あらすじ&コメント
この作品は2部構成になっていて、第1部と第2部の両方を観て初めて完結する。したがって2日にわけて劇場に足を運ぶか、マチネ(昼公演)とソワレ(夜公演)を丸一日かけて観劇する必要がある。当然切符も2枚必要になる。それにも関わらず、いい席は来年まですでに売り切れており、ブロードウェイ史上で最もチケット入手が難しい演劇といわれている。
ハリー・ポッター・シリーズの本はこれまで5億冊売れ、映画版は8400億円という莫大な利益を出したが、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の製作費はなんと約75億円。普通のブロードウェイの芝居の制作費が3億〜5.5億円。大規模のミュージカルでも稀に28億円を超すか越さないかということを考えると、尋常でないことがわかる。そして、その予算の半分が劇場の大改装に使われた。屋内の仕切りを変え、二階席と三階席を弧の形に変え、舞台となるロンドンのキングス・クロス駅とホグワーツ魔術学校を模して、舞台装置のアーチを客席の天井に設置。更にはロビーの照明や壁などいたるところに、作品の世界観を醸し出す装飾を施した。 そして上演を開始した4月の最初の週だけで2.3億円もの収益を上げた。
魔法使いの少年の冒険と成長を描き、全世界の若者の間で爆発的な人気を誇る 『ハリー・ポッター』シリーズの正式な続編として書かれたこの戯曲は、シリーズ最終巻『ハリー・ポッターと死の秘宝』の19年後が舞台だ。家庭を築き、父親として子育てに悩むハリー・ポッターと次男アルバスとの親子関係が軸に据えられているのは、かって第1巻が発表された1997年頃の熱狂的ファンで、今では社会人になっているミレニアム世代を意識しているのだ。また全74場面もあるシーンは目まぐるしく展開し、そのスピード感は若い観客を飽きさせない。プロジェクション・マッピングを使った映像の見せ場もなかなかだ。一方、パイロテクニクス(火薬)やラスベガスなどでお馴染みのマジック・ショーを想わせる古典的な舞台表現法もあり、『ハリーポッター』の劇中の魔法を表現しているところは好感が持てる。
2016年のロンドンで初演されたこの演劇は、彼の地で最高峰のローレンス・オリヴィエ賞を作品賞など9部門で獲得し、今も上演され続けている。『ハリー・ポッターと呪いの子』は長期にわたるロングラン公演が確約されている。今後は世界展開への期待も高まるだろう。日本国内での上演権獲得競争の火蓋はすでに切って落とされている。
ところで日本では、ハリー・ポッターの大ファンを「ポッタリアン」という可愛らしい愛称で呼ぶが、アメリカでは彼らのことを「Potterhead」と呼んでいる。 俗語でマリファナのことを「Pot」と呼び、その常習者を「Pothead」と呼ぶのだが、それにかけてハリー・ポッターの熱狂的なファンを、「Potterhead」と呼んでいる。
<ここから ネタばれ >
ブロードウェイでの開演後は、膨れ上がっていた期待が弾けたように感じるところもある。若いながらも男らしさがあったハリーは、子供に気遣ってハラハラし、泣いては妻に慰められる神経質な父親になっていた。「美しい」と本には書かれていたジニーも、中年太りで普通の人。そして本や映画では華奢で繊細な女の子らしさを感じさせながら、時折見せる芯の強さが魅力だったハーマイオニーは、国連の代表者のよう自信のみなぎる女性になっている。最初から3枚目のロンだけが本や映画のイメージに近い。又、ホグワーツ魔術学校に通うロンとハーマイオニーとの間にできた娘は肥満だ。要するに皆、あまりカッコよくない。本と映画のファンを狙った続編の舞台版であるにもかかわらず、何故主要人物のイメージをここまで変えたのか。映画の成功は、若者が理屈抜きに惹かれる青年や少女を、原作以上にキャスティングしたところにあったと思う。それに比べて今回の舞台におけるこのキャスティングは、解釈上のすごい冒険になっている。成長したファンに親近感を感じて欲しいという意図も伺えるが、夢を追うポッタリアンのイメージとは差があったかもしれない。
3/27/2018
Lyric Theater
213 W. 42nd St.
公演時間:第1部:2時間40分,(20分の休憩含む)
第2部:2時間35分2時間55分(20分の休憩含む)
大改装した Lyric Theater

Photo By Manuel Harlan
舞台セット ★★★★★
作詞作曲 ★★★★★☆
振り付け ★★★★★
衣装 ★★★★★
照明 ★★★★★
総合 ★★★★★

Photo By Manuel Harlan

Photo By Manuel Harlan

Photo By Manuel Harlan

Photo By Manuel Harlan