Melissa Etheridge:My Window      メリッサ・エスリッジ: マイ・ウインドウ

Melissa Etheridge:My Window
メリッサ・エスリッジ: マイ・ウインドウ

スペシャル・イベント ブロードウェイ
Melissa Etheridge:My Window
メリッサ・エスリッジ: マイ・ウインドウ
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メリッサ・エスリッジはグラミー賞(1993年、95年)とアカデミー賞(2007年)を受賞するという輝かしいキャリアを持つロックスターであり、Time誌による世界でもっとも影響力のある100人」の1人に選ばれるなど、今や社会面での功績も高く評価されている。彼女が生まれてから現在までの人生を自身で語りながら、その時々のヒット曲を歌うこの作品は、2022年オフ・ブロードウェイで成功した後、今回9週間限定でブロードウェイにやってきた。

 

あらすじ&コメント

シンプルにピアノが置いてあるだけの舞台。背景のプロジェクションは映像デザインのベテラン、オリビア・セベスキーが担当している。風に揺れる木々が白黒で映し出され、一見、血管と白血球に見える様な映像、サイケデリックで色彩豊かな万華鏡のような動画、彼女の若い頃の写真など、それぞれシーンに合ったものが投影されていく。メリッサは時々、舞台から降りて観客の間の通路を通り、一階席中央に設置された小さな台の上で歌う。大道具/小道具担当スタッフも実は俳優で、面白おかしくギターやジャケットを持ってきて舞台を盛り上げてくれるが、正直、メリッサ一人でも十分な舞台だった。ギターと彼女の声だけで力強いロックン・ロールを歌える才能はとにかく凄いの一言に尽きる。61歳になる彼女に若い頃のカッコ良さはない。Tシャツには腹の周りの脂肪がそのまま浮き出ているし、革のパンツもピチピチ過ぎる。しかし波乱に満ちた人生を歩んできた人間のオーラと、夢を追いかけて自分に正直に生きてきた彼女の魅力に次第に惹きつけられていく。 

小学校の頃からギターを弾き始めた彼女は、語りながら弦をポロンと奏でるタイミングも絶妙で、正に楽器と一体になっている。両親に嘆願してギターレッスンを受け始めたのは小学生の時。彼女の柔らかい指では当然、血出したそうだが、それでも彼女は弾き続けた。その頃作曲した「母親の居ない子供」と言う歌を披露してくれる。当時両親とも健在だったのだが「そう、あの頃から既に私はドラマチックだったの」と観客を笑わす。中学校になると、父親に連れられて頻繁に刑務所に行き、ギター片手に歌っていた。他に楽しみのない囚人たちが声をあげて歓迎する中、歌っていたあの感覚を今でも鮮明に憶えていると言う。12歳でタレント・ショーに出た後、大人のバンドから招待され、16歳まで4年間プロとしてそのバンドと一緒に歌った。そのギグでバーやクラブでピアノを弾いていると、酔って喧嘩したお客が投げた瓶が、弾いているピアノに当たり、運良く怪我を免れたこともあった。「大人になっても絶対にお酒には触れない」とその時思ったそうだ。そしていつの間にか彼女は素敵な恋をすること、ロックの大スターになることを夢見る様になった。高校生の時は、自らバンドで稼いだお金で車を買って運転する自立した学生だった。高校の最後の年に、仲良しだった同級生の女の子と長い長いキスをし、その頃からバンドを辞めて彼女の家によく遊びに行っては泊まったりした。大学はボストンバークレー音楽学校に入ったが勉強は性に合わず、一学期通っただけで辞めてしまう。その代わり、大学の近くにあるクラブで毎晩歌うことに没頭した。観客との繋がりを感じながら自分が作曲した歌を披露するのが大好きだったと言う。そして彼女は大スターになる夢を叶えようと、車で叔母のいるカリフォルニアに移る。そこで雇ったマネージャーは、しょっちゅうレコード会社のプロデューサーを彼女が出演するクラブに連れてきてくれたが、契約を交わすまでには至らなかった。当時レコード会社としては、レズビアンのミュージシャンはまだリスクが大きかったのだろう。5年目にやっとレコード会社と契約する。それからはうなぎ登りに次々とヒット曲を出していく。成功した後は大きなスタジアムでのコンサートが続くようになるが、観客との距離が遠くなってしまったことが彼女には物足りなかった。そして彼女が目指していたグラミー賞を受賞する。嬉しかったが、それほど興奮していない自分に気がついたと言う。そしてグラミー賞を受けた今ではなく、ここまで来る道のりが最高な時間だったんだと語る。そして、こうしてロードウェイのような場所で観客を肌で感じながらその前で歌う事が自分には一番合っていると言う。

恋多きメリッサだったが、いくつかの破局を経た後、ソウルメートと呼ぶ女性と結婚する。成功して音楽でいっぱいの彼女の人生は最高点にあった。後半に近づき、突然舞台が暗転し、薬物中毒だった息子の死について語り始める。昔、同棲していた女性が母親になりたいという希望の元、作った子だった。彼はもうティーンエイジャーになって一人住まいをしていた。もともと精神的に不安定なところがあったらしいが、一つだけ夢中になれたのがスノーボードだった。しかしある日、そのスポーツで大怪我をしてしまう。スノーボードが出来ない中で、彼は鬱に落ちていった。やがて新型コロナウイルス(COVID)によるロックダウンが始まり、彼は痛み止めの薬中毒になっていた。電話越しに彼を心配する彼女は救急車を呼ぼうとするが、やめてくれと言われる。それから彼からの連絡が途絶えた。彼の死は彼女を暗闇に突き落として歌を奏でることも出来ない日々が続いたという。自分を責め続けたが、そんな彼女を連れ戻してくれたのは、死後の世界を信じたことだったと語る。自分の父親と彼は一緒にいるんだという慰めに縋ることで、彼女は少しづつ自分を、そして音楽を取り戻していった。

エスリッジの音楽を堪能しながら、彼女が人生の浮き沈みをオープンに語る舞台は2時間30分という、ブロードウェイ作品としては少々長尺であるが、彼女のファンでなくとも飽きることはないだろう。(9/29/2023)

Circle in the Square Theatre
235 West 50th Street
公演時間:150分(休憩あり)

舞台セット:8
衣装:9
照明:9
総合:9
@Jenny Anderson
@Jenny Anderson
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