Lobby Hero ロビー・ヒーロー(上演終了)

Lobby Hero
ロビー・ヒーロー(上演終了)

演劇 ブロードウェイ
Lobby Hero
ロビー・ヒーロー(上演終了)
Lobby Hero ロビー・ヒーロー(上演終了)

タイトルを直訳すると「ロビーの英雄」となる。作品を観れば皮肉に満ちたタイトルになっていることに気付くだろう。今回の上演では脚本家ケネス・ロナーガンの描く複雑な人間の内面を、いずれも名の通った、あるいは注目を浴びている4人の俳優が演じきっている。

脚本家ケネス・ロナーガンが脚本を書いて監督もした「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は、2017年アカデミー脚本賞を取っている。またその前に彼が原作を書いた「アナライズ・ミー」は、ロバート・デ・ニーロ主演でヒットした。まさに現在、一世を風靡している彼だが、その名を確実にしたのがこの2001年の舞台作品「ロビーの英雄」だ。

あらすじ&コメント

舞台はニューヨーク・マンハッタンにあるアパートの玄関前と扉を介してある1階のロビー。そこで仕事をしているのが警備員ジェフで、その仕事ぶりを時々見回りに来るのがボスのウィリアムだ。そして夜半にはベテラン警察官のビルと相棒の女性新人警察官ドーンが見回りにくる。

 

警備員ジェフを演じるマイケル・セラは、映画『ブル〜ス一家は大暴走!』、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』、『JUNO/ジュノ』に出演して注目を集めた男優だ。この舞台でも独特の味を出している。 『ブック・オブ・モルモン』でアフリカの暴力団リーダー役で高い評価を得たブライアン・タイリー・ヘンリーが演じるのは、警備員のボスであるウィリアム。ヘンリー氏の家族や親戚には実際に何人かの警備員がいるそうで、作品中で説得力のある演技が際立っているのも、そんな背景があるのかも知れない。

 

ベテラン警官役には「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』の主役だったクリス・エヴァンスが就き、ブロードウェイ・デビューとはなるが上手くこなしている。 紅一点の新人警察官ドーンにはベル・パウリーが配役されている。彼女はテレビ、映画、舞台などで独特の個性が人気を呼び、注目度が上昇中のイギリス人女優。今回はいかにもいそうなニューヨークの若い女性警官を、違和感なく演じている。

 

さて話は、真面目で自分にも他人にも厳しいウィリアムが、マリファナを吸って海軍から除隊させられたジェフに、ビルの警備を任せるところから始まる。その後解るのだが犯罪に手を染め始めている実の弟に彼を重ね、人生をやりなおす機会を与えようとしたのかも知れない。「寝ずに真面目に仕事を続けろよ。そうすれば人生はおのずと開けて来る。」とウィリアムはジェフに言って聞かせるのだった。 そんなジェフが警備する夜半のアパートに巡回で来るのが、警官ビルとドーンだ。先輩のビルは、刑事への昇進機会を模索中で、一方のドーンは、正規警官としての採用を目指す警官見習いだ。新人の彼女はまだ不慣れで、先日も喧嘩騒動を鎮めようと焦って、警棒を振り上げ容疑者の片目を失明させてしまった。しかし相棒のビルは、「大丈夫。審査の時には必要以上の暴力を振っていないと、うまく説明してあげる。」と彼女を安心させる。もし暴力だったと査定されたら正規採用は無くなるからだ。仲間から信頼されているビルが自分を守ってくれるので心強く感じながら、そんな約束をしてくれたビルに惹かれ、奥さんや子供がいると知りながらも既に性的関係を持っているドーンだった。

 

眠り込まずにちゃんと警備しているか、時々ジェフの様子を見に来るウィリアムだが、その晩もやってきた。お喋りのジェフは「毎晩巡回に来る女性警官に手錠をかけられて、性的に遊ばれるのを夢見ているんだ。」などと他愛のない話をとめどなくする。しかしその晩のウィリアムにはそんな話は上の空だ。何か別の事で頭がいっぱいの様子だ。「どうしたの?」としつこく訊くジェフに、実弟が自分のような全うな道を歩めず、最近は悪い奴らと一緒に行動しているらしいことを話す。そして昨晩その弟のガールフレンドから電話があり、弟が殺人容疑で捕まったらしい事。それで悩んでいるのだと言う。しかもそのガールフレンドに「事件当夜、弟と一緒に映画を見ていた。」と警官に嘘を言うように頼まれたと、ジェフに打ち明けるのだった。 ウィリアムは、殺人を本当に犯したのが弟なのか、本人に問う機会がないのだが、きっとそうだろうと直感していた。はたして弟のために嘘のアリバイをするのかどうか。弟を助けたい、という気持ちと正義の間で悩んでいたのだ。

 

それから何日かしてビルとドーンがいつものようにジェフのいるアパートに巡回に来る。ビルはドーンをロビーに待たせて22階に上っていく。おしゃべりなジェフはドーンに「本当は許されないんだけれど、バレない様にいつも寝ちゃうんだ。」なんて話をしたついでに、「君の相棒のビルは、22階の娼婦エイミーに逢っているんだよ。」と言う。ビルに思いを寄せていたドーンは、裏切りに気づき半泣きになってしまう。

 

やがて1階に降りてきたビルは、機嫌の悪いドーンに「君だけが僕の人生を変えたんだ。22階に行っていたのはエイミーと同居している男友達に会うためで、今まで彼の相談に乗ってあげていたんだよ。それに今彼女は旅行に出かけていて、アパートには居ないんだ。」と言い訳をする。ドーンは、聞きたいと思っていた言葉を並べ立てられるので、心を動かされ始める。が、丁度その時、ジェフがビルに向かって「今さっき、22階のエイミーから電話があって、帽子を忘れたから取りに来て、って言伝を預かりました。」と伝える。 それを横で聞いたドーンは頭に血がのぼり、「勤務時間中にこんなことをして。絶対に上司に暴いてやる。」と言い出す。ビルはビルで開き直り「僕らのボスが君と僕のどちらを信じると思ってるんだ。冷静に考えてごらん。もし君が容疑者を失明させてしまったことを僕が庇わなかったら、いったいどうなると思うんだ。」と、ドーンを脅し返す。

 

ところで弟のために嘘のアリバイを造り上げるかどうか悩んでいたウィリアムだが、結局は幼い頃より不遇だった弟に真面目になる機会を与えたいという一心から、「事件当夜に弟は、自分と一緒に映画を見ていた。」と、自分のことを信頼してくれている警官のビルに伝えたのだった。それを聞いたビルは、いいチャンスが廻ってきたと思う。殺人事件の担当刑事にアリバイの事を伝えて容疑が見当違いであることを伝えれば、街の諸事情を知る自分の力を署内にアピールできるだろう。そうすれば刑事への昇進の手がかりになるかも知れないと考えたのだ。 それからまた数日が経つ。ビルとドーンは再び見回りに来る。そしてそれまでと同じように22階に行くビルをドーンは、ロビーで待つ。つまり彼女は正規警官になるため、ビルの不正を暴くのは止めたのだ。彼女には失明事故の審査で彼女を庇うビルが必要だったのだ。 そんなやるせないドーンだったが、あいもかわらず煩く喋りかけるジェフに、ある看護婦が殺された事件が迷宮に入っていると話す。それを聞いたジェフは、「ウィリアムの弟の殺人の話だ」と直感する。そしてドーンに、実は知り合いが、嘘のアリバイを作りあげてビルに告げたんだ、と話してしまう。驚いたドーンは、その嘘のアリバイの所為で容疑者3人組が釈放されたが、それは正しくない。どんなときでも真実を言うことが正しいのよ、とジェフに迫りウィリアムが作り上げたアリバイの全容を聞き出す。 彼女は密かに考えていたのだ。アリバイの創作を上層部に話せば、一役かったビルの信用は落ちて復讐ができる。その上、犯人釈放という失態を署外には話さないと約束すれば、正規警官採用も確実になる。一石二丁の絶好のチャンスだと考えたわけである。 しばらく経ったある日、ビルは一人、手に花を携えアパートの玄関にやってきてベルを鳴らす。ジェフは眠っていたので、すぐにドアを開けることが出来ず、ビルがしばらく待っていたところに、漸くドアは開錠され、ロビーに入れるが、そこでジェフから伝えられる。「娼婦エイミーは男と出かけたよ」と。驚き、ため息をつきながらも半ば納得したビルは、花を寂しそうにゴミ箱に放り入れてアパートを出る。ちょうどそこでアパートにやってきたウィリアムとすれ違う。「業務中に寝てるぞ、ジェフの奴は」とウィリアムに告げて去っていくのだった。 急ぎ足でロビーに入って来たウィリアムはジェフに向い、「お前は首だ。寝ている奴は首だ!」と怒鳴る。だがジェフは黙っていない。「僕がアリバイのことで告げ口したからって僕を首にするのかい。まさかビルの言葉を信じないよね。僕は仕事中に絶対、眠ったりしないのに。」と言い切る。それを聞いたウィリアムは力が抜け、「確かに自分がついた嘘を暴いたからといって君をクビにするのは正しくない。」と呟き、肩を落として寂しく去っていくのだった。   それからまたしばらく経ったある日のこと、上層部に事実を暴露して想定どおり正規警官になったドーンが、一人で巡回にやって来る。そして寂しそうにジェフに打ち明ける。「誰も相棒の告げ口をする警官とは一緒に仕事をしたがらないの。でも嘘のアリバイのことを自分に話してくれたあなたには感謝しているわ。」と。ジェフはそんなドーンを見つめ、ボスを裏切ってしまったことを後悔しているかのような顔をしながら、彼女の腕に手を伸ばすのだった。

 

ロナーガンの作品とのことで、あの「マンチェスター・バイ・ザ・シー」を観た時のやるせなさに心を満たされるのかなと思ったが、舞台だからだろうか、「真実」という半被を着て自分を守る人間の本能みたいなものに、鋭いメスを入れて巧妙に描いている小気味良い感じを受けた。社会の底辺とは言わないまでも、上流にはほど遠い階層にいる人々の日々の生活の中に、人間の嵯峨を表現しようとする彼の作品は、これからも様々な作品が話題になるだろう。

3/29/2018

メディア評

NY Times: 8
Wall Street: 8
Variety : 8

Helen Hayes Theater
240 W. 44th St

公演時間:2時間25分(10分の休憩含む)

舞台セット ★★★★★
衣装 ★★★★★
照明 ★★★★★
総合 ★★★★★

Photos by Joan Marcus

Photos by Joan Marcus

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