ヨナ
あらすじ&コメント
演出は2024年4月にオープンするミュージカル『アウトサイダー』を手掛けたダーニャ・テイモアだ。 題名の『ヨナ』は、主人公アナが出会う男性の名前で、同名の預言者の書が旧約聖書に含まれているのが知られいる。現代では珍しい名前なので、劇作家レイチェル・ボンズが意識していなかったとは思えないが、「ヨナ書」には様々な解釈があるので、ここでは言及しない。
率直で繊細な感情を備えた学友ヨナとの間には、信頼を元にした恋が芽生えていく。人を和ませる空気を持つヘイガン・オリベラスが演じている。ベッドシーンでの二人のティーンエイジャーらしい率直で正直なセリフは、アメリカ人なら若い時分を思い出して共感できただろう。
次に自宅の2階部屋でアナが一緒に時間を過ごすのは、義理の兄ダニーだ。ダニーは、筋肉隆々で短髪にしたサミュエル・ヘンリー・レヴィンが演じる。彼らは虐待を繰り返す父親から逃げようとしている。父親は舞台には出てはこないが、緊張の走る怖いシーンだ。ダニーはアナを必死に守ってくれる。アナが頼れるのは、悲惨な状況を共有するダニーだけなので、求めに応じて体も許してしまう。だがダニー自身も激情的な性格なので、いつかは彼がアナを襲うのではないかという恐怖がまとわりつく。その後ダニーは自殺してしまう。そしてダニーとのシーンと、ヨナとのシーンが時空を超えて行ったり来たりすると、どうやらヨナは、彼女の頭の中で想像していた理想の彼氏らしいことが見えてくる。ある時優しい声をかけてくれていたヨナが突然、ライトが点滅する中、不気味な音と一緒に開いたドアから暗い外の世界に背中から吸い込まれていってしまう。それまではヨナとのシーンは、優しく穏やかなものだっただけに、急に襲うSF映画のような怖いシーンに、観客全員は唖然となる。
3人目の男性が現れる部屋は、自然に囲まれた場所にあるアナの仮宿だ。若い頃からの夢だった執筆家になったようで、小説を書く為にここに来たらしい。そこに隣人スティーブンが訪れてくる。彼は姿勢が悪く、お世辞にもカッコいいとは言えないのでアナの想像の産物ではないことは明らかだ。彼は妙にオドオドしてぎこちないので、ひょっとして変態なのではないかと心配しながら見てしまう。元モルモン教徒で今は宗教に嫌気が指しているというが、やがて優しい心の持ち主であることがわかってくる。眉毛が八の字に垂れていて背が高く、飄々とした雰囲気のヘイガン・オリベラスが巧く演じている。
アナは時々、ヨナとの空想の関係に逃げ込み、優しい言葉をかけてもらいながら若い頃に受けたトラウマに向き合おうとしている。この作品は、厳しい環境に生まれた女子が多くの困難な出来事を受け入れ、自分を肯定しながら一歩づつ前進していく様子を辿る作品となっている。そして観客は、知らぬ間にそれを心から応援している。ヨナは最後にアナに「大丈夫かい?」と何度も聞いてくる。そして「大丈夫よ」と答えるアナを置いて、ドアの向こうの背景に、再度引き込まれて消えていった。(01/27/2024)
The Laura Pels Theatre at the Harold and Miriam Steinberg Center for Theatre
111 West 46th Street
公演時間:100分(休憩なし)
公演期間:2024年1月11日~3月10日