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舞台は、お喋りで風変わりな40代のアメリカ人女性のジョージーが、 見知らぬ老人でアイルランド生まれのイギリス人アレックスの首の後ろに、ロンドンの混雑した駅で突然キスをした直後から始まる。舞台セットは長方形のテーブル二卓に椅子二脚のみ。ステージ上にも観客席が設けられている中で、ジョージー役のメアリー=ルイーズ・パーカーが、何故突然キスなどしたのか、という話を始める。観ているこちらの方がシャイになる観客に囲まれる狭い舞台の上で、完全に記憶された台詞を、よくここまで衝動的に表現できるものだなと思う。
肉屋を引退した70代のアレックスは、その後も彼につきまとっては突拍子もない行動をする ジョージーを、 拒否もせず、だからといって受け入れもしない。嘘も事実も一緒くたにしておしゃべりを続けるジョージーの話を、彼は注意深く耳を傾けている。時には二人の会話にも親密さが漂う。ジョージーの気まぐれな行動は時には不気味さを帯びており、サスペンスをも感じさせるが、やがて二人は肉体的な関係を持つ。そして、ジョージーは行方不明になった息子を探すために、故郷であるアメリカに戻るためのお金がほしいとアレックスに頼む。アレックスは、ジョージーが彼に近づいたのは、最初からお金をもらう為だったことを知る。しかし、怒りを感じながらもジョージーにそのお金を渡す。そしてジョージーも、アレックスにアメリカに一緒に来てほしいと頼む。二人は共にアメリカに行き、ジョージーの息子を捜し回るが手がかりもなく、諦めかけたときに、アレックスは「いつまでも息子を見つける旅に付き合うよ」と言う。ジョージーは「それを聞ければ満足なの」と言う。物々交換の基本であるお金と肉体の二つの帯に沿っている男女の関係は、しかしそれだけではない、しかしそれだけである、と揺れている。観察した途端にその居場所がわからなくなる、という不確定性原理をタイトルにしたこのストーリーは、 こうかな…、と思うと違い、違うだろう…、と思うとそうだったりして、観察する観客も一緒に揺れる幕間なしの80分だ。
Samuel J. Friedman Theatre
261 West 47th Street
(Between Broadway and 8th Avenue)
舞台セット ★★★★☆
衣装 ★★★☆☆
照明 ★★★★☆
総合 ★★★★☆
Photo by Nigel Perry
©Joan Marcus 2016