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舞台はマンハッタン。間もなく取り壊されようとしている煉瓦で作られた古い家の屋根裏に家具がギッシリ詰め込まれている。この家で育った二人の息子、ウォルターとビクターはこの建物が壊されるため、亡き父親の家具を処分するために、ここに集合することになる。
まず現れたのは、一人の警察官のビクターだ。子供時代を過ごしたその部屋で懐かしい気持ちで家具を眺めているところに、ビクターの妻エスターが現れる。ビクターは大恐慌で破産した父親のために、科学者になる夢を諦め大学を辞めて警察官になった一方、妻エスタ―は50歳を過ぎても未だに自分が好きなことに新しい一歩を踏み出せない夫と、いつまでもお金持ちになれない生活に不満を持ち、アルコール中毒になる一歩手前だ。
そんなビクターとエスターの前に現れたのは古董家具売買をしているグレゴリー・ソロモンだ。89歳になる老人だが「この歳で今さら利益を上げる必要はもうない」とか「古董家具の前で情緒的になっちゃダメだ」、「警察官なら世の中というものを知っているだろう」などと言葉たくみに家具を安く買い叩く。
そしてその商談がソロモンに有利にまとまろうとする寸前に、もう一人の息子ウォルターが現れる。ウォルターは大学で勉強を続け外科医として成功した。実は16年間音信が途絶えていたウォルターに、ビクターがここで落ち合おうと電話メッセージを何度も残していたのだ。3人の短い挨拶の後、ウォルターはソロモンの売値は安すぎると言い出し、そこから過去のわだかまりに話が発展していく。
親を養うために学業を諦めたビクターは、大学を出て成功したウォルターに不満がある。それはウォルターは経済的余裕があったのにも関わらず、月々5ドルしか家に仕送りをしなかったこと、そして自分が学業を続けたいと借金を頼んだ昔、それを冷たく断ったからだった。ウォルターは自分は単に成功を目指して確かにお金と地位は手に入れたが、その一方精神を病んでしまい、自分の妻まで殺そうとしたのだと告白し、ビクターこそが真実の人生を選択したのだと言う。そして自分が関係している研究所のポストをオファーする。しかしウォルターをまだ許せないビクターは、経験も知識もない自分にそんなポストなど務まるわけがないと断る。
二人の言い争いはさらにエスカレートし、ビクターは父親の世話をしていた本当の理由は、大恐慌で落ちぶれて誰も信じることができなくなっていた父に、まだ信じられる息子がいることを知って欲しかったからなのだと告白する。しかしウォルターは、父親は最初から家族を信じ合えるような人間になど育てようとはしていなかった、ただ成功するように育てていたのだと言う。そして、実は父親が4000ドルに近い大金を隠し持っていて、ウォルターにそれをうまく投資するようと頼んだことを明かし、ビクターはそんな父親にうまいように利用されていたのだと言い放つ。だから自分は借金の申し出を受け入れなかったのだと言うウォルター。ビクターはウォルターに何故それを今まで教えてくれなかったのかと責めるが、同時にふと父親のある日の笑い声を想い出す。それは、ビクターが「お金は本当にもうどこにもないの?」と椅子に座っていた父親に嘆願するように訊いた時、父親が放った笑声だった。それがどういう意味の笑いだったのか、いつまでも不思議でどうしても突き止められなかったのだ。
最後にウォルターは、ビクターがいくら頑張っても「僕に二度と罪悪感など感じさせられないぞ」と大声で断言して立ち去っていく。ウォルターが居なくなり、ソロモンは最初の安値ですべての家具をビクターから買ってしまう。皆が去った屋根裏部屋で誇らしげに自分のものになった多数の家具を眺めるソロモンは、彼らの父親が座っていたという椅子に座り、いつまでも一人笑い続けるのだった。
主演ビクター役は主に映画で知られるマーク・ラファロ。ラファロは2006年の『Awake and Sing!(覚めて歌え!)』でトニー賞助演男優賞にノミネートされている。今回の舞台は当初予定されていた俳優ジョン・タトゥーロが映画の撮影で出演できなくなったため抜擢された。ウォルター役にTVシリーズ『Monk』で知られるトニー・シャルーブ。ビクターの妻にテレビ、映画、舞台と幅広く活躍するジェシカ・ヘクト、そして古董家具売買をするグレゴリーに、エミー賞受賞俳優ダニー・デヴィート。4人の役者の見事な演技に呑まれてしまうが、特にデヴィートはブロードウェイ・デビューだが、さすがに俳優としてはベテランだけある。笑いの間が素晴らしく、見ているだけでおかしい位で、アーサー・ミラーのともすれば意気消沈する作品をユーモラスたっぷりに笑いで盛り上げてくれた。演出は俳優としても知られるテリー・キニーだ。
American Airlines Theatre
227 West 42nd Street
尺:2時間20分(15分の休憩含む)
舞台セット ★★★★★
衣装 ★★★★☆
照明 ★★★★☆
総合 ★★★★★
Photo by Joan Marcus, 2017
Photo by Joan Marcus, 2017
Photo by Joan Marcus, 2017