Oedipusオイディプス

Oedipus
オイディプス

演劇 ブロードウェイ
Oedipus
オイディプス
Oedipusオイディプス

2024年にウエストエンドで大ヒットし、2025年ローレンス・オリヴィエ賞で三冠を受賞した話題作『オイディプス』が、ブロードウェイへと到達した。 これは、ソフォクレスの古典悲劇をロバート・アイクが現代の政治スリラーとして再構築した舞台である。選挙戦の最終夜を舞台に、権力、運命、そして隠された真実がリアルタイムで交錯し、息詰まる緊張の中で物語が展開する。

本作を手がけたロバート・アイクは、古典を大胆かつ鋭く現代化する演出家として国際的に評価されており、ニューヨークでは、2022年の春に彼が手がけ、オフ・ブロードウェイで公演された『民衆の敵』(イプセン)が記憶に新しい。

『オイディプス』はまずオランダで2018年に初演され、その後2024年に英語版としてウエストエンドで上演され、批評家から絶賛された。2025年ローレンス・オリヴィエ賞では「最優秀リバイバル作品賞」「最優秀演出賞」「最優秀女優賞」の三冠を獲得し、2025年10月よりブロードウェイに進出した。

アイクは物語の核である運命、父殺し、禁忌の関係を残しつつ、それらが現代的な戯曲として自然に発露するよう脚色している。パンデミックは Covid-19 を連想させ、国籍疑惑はオバマ政権期の議論を思わせ、元夫が話題になるところは、トランプ大統領の元奥さんと内閣の一人ロバート・F・ケネディーが結婚していることもあり、神話と現代の政治状況が重なっているのも面白い。

舞台は選挙本部でリアルタイムにストーリーが進行していく。『レマン・トリロジー』の舞台装置を担当したヒルデガルト・ベヒトラーによるもので、ミニマルながら緊張感を重視しており、壁には支持率グラフやリアルタイムの開票速報が映し出され、結果発表までの残り時間を刻む巨大なデジタル時計が空間を支配する。この戯曲の休憩なしの2時間が、舞台の投票結果の時間と同期するよう構成されており、観客は「選挙戦の中枢」にいるかのような臨場感を味わう。

イオカステ役を演じるレスリー・マンヴィルは本作のロンドン版でオリヴィエ賞最優秀女優賞を受賞したが、過去にはトニー賞、アカデミー賞でもノミネート経歴は多く、幅広いキャリアを持つ実力派だ。オイディプスを演じるスマーク・ストロングと共に、心理的にも肉体的にも非常に濃密な夫婦の関係を創り上げている。

老婆の母親を演じるアン・リードは、英国のテレビから映画までを支え続けてきた名優だ。90歳という歳にもかかわらず、そのユーモアと端正さを両立させた演技に惹きつけられた。

また、クレオン役のジョン・キャロル・リンチは映画『ファーゴ』やテレビドラマ『ジ・アメリカンズ』などで知られる俳優だが、今回がブロードウェイ初出演。兄を支える立場でありながら、不安の影を抱く弟としての複雑さを、抑制された演技で静かに浮かび上がらせている。

本作は2025年11月末時点で累計興行収入は380万ドルを超え、平均稼働率は98%に達している。ウエストエンド版の成功がそのままブロードウェイへと波及していると言える。

総評

勝利に酔いしれたオイディプスが軽率な言動を重ね、忠告しようとする母親さえ遠ざけてしまう姿は、権力の高揚がいかに人を盲目にするかを示している。そして、手にした権力を失う恐怖に囚われ、長年支えてきた者まで排除しようとする。権力を手にした時、人の愚かさ・傲慢さ・脆さが否応なくあぶり出され、古典悲劇の力を今日の観客に鮮烈に提示した演出である。

選挙本部の祝祭ムードが高まる一方で、過去の罪がじわじわと影を落としていく構造は、物語全体に重層的な緊張感を与えている。やがて真実が明らかになるにつれて、運命は皮肉にも一気に奈落へと転じ、その急落ぶりは現代スリラーとしても見応えのある効果を放っている。

劇的な最後のシーンで暗転後、時は過去に遡る。選挙運動を始める前、未だ何もない新しい空の本部を夫婦が訪問する場面が一瞬描かれる。彼らの栄光と破滅が表裏一体であることを象徴的に示す仕掛けとも言えるが、やや冗長にも感じられた。

<観劇するにあたって>

ギリシャ神話を知っている観客は、真実がいつ暴かれるのか、という予見的スリルを楽しめる。アイクは「今日の観客に対して、誰もが結末を知り尽くしてしまう前の、原作が持っていた衝撃と即時性を再現すること——それが課題だった。」と語っている。観客の知識によって体験の異なる作品ということだろう。以下は、今回の現代版の『オイディプス』の詳細である。

あらすじ(ネタバレ)

民衆の間で疫病が広がる中、圧倒的支持を得るオイディプスは、選挙の大勝目前のインタビューで、妻イオカステの元夫ライオスを殺害した犯人を調査すること、さらに自身の国籍に対する疑惑を晴らすことを宣言してしまう。だがそれは本人がまだ知らぬままに、自らの「過去の罪」へ踏み込む行為そのものであった。

熱気に包まれる選挙オフィスに盲目のホームレスが侵入し、不吉な予言を告げる。激昂したオイディプスは、この侵入を弟クレオンの仕業だと決めつけ、長年自分を支えてきた彼を解任すると言い出す。

イオカステとの間にもうけた4人の子どもたちがお祝いに集まる中、夫婦の過去は徐々に明らかになっていく。オイディプスは、若い頃に運転中のトラブルで激怒し、怒りに任せて相手を強く殴って、その場を去ってしまう。そして今、相手の車にいた男はそれで死亡したこと、そしてその相手こそライオスであったことを知る。

さらに、妻イオカステは13歳の時に妊娠し、生まれた子どもを森に置き去りにした過去を思い出す。そしてオイディプス自身も、母親だと思っていたメロペから、自分は「捨子」だったと知る。
こうして、実の父を殺し、実母と結婚して子供をもうけたという恐るべき真実が、リアルタイムで露呈していく。栄光の頂点に立とうとするその瞬間、夫婦二人は封じ込めてきた過去の罪に突如として直面し、運命はもはや修復不能な亀裂を生み出していく。

(11/18/2025)

あらすじ&コメント

Studio 54
254 West 54th Street, New York, NY

上演時間:約2時間(休憩なし)
公演期間:2025年11月13日〜2026年2月8日(限定14週間公演)

舞台セット:9
衣装:7
照明:8
キャスティング:9
総合:8
@ Julieta Cervantes
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