ローリング・ストーン
あらすじ&コメント
この作品、英国での2015年の杮落としの後、今年2019年6月にウェストエンドからオフ・ブロードウェイにやってきた。舞台となったウガンダでは2010年当時、同性愛は違法とされ、ゲイの疑いがある人の通報も義務化されていた。そして有罪となれば死刑や終身刑になっていた。ちなみに現在でも刑罰が軽減されつつあるとはいえ、違法であり刑務所入りは間違いない様だ。
そんなウガンダで暮らす18歳の学生デンべは、父親を失って経済的に厳しい中、ホテルの掃除婦となって家計を助ける妹と、教会の牧師となって彼を支援する兄ジョーと慎ましく生活していた。ある日、市場を歩いてて気分が悪くなり、見知らぬ男性の医者サムに助けられる。それがきっかけで二人は強く惹かれあうようになる。だがそれは禁断の愛だった。
そんな中、デンべやサムを支援していた社会活動家のデイビットが、ローリング・ストーン紙に写真入りでゲイとして暴露され、その為に過激な市民の手によって自宅で虐殺される。その少し後には恋人サムの家が荒らされて、デンべの写真が入った携帯が盗まれてしまう。「ここに居るのは危険だ、すぐに逃げよう」とサムはデンベを誘う。しかし若いデンべにとって、家族と別れることは簡単な選択ではなかった。
女優マイラ・ルクレシア・テイラーが演じる脇役の「ママ」は重要な登場人物だ。ママは若い頃、未婚のまま娘ナオミを生んでいた。その為周囲から見下され苦労したが、長年の努力でデンベの住む地元では一目置かれる存在になっていた。その娘ナオミは年頃になっていたが、こともあろうに半年前、デイビッドの子を身ごもった。それを知ったママは、ナオミに中絶をさせる。ママはこれまで人一倍大きな声で教会の教えを唱えて周囲の信頼を勝ち取ってきたのだから、彼女にすれば必然だったのだろう。しかしそれ以来、ナオミは言葉を失い、喋ることができなくなってしまったのだった。
明るく朗らかで自分の信心深さや世の中の良心の大切さを高らかに唱えるママは、その一方で権力や多数派につくことで自分の身を狡猾に守ってきていた。そんな複雑で深淵な人間の性(サガ)を、マイラは巧く演じていた。
そうこうしているうちにローリング・ストーン紙に、「絞首刑」という見出しで100人のゲイ疑惑の男性名と住所が公開される。そこにはデンべも写真入りで含まれていた。それを読んだママはジョーが居る家に飛んできて、デンベを警察に連れて行くと迫る。とそこにデンベが帰ってきて鉢合わせになる。しかし彼は、「ゲイ疑惑など全くの嘘だ」とママとジョーに言い張るのだった。
その後、デンベとサムの本当の関係を知る妹は、ジョーに真実を告げる。最早ウソなど通用しないほど事態は切迫しているのだから。神を語る牧師であり、教会でゲイを卑しい行為と説法するジョーは激怒した。
そこへサムと逃げる決心をしたデンベが、最後の別れを告げに戻って来る。
ジョーと口論となりはデンベは「なぜサムを愛してはいけないの。」と泣き崩れる。
そうこうしている間にも、新聞を読んで興奮した市民は、テンベ達の家にも向かっていた。もう、すぐそこまで迫っている。デンベと兄ジョー、そして妹の3人は、もはや逃げられないと悟り、部屋の中央で手を繋ぎ一心に祈るのだった。
舞台が暗転して終わる結末は、今年トニー賞を受賞した演劇『フェリーマン』を思い出させる。しかしそこまでスリリングで幻想的、かつ緊迫した状況は表現されていない。こんな終わり方でよかったのだろうか。物足りなさを覚えてしまった。たとえば暗転直後にローリング・ストーン紙を引用するような形で「デンべは市民の手により自宅で処分された。兄と妹はデンベを庇った罪で収監され、サムは街で暴徒の袋叩きにあって殺害された」などと淡々と紹介して終わるのはどうだろう。ウガンダに生きる同性愛者の現実を紹介するのにあたり、彼らの最期を示して終われば、観客のインパクトはより強かっただろう。
アフリカの同性愛者への嫌悪は、白人による植民地政策の名残りだと著者は言っている。キリスト教会が率先してホモフォビア(同性愛嫌悪)に油を注いできたのがその理由だろう。しかしそれ以前の昔から、同性愛への嫌悪感が強く存在していたらしく、土着の宗教や文化の影響だと唱える人もいる。
2015年の時点で、ゲイを死刑に処するアフリカの国は、4カ国。犯罪とする国は38もある。アフリカで同性愛者が、命を脅かされずに生きて行けるようになるのは、遠い未来の話なのかも知れない。 公演期間: 7月15日〜8月25日 2019年
07/25/2019
Mitzi E. Newhouse Theater
150 West 65th St.
上演時間:1時間55分(休憩一回)