Jaja’s African Hair Braidingジャジャのアフリカ三つ編み

Jaja’s African Hair Braiding
ジャジャのアフリカ三つ編み

演劇 ブロードウェイ
Jaja’s African Hair Braiding
ジャジャのアフリカ三つ編み
Jaja’s African Hair Braidingジャジャのアフリカ三つ編み

ガーナ系アメリカ人劇作家ジョセリン・ビオのコメディータッチの新作で、以前このブログにも書いたオフの戯曲『Our Dear Dead Drug Lord』を担当したホイットニー・ホワイトが演出している。劇場に入ると、あらゆるアフリカのブレイディング(三つ編み)のスタイルが舞台幕に描かれているのが目に飛び込んでくる。これは髪を根本から細かい三つ編みにしていく黒人特有のスタイルで、隣に座る黒人女性二人も、早速「あのスタイル、やったことある!」とか「このスタイルはいいよね~」と話し込んでいた。

あらすじ&コメント

幕が上がると、そこは2019年ハーレム。セネガルからの違法移民ジャジャが経営するヘアサロンの中だ。壁には所狭しと髪飾りやエクステンション商品、ヘアスタイルの写真が掛かっている。そんな商品でいっぱいの壁に、セネガルの国旗が、横長に張る場所の余裕がなかったのか縦に垂れている。ジャジャは今日結婚するのでサロンには居ないが、娘マリーがマネージャーとして店を守っているが、髪を編む専門のブレイダー3人が働いている。皆が出勤してくると、女性同士のたわいの無い会話が飛び交い、姦しく賑やかなサロンである。私は知らなかったが、細かい三つ編みになると丸1日近い時間がかかり、ブレイダーの手が腫れてしまうほどらしい。「極細の三つ編みをお願い!」と言いながらある女性客が入ってくると、ブレイダーら3人は、ささっとその客と目を合わせないように背を向けてしまうのも笑える。

マリーは4歳の時ジャジャに連れられてアメリカに来たが、高校は私立に入れてもらい成績も優秀だった。しかし違法移民なので、大学に入る時は偽ってアメリカ人の従兄弟の身分証明書を使ったらしく、「こんなことをずっと続けられない。いつかはバレてしまうわ」という不安の言葉をこぼしている。たまに、物売りの男性が店に入ってきては安物の指輪などを鞄から出して皆に見せて回る。顔馴染みの様だ。その内の一人は、一番若い娘ミリアムに気がある様で小さなプレゼントを持ってきたりする。ミリアムは一見引っ込み思案だが、人生の浮き沈みをすでに多く経験してきている。彼女は自分の客にその髪を編みながら語り出す。「夫は怠け者だったの。ある日私は友達に紹介されたミュージシャンに出会って、恋に落ちてしまったわ。そしてその人の子を産んだのよ」と話す。お客さんは「よくやった」という感じで応援し出し、ミリアムも「自分の人生を大事にしないとね~」と明るい。そこら辺は、キリスト教のピューリタンと違って、フレキシブルなようだ。

女性というのは理解しにくい生き物だと思うが、ブレイダー達の人間関係も、時には味方に、時には敵になったりして複雑だ。あるお客が入ってきて、今までとは違うブレイダーを指名した。ディスられたブレイダーは、自分の客を盗んだともう一人のブレイダーと大声で言い争いになったりもする。ジャジャの結婚相手は白人の中年男性だが、彼は他にも付き合っている女性がいるという噂も、メリーがいない空きに出てくる。壁についたモニターから音楽が流れると、そのビートにのって皆踊り出したりもする。自然に動くしっかりした腰や肩。特に頑張っているわけではないのだが、素晴らしくさまになっている。そして結婚届の為、市役所に向かう途中のジャジャがサロンに姿を見せる。皆、彼女の白いドレスを褒め称える。ジャジャ役は骨太、背は2メートル近いのではないだろうか、存在感のあるソミ・ココマ。グラミー賞のジャズ部門でノミネートされたアフリカ人歌手で、他のオフの舞台にも俳優として出演している。

ユーモアたっぷりのセリフの中に、ハーレムに暮らす黒人移民の生活と文化が丁寧に細やかに、そして鮮明に描かれている。普段の何気ない生活の断面を切り出し、人間味を加えて描くのは、演出家ホイットニー・ホワイトの得意とするところだ。そんな苦境にあっても楽しく強く生きている彼らだったが、最後にストーリーは急展開する。

(ネタバレ)夕方になって、知人が店に駆け込んでくる。ジャジャが市役所で移民・関税執行局に逮捕されているのを見たというのだ。娘のマリーは、とうとうこの日が来てしまったかと呆然となる。ブレイダー達はどうやってマリーを守るか話し合いながら、サロンを閉めるのだった。あるブレイダーの親切で、彼女のアパートにマリーはその晩寝泊まりすることにする。しかし今まで母親と二人で築き上げたお店と共に全てを失ってアメリカから追放される、という恐怖に慄くマリー。そして舞台は暗転する。

この作品はトランプ元大統領の移民に厳しい政策が出されたいた時の話で、一生懸命働いても違法移民には「暗い未来が待っている」というメッセージが込められている。しかし今はバイデン大統領下、トランプとは反対に、これまた極端な政策を打ち出し、移民は誰でも受け入れるという「オープン・ボーダー(開かれた境界線)」の元、ニューヨークのような人気の街には、身元がわからない移民が一週間に何千人と訪れ、市長が悲鳴をあげているという状況がある。ブロードウェイの舞台で上演出来るまでに長い月日がかかるので仕方がないのだが、社会問題を扱うなら時代を超越する題材にしなければ、このようなちょっと時代のズレた作品になりかねない。違法移民に対するアメリカの税金負担は2017年から2023年までに350億ドル増しており、年間の税金で考えるとアメリカ人一人あたり平均1000ドルが違法移民に回っている計算になる。この作品にスタンディング・オベーションがなかった理由の一つは、そこら辺にもあるかもしれない。(10/19/23)

The Samuel J. Friedman Theatre
261 W. 47th Street, between Broadway and 8th Avenue
公演時間:90分(休憩なし)
公演期間:2023年10月3日〜11月19日

舞台セット:8
衣装:7
照明:7
キャスト:7
総合:7
© Matthew Murphy
© Matthew Murphy
© Matthew Murphy

Lost Password