人俳優によって上演された。しかし今回興味深いのは、アメリカ中西部の小さな町に生きる人々の孤独、抑圧された性的衝動、道徳の曖昧さといったテーマを深く掘り下げ、「中西部の劇作家」とも呼ばれているインジによる名作を、『バス停留所』という作品で、全キャストがアジア系アメリカ人俳優によって演じられている点である。

あらすじ&コメント

このプロジェクトは、2024年に、ニューヨークを拠点とする非営利の前衛的演劇団体トランスポート・グループ、シェイクスピアやギリシャ悲劇、チェーホフなどの古典作品の再解釈を得意とする老舗劇団クラシック・ステージ・カンパニー、そして全米アジア系アメリカ人劇団NAATCOの三団体による共同プロデュースで実現した。演出は『The Trial of the Catonsville Nine』『A Delicate Balance』『Our Town』などを手がけてきたジャック・カミングスIIIが担当している。

舞台は、カンザス州の田舎にあるバス停兼ダイナー。吹雪によって道路が封鎖され、長距離バスの乗客6人が、道沿いのダイナーに足止めされる。雪に閉ざされた一夜を背景に、見知らぬ人々の心の揺れや交流を描いた作品で、カウボーイとその友人、ショーガール、教授などのバスの客に、ダイナーの店主と学生ウェイトレス2人が加わり、ひとつ屋根の下に閉じ込められる。すると、それぞれの胸の奥に秘めた願望が交錯し、それぞれが孤独や倫理観、自身がかぶっている「仮面」と向き合っていくことになる。限られた空間と時間の中で、人間の欲望や不器用な優しさが浮かび上がっていくのだが、中でもナイトクラブ歌手シェリーと、彼女に一方的な恋愛感情を抱くカウボーイのボーとの関係が物語の中心となる。ボーの荒々しく自己中心的な愛はマッチョイズムの縮図のようだが、物語が進むにつれて、彼の人間関係へのぎこちなさが明らかになり、次第に彼が、他人は自分の肉体的な強さや金銭では動かせない独立した存在なのだ、と認識していく様子が描かれていく。一方、シェリーは、今までずっと人生を受け身で過ごし、自分が一体何をしたいのか、望んでいるのかすらわからなくなっていた。しかし、次第に自らの意思で選択出来る力が自分にはあると気づき始めるのだった。

さらに、かつては知識人だったが今は酒に溺れる元教授ライマンは、未成年のウェイトレスであるエルマに関心を持っており、そこでは彼の知性、倫理、本能のねじれが描かれる。知識が人間の品格を保証するわけではないことも示されており、エルマとの会話を通して、男性が一線を越えてしまう可能性の危うさや、その線の曖昧さが浮かび上がる。それは時代を超えた問いであり、さすがインジの作品だと言える。1950年代の戯曲でありながら、普遍的かつ現代的な視点が多く見られ、過剰な演出やドラマティックな展開に頼ることなく、静かに「人と人が通じ合うとは何か」を問いかけてくれる。

俳優8人は中国、インド、台湾、フィリピン系、日系などと多様だったが、彼らがアジア人であることを意識して観ていたのは最初の5分だけで、その後、私は純粋に人間ドラマとして鑑賞していた。アメリカという国が元来多民族国家であるため、英語さえ自然であれば、もはや肌や目の色は重要でなくなるのかもしれない。もちろん、すべてに例外がないわけではない。たとえば、2021年のブロードウェイ作品『Lehman Trilogy』は、実在の白人三兄弟を描いた物語だったが、次男を黒人俳優が演じたため、最初観客は彼が一体誰なのかがわからず混乱してしまう。しかし今回の『バス停留所』では、アジア系俳優であることが物語に障害を与えることもなく、違和感もない。

俳優陣について言えば、全体としては高い演技力を持ったキャストが揃っていた印象だ。ただ、女性キャストについては個性をもっと効かせても良いだろう。アジア人は個性を外に向けて表現する文化ではないこと、そしてアジア系俳優の層がまだ限られていることも一因かもしれない。アジア系の親が子どもに安定した職業を望む傾向が強いこともあり、俳優を目指すこと自体が難しい環境にあることも関係しているかもしれない。しかし、今後もこうした機会が増えることで、より層が厚くなることを期待したい。

ちなみに2025年のトニー賞では、『イエローフェイス』に出演した中国系アメリカ人俳優フランシス・ジューが、演劇部門における最優秀助演男優賞を受賞した。これでもトニー賞を受賞したアジア系俳優は男女合わせてまだ5人しかいない。最初の受賞は1988年、『M.バタフライ』のソン・リリン役を演じたBD・ウォン(助演男優賞)、次いで1991年に『ミス・サイゴン』でキム役を演じたレア・サロンガ(主演女優賞)、2015年には『The King and I』でルーシー・アン・マイルズ(助演女優賞。片親アジア人系)、そして2025年にはジューに加え、『サンセット大通り』でニコール・シャージンガー(片親アジア系)が主演女優賞を受賞している。(5/21/2025)

*「密室劇」
限られた登場人物が、閉ざされた空間(=密室)で展開する演劇作品のこと。
主に1つの場所、短い時間軸、少人数の登場人物で構成され、舞台転換がほとんどないのが特徴で、
リアルタイムで展開することが多く(たとえば一夜の出来事など)たいてい部屋・店・車内・監禁された空間など、一箇所に限定されている。

Classic Stage Company’s Lynn F. Angelson Theater
136 East 13th Street, NY  NY
上演時間:約1時間25分(休憩なし)
公演期間:2025年3月24日〜4月19日

舞台セット:8
衣装:7
照明:7
キャスティング:9
総合:8
@ Carol Rosegg
@ Carol Rosegg

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