客席に入ると、両サイドの壁には1980年代から1990年代のヒット映画のポスターが所狭しと貼られている。
それらは『インディ・ジョーンズ』、『E.T.』、『ネバーエンディング・ストーリー』、『グレムリン』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『リトル・マーメイド』、そして『ホーム・アローン』など、どれも年齢を問わず人気を博したファミリー向け映画。
こうしたポスターが壁に乱雑に貼られていることから、まるで子供部屋に入って来たかのような感覚になる。
1977年に芸能一家に生まれたジェイミー・アランは、10代の頃からイギリスのテレビで活躍し、“iPad マジシャン”とも呼ばれるようになるほど最新テクノロジーを導入した奇術を売りとしてきた。
今回のオフ・ブロードウェイで上演されているステージは、そんな彼が自身の父母など家族との想い出を振り返りながら、観客を巻き込んで作品のタイトル通り人々を“仰天”させるマジックで魅了していく内容となっている。
両親から買い与えられた玩具によってマジックに興味を示し始めた幼少期にまで話は遡り、父親が最新技術が好きでベータマックスのビデオテープレコーダーを所有し、テレビ番組の録画に慣れ親しんで育った家庭環境などが綴られていく。
そして見て育った当時の映画のポスターも彼にとっては大切な想い出の数々。
自分に影響を与えた映画作品のポスターを客席に貼って子供部屋のような空間を再現、かけがえのない1980年代へのノスタルジーを演出しながらルーツを辿っていくのだ。
この種のショーとしては珍しく休憩があるが、第一幕と第二幕ではテイストが多少異なる。
第一幕ではルービックキューブやコインを使ったマジックを7種類披露し、亡くなった母を偲びつつ、ラストは女性アシスタントの人体浮遊を自らも宙に浮きながらダイナミックにやってのける。
小規模なステージを考えれば、そのスケールの大きさは圧巻だ。
そして第二幕ではiPadやLEDパネルなどデジタル機器を多く使った10種類の技を次々とこなしていく。
要所ようしょで老若男女を問わず観客をステージに上げ参加型で楽しませていくのは、第一幕も第二幕も変わらない。
それと同時に自身が師事したマジシャンや憧れの大物たちについても解説、さらには所有する1584年に書かれた奇術についての最初の出版物とされる『妖術の開示』の初版を巡る不思議な偶然をミステリー仕立てでマジックとともに紹介していく。
幼少期から自身を応援してきた父親との数々のエピソードは作品の要として位置づけられ、多種多彩なマジックのみで魅せるのではなく、ヒューマンドラマの側面も加味された作品に仕上がっているのだ。
ネタバレは控えるが、その中でも『ネバーエンディング・ストーリー』に纏わる彼の父親との記憶は、本編を通して最も印象深い見せ場となっており心を動かされる。
ジェイミー・アランズの軽快なイギリス英語が耳に心地よく、女性二人と男性一人のアシスタントとの相性も抜群で、構成の良さから一切の飽和感を覚えることがなく2時間が過ぎていく。
本人も繰り返す通り、敢えて小規模なスペースでのマジックショーを目指したというのも賢明な選択だったと実感できる。
ニューヨーク演劇界では、マジックが劇中の特殊効果として使用されるミュージカルやストレートプレイは多々あり、『アラジン』などの作品や『ストレンジャー・シングズ:始まりの影』がその代表例。
しかし、奇術に特化したマジックショーとなると話は別で、デビッド・カッパーフィールドなど数々の大物が長年にわたってステージに立ち続けているラスベガスとは異なる。
ブロードウェイではスティーヴン・シュワルツ作詞・作曲で、奇術の業界に迫るミュージカル『ザ・マジックショー』が1970年代にヒットしたが、それ以降は同様の作品は登場していない。
また、定期的に奇術師が劇場街の舞台に挑みマジックショーが上演されるが、年末年始などの観光シーズンに限られているのが現状だ。
一方、オフ・ブロードウェイでは複数のマジシャンが毎週月曜日の夜に公演を行う『マンデー・ナイト・マジック』が1997年より続いている。
とはいえ、“最長ロングラン記録を保持するマジックショー”として知られるこのステージも、近年は公演回数が減るばかりだ。
こうした状況を考えれば、今回の『ジェイミー・アランズ アメイズ』は非常に価値ある公演となる。
今秋のブロードウェイでは10月下旬からホリデーシーズンにかけて、奇術師のボブ・レイクによるマックショーが上演される予定。
こちらは、あのマペットがスペシャルゲストとして出演、ブロードウェイ・デビューを果たすのも見所となっており、期待が募るばかり。
今回の『ジェイミー・アランズ アメイズ』とともに、今年のニューヨーク演劇界ではマジックショーに注目が集まる機会が多いのが不思議だ。(8/10/2025)