The Shark is Broken サメが壊れた

The Shark is Broken
サメが壊れた

演劇 ブロードウェイ
The Shark is Broken
サメが壊れた
The Shark is Broken サメが壊れた

先頃巨大ザメの映画「MEG2」が公開されたが、この手の作品は皆、多かれ少なかれスティーヴン・スピルバーグ監督による1975年の名作映画『JAWS/ジョーズ』の影響を受けていると言っていい。その『JAWS/ジョーズ』の撮影現場の様子をコメディータッチで描いた戯曲が『サメが壊れた』だ。

あらすじ&コメント

『JAWS/ジョーズ』は当時、新進気鋭の監督だったスティーヴン・スピルバーグを一躍有名にして数々の賞をとった作品だ。だがその撮影現場は輝かしいものなどではなく、困難の連続だったようだ。というのも当時の映画における海でのシーンは、スタジオで撮るのが当たり前だったところを、新人監督スピルバーグが大型模型を駆使した海でのロケを敢行したためだった。今では当たり前だが当時としては大冒険だったこの試みの結果、次々に予想もしなかったトラブルに見舞われたらしい。それでも数々の苦労を乗り越えて完成させたのが、米国映画史に残る大作『JAWS/ジョーズ』だったわけだ。だがその成功の元となったスリリングなところやアクションにばかり注目が集まり、登場人物の関係性を重視して、その背景を簡潔に描くスピルバーグらしい手法が注目されることの少ない作品でもあった。しかし今回紹介する『サメが壊れた』は、かの名作に登場する出演俳優たちが描く人間関係の裏には、こんな事実もあった、というセミドキュメントとなっている。

映画で、主役の保安官や海洋生物学者を乗せて海に繰り出す一匹狼の船長を演じていた名優ロバート・ショウの息子イアン・ショウが、本作品の脚本を書いている。彼は多彩で音楽家としてこの世界に入ったのち、俳優から脚本家となったのだが、亡き父親が綴った日記を見つけたのを契機に、本作品を書き上げたそうだ。生前アル中に苦しんだロバート・ショウの日記を読むのは辛かったらしい。しかし『JAWS/ジョーズ』の撮影現場で繰り広げられた様子は、舞台にも共通する制作の醍醐味であり、イアン・ショウには父への追悼と同時に、映画制作の面白さを伝えたいという使命感もあったに違いない。

この芝居はロケ現場を舞台に、警察署長を演じるロイ・シャイダー役と、海洋学者を演じるリチャード・ドレイファス役と、船長を演じるロバート・ショウ役とが、コメディータッチで繰りひろげる三人芝居となっている。屋外撮影は、空気圧で作動するサメの模型を数個作って臨んだのだが、その大きさや自然の波や風、それに海水故の故障などが重なり、クルーは勿論、出演する彼らも悩まされる。専用の狭いボート上での撮影は、トラブルが続出。撮りなおしが繰り返され、撮影期間も予定の55日を遥かに超えて、3倍以上へと長期ロケ化していく。こんな事態は個性が強い俳優達にとっては厳しいものだ。ストレスが溜まっていく中、感受性が強い俳優リチャード・ドレイファスと、繊細故に飲んでばかりいるロバート・ショウとの間には、軋轢が生じていく。そして終には取っ組み合いの喧嘩となってしまう。二人とも自分の気持ちに忠実で、常に正直に考えを伝えようとするから衝突するのだが、やがては相手を理解し始め、次第に距離を縮めていく。そして互いに相手が抱える若い頃の心の傷にも触れる機会もあり、そんな両者の関係を一所懸命取り持つロイ・シャイダーとともに、三人は誰よりも心を許せる関係となっていくのだった。

背景と舞台上にプロジェクターで海が投影されていた。そこではボートに当たる波や、遠くに飛ぶ鳥などのが自然に描写されていて、波の音やカモメの鳴き声が聞こえてくるようだった。ロイ・シャイダー役を演じたのは、ミュージカル俳優で日本でも放映されたテレビドラマ『シカゴ・メッド』で外科医を演じていたコリン・ドネル。リチャード・ドレイファス役はミュージカル『ビートル・ジュース』『スクール・オブ・ロック』で主役を務めたアレックス・ブライトマン。ロバート・ショウ役は、本人にそっくりな息子イアン・ショウが演じている。脚本も彼が書いたのだから、父親への彼の想いは、ひしひしと伝わってきた。

なお誰が観ても深く楽しめる作品にはなっていないので、注意が必要だ。たとえば『JAWS/ジョーズ』のスリリングなところやアクションが好きで、舞台裏を見れると期待して行っても、当然だが映画と違ってクライマックスもサスペンスもなく淡々としていて、期待外れになる。挙句の果て、もっと話を膨らませろ、と思うのが関の山だ。しかし良く知られた映画と俳優達の話が、日記を元に忠実に作られているので、そんな派手さがないのは仕方がない。ただ残念だったのは、ロバート・ショウを真似たアイルランド訛りは判りにくく、またリチャード・ドレフィスを真似た早口は、聞き取り難かった。これを観ないと知り得ないだろうと思われる当時の状況に触れることはできるが、そこまでお得感があるとも思えない。巨大なサメ模型くらいは出てくるかも知れないなどと期待して行ってはいけない。

そこで観にいかれる方にお勧めしたい事がある。まず観たことがある人も無い人も、行く前に映画『JAWS/ジョーズ』を観て、映画そのものを自分の中で消化しておこう。映画史に残る名作だし、巨匠スピルバーグのより深い理解にも繋がるので損はない。もちろん映画を観た後、劇中の主人公の三人ロイ・シャイダー、リチャード・ドレイファス、イアン・ショウについて、Wikiなどの情報に触れておくのもいい。そうすれば親近感を持って数倍楽しめる筈だ。 (08/16/2023)

Golden Theatre
252 W 45th St.
公演時間:90分(休憩なし)
公演期間:2023年8月10日〜

舞台セット:8
衣装:7
照明:8
キャスト:7
総合:8
@Matthew Murphy
@Matthew Murphy

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