意訳:私は酷い有様 / 私は反乱を起こす
あらすじ&コメント
ある朝、いつものように早くからひとり、またひとりと患者らがやってくる。
最初に出てくるティーンエイジャーの患者は、付き添ってきた姉が仕事のために立ち去ろうとすると、「一緒に居て欲しい」と頼み込む。やはり悪性の皮膚癌かもしれないと、心細いのだろう。ここに来る患者は多かれ少なかれ皆そうだ。また自分が癌になったのは、自分がいけない存在だからだと思い込んでいる若い男性もいる。その彼に付き添っている母親は、音の共鳴で癌を治せると言い張っている。そして毎年癌の手術を受けていながら「まあこんなもんだ」と軽く流す中年男性も来ている。一方、妻に付き添って来た夫は、途中で妻が進行癌のため目も含めて切除することになったことを知り、それに耐えられず、妻を残して待合室から逃げ出してしまう。
芝居は、彼らが外界や診療室、手術室との間を、扉を介して行き来しながら進む。しかし残念なことにその90分間に、ひとり一人の人生が深く掘り下げられることはない。また患者同士がつながって、新たなストーリーが発展することもない。ユーモラスに描かれていて笑えるセリフも多いのだが、何も心には残らなかった。
また疑問符が付くシーンもあった。医者が待合室にきて患者と病状について話すのだが、プライベートなことを診療室以外で話す筈がないので、舞台セットの都合で止むを得なかったにしても、それと分かる工夫が欲しかった。診察した患者から生検用に切り取った皮膚を検査に回している間、そのままで待合室に患者を待たせて、その後の結果によってはすぐに手術を行うクリニックなど聞いたこともない。不条理劇じゃあるまいし、非現実的な状況を設定するのは如何なものだろう。
少しネタバレになってしまうが、更にチグハグなことがある。終盤で研修医の診断ミスが判明した時のことだ。良性だったという診断に患者は安心して帰っていったのだが、直後に医師が確認し、実は癌だったと判明した時のことだ。医師は言う。「このミスはあなたに一生つきまとうわ。ここでは決してあなたを患者に近づけない様にする。」などと、命に直接関わるミスでもないのに、その重大さをくどくどと相手を打ち負かすかのように説明し続ける。何故彼女がそこまで言うのかが説明しきれておらず、研修医が可愛そうなくらいだ。最後のシーンがそれだったので、そのまま腑に落ちずに劇場を出た。
ガードナーの脚本は、セリフ廻しも巧いし、ユーモアのセンスも光っている。しかしタイトルもそうだが、奇を衒い過ぎていて意味が伝わってこない部分が多い。舞台セットは背景が鏡になっていてドラマチックだが、それがストーリーを助けるわけでもなく、妙に格好良すぎる。全体にチグハグ感が漂う作品だった。
9/30/2022
LINDA GROSS THEATER
336 West 20th Street
公演時間:90分(休憩なし)
公演期間:2022年9月8日〜10月16日